60話 危機、インサラウム村②
トッシュとアルがアカネを連れてローシャ市へ向かった直後、入れ替わるように一人の戦士がインサラウム村へやってきた。村長はトッシュから紹介されたと言っていた。また山賊やらが来た時の為の戦力、家財や農具の修理やその他雑用なんでも日給8000円で使っていいよとのことで。その戦士は村長からそう紹介されたと言われた直後は青い顔をしていた。ミサキは、村長と一緒にその戦士、ギラビィに村を案内する。
「ギラビィさんはトッシュさんとお友達なんですか?」
「んー?まぁ、そうでしたよ。今は仕事の上司ですけどね。ボクとギャミとトッシュさんで一緒に訓練受けてましたね」
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ギラビィは村の誰よりも強かった。こんな強い人が守ってくれるなら、村は平和だと信じられた。あのとき、この人がいてくれたら、姉は、アカネは…。
ミサキはアカネの様子がおかしいことに気付いていた。何かがあったのは間違いないだろう。山賊に2か月も攫われていたのだ、何もない方がおかしい。ただ、生きて戻ってきてくれたことは嬉しい。それでも、後悔をしてしまう。あのときこうしていたら、姉は無事だったのではないか…と。
「考え事ですか?ミサキさん」
「ギラビィさん…えぇ、姉のことを考えていて…」
帰ってきた姉の姿は、ひどくボロボロだった。しなやかな赤い髪はボサボサで、肌は荒れ、ムダ毛もそのままで、そして痩せこけて…なのにお腹だけはすこし大きく感じられた。ひどい飢餓状態の人のお腹が大きく見える絵をみたことはあるが…。
姉が療養しているローシャ市へ行きたい。しかし女の子の一人旅は危険である。かと言ってギラビィや村の自警団と一緒に移動するわけにはいかない。傭兵が守る商人に着いていくのはタダではないし、そんなお金は無い。トッシュたちが村に残したお金を個人で使うわけにはいかない。ただでさえ姉の療養費に分けてもらっているというのに。さらには王国南部広域に復活演説を放送したかつての魔王グランガイザスの出現、トッシュとアルが一緒にいる姉よりも自分たちの身の方が危険まである。
「今は村を出ない方がいい…なに、グランガイザスなんてすぐ死にますよ」
「そうだといいんですけど…」
そこに村の自警団の青年が一人、大慌てで村に帰ってきた。
「ギラビィさん!大変です!魔物が…!巨大なゾンビが!」
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ラファエルくんという外の人間の肉体を取り込むことで、地縛から解放されたジークは麓のインサラウム村を目指す。その村はジークが気に入っていたある少女の故郷である。奴隷として売らず手元に残し、ある日は自慢の23cmで犯し、またある日は社員に輪姦させる、本当に見てて心が癒される最高のかわいいペットだった。ガバガバの中古だろうが関係ない、絶対に取り戻すという強い決意のもと、ジークはアカネを目指す。
「なんだァ…?このイ「ジーク社長の復活を祝ってんのかこの骨どもは…?」
道中、ジークに襲いかかる魔物がいた。それはトッシュがインサラウム村を守護するために配備したアンデッドソルジャーたち。骨の守兵、臓腑の槍兵、魂の剣兵など配置された彼らは、ジークを脅威と判断して土から這い出て攻撃を仕掛ける。
しかし強靭な意思の力から来る支配力はトッシュの支配を上書きし、アンデッドたちを己の肉と骨と霊力へと変換してしまう。単純なプログラムでしか動けないアンデッドたちはただただ自らを構成するパーツをジークに献上するしかできない。それはまるで彼らアンデッドの王の復活を祝福し、己自身を献上するかの如し。アンデッドの皿である。
「やべぇ!アンデッドを取り込んでやかる!」
その脅威を見た自警団たちは急いでインサラウム村へと逃げ帰ったのだ。彼らは村の最強戦力ギラビィに戦闘か遁走か、その判断を仰ぐ。が、その判断をする時間は無かった。わずか数分後には巨大な影が村に近づいてくるのが見えた。
時刻は黄昏時。夜の影が世界を覆いつくさんとする、死者の時間がゆっくりとインサラウム村へとにじり寄る。いや、夜の影が来る前に、ジークの巨大な影が、村を覆いつくさんとしていた。