60話 危機、インサラウム村①
ラファエルくんは以前自分が就職していたゴート商会、またの名をゴート山賊団が攫って犯して奴隷として売り払った少女たちを追っていた。が、取引先の情報はそう簡単には得られない。奴隷は王国の法律では一応禁止ということになっていて、下手にチクられたら罰金といった取り締まりを受けるかもしれないので、基本仲介業者を間に立てて取引をしている。今回仲介業者として間にいたのは(株)わくわく人材派遣センターと呼ばれる企業なのだが、当然突撃したところで顧客の情報は渡してくれないし、潜入も容易ではない。
「お前らの社長が取引の情報持ってんじゃね?」
悩んでいたラファエルくんに差し伸べたマッドドクター・ギロチネスの救いの言葉。確かにゴート山賊団の社長ならば、顧客の情報を持っているかもしれない。仲介業者を間に立てるというのは所詮建前、顧客が信用できる企業かどうか、やはり自らで調べて判断するのも企業として当然なのだ。
「うへぇ…死臭がする…」
トッシュとアルが壊滅させたゴート山賊団の秘密社屋。当然トッシュたちが始末した山賊団の社員たちが骨や地面の染みに化けて異臭を放っている。獣の糞や虫が湧いた痕跡もある。こんなとこ、できれば来たくはなかったのだが。
秘密社屋の最奥の部屋、社長室へとやって来たラファエルくんは、まずデスクの周辺を漁る。金目のものはトッシュたちが持って行ったのでもう無いのだが、金にならなさそうな書類は残っていた。手元のランプで書類を照らす。直近の顧客は、王国の暗部との取引を噂される脛に傷のある企業だった。そこがどうやら王国の秘密機関…委員会と俗称されるとこに奴隷少女を卸したということがわかった。あとはこの委員会が何なのか調べれば…。
「GYAOOOO!」
「なんだ!?…ゾンビ!」
「UGYAAAAA!オノレオノレオノレオノレ!俺は死なんぞ支配されんぞ俺はまだ俺だぞ!まだ足りない足りない足りない足りない!金女金女金女ァ!」
その暴力的なビジュアルはもはや人のそれではない。腐り落ち液状化した肉を強靭なForce of Willで身から落とさないように維持し、腐臭をまき散らすその姿はまさにモンスター!
「その声!社長!?」
何度も何度もあの声に折檻されてきた。お前さっさと女連れてこいやこの給料泥棒が!とかどうすればいいんですかと聞いたらそれを考えるのがお前の仕事だろうが!とかまぁいろいろ嫌な思い出がよぎる。そんな社長がなぜかゾンビになっているではないか。おそらく無念の死を遂げた社長は死んでも死にきれずゾンビになったということだろうかとラファエルくんは推測する。実際はトッシュの仕業なのだが、まぁそれを知る由もない。
とにかくゾンビならば遠慮はいらない。いっぱい憂さ晴らしさせてもらう!この義手に込められた魔力でじわじわと焼き払って…焼き…?
「アアアアアアア!ここで燃やしたら酸欠になってしまう!ならば衝撃で破壊…だめだ落盤するかもしれない!ここは逃げるしか…」
しかしゾンビとなったジーク社長は頭が良い。この社長室の入り口は一か所。社長は入り口を塞ぐように立ちはだかる。下手に前に出たらすり抜けて逃げられるかもだから。
(社長は動かない?なら今のうちになにか手を考え…!?)
猶予があると安堵したのもつかの間、足元に絡まるうじゅうじゅした肉でできた紐みたいな物体。それはジーク社長の腹から漏れ出す腸が、まるでモンゴリアンデスワームのごとく掘り進んだ地面からラファエルくんの足元に出現し絡めとったのだ。
「WAHAHAHAHA!貴様の肉体を支配して俺はここから出るのだアアアア!」
ジーク社長は地縛ゾンビと化していたためこの地から離れることができない!しかし外から来訪してきたラファエルくんの肉体を取り込むことでその呪いから解き放たれるのだ!狙うはこの山の麓にあるインサラウム村!しけた村だがまずはそこでおいしい食事!いい女と交尾!そのままふかふかのベッドで睡眠!人間の三大欲求を満たすことで生者としての性質を取り戻し、この呪いから自由になるのだ!
「さあGo ahead!これで俺は自由だアアアア!」