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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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9話 交叉する剣、別離する道

(む…。この顔…!この顔を知っているぞ!これは覚悟を決めた男の顔だ!まだ勝負を捨てていない!それでこそ我がライバル!やはり【クロス】を使わねばならんか!)


 思えばギャミもまたこのような表情をしていたのかもしれない。あの決勝戦以来の本気で負けられないトッシュとの戦い。これを制するために生きてきた。ギャミは奥義のさらなる極みを使う決意を固める。トッシュの表情、きっと何か手があるに違いない。それを真っ向から叩き潰す!


(鎌鼬ブレイク。奴の剣が纏う衝撃波は無刀取りをしようものならこの両手がズタズタだろう。技の出を潰すにも距離がありすぎる。この距離は奴の距離だ。俺の全てを見せるしかない!)


 トッシュは脇が前に構えた右手の剣に左手を添える。さきほどまでの守りの姿勢ではなく、勝つための攻めの姿勢!右手の暗黒新陰流と左手の暗黒真拳、二つの闘法を合わせたトッシュのオリジナル創作奥義、名付けて【二闘流にとうりゅう】!剣と拳を組み合わせた変幻自在の闘法!


「ギャミ!いくぞおおおおああああああ!!!」

「うおおおおおおお!ぶった切ってやるううううう!!!」


 トッシュが飛ぶ!同時にギャミが剣を振る!先ほどの連射した鎌鼬アローとは比較にならない、全力で振り下ろした鎌鼬ブレイクと同等の威力を持った真・鎌鼬アローが迸る!


「!」


 それだけではない。真・鎌鼬アローの真後ろを跳ぶギャミの姿があった。真・鎌鼬アローの真後ろにつくことで空気抵抗を受けずに120%の速さで飛んでくる!この速度から繰り出される真の鎌鼬ブレイクは先ほどの制止した状態で使ったものよりも威力が増しているのは間違いない。速さ×質量=破壊力!


(いまさら退けん!うおおおおお!)


 刹那で迎撃プランを構築!脇構えからまず左手を離し左肘で真・鎌鼬アローを弾き、その勢いのまま片手で剣を振り真・鎌鼬ブレイクを弾く!勢いは殺さずそのまま全身を回転させ右脚でギャミの首を…折る!しかし思い通りに事は動かないのが世の流れ。ギャミの真・鎌鼬アローに重ねるように繰り出されるギャミの真・鎌鼬ブレイクに、トッシュは自らの左腕がグッバイ!してしまうと直感し、脇構えの剣で迎撃する!この守りの姿勢に移ったのが敗因なのだろうか。もしかしたら左腕を犠牲にすることで勝つことができたかもしれない。しかしトッシュにそこまでの覚悟は無かった。咄嗟の命惜しさから生まれた守りの姿勢が勝敗を分かつ。トッシュの剣に真・鎌鼬アローと真・鎌鼬ブレイクが交叉しXを刻む!


「重ね…鎌鼬!」


 これがギャミの奥義の極み!飛ぶ斬撃の鎌鼬アローに飛び込む斬撃の鎌鼬ブレイクを重ねることで、その交点に生じる破壊力は10倍にはね上げる!ズバアアアアン!Xを刻まれた剣はその超破壊力に粉砕される!さらに重ね鎌鼬の生み出す圧倒的破壊力の小宇宙がトッシュの全身を刻み吹き飛ばし地面に叩き落した!


(ま、負けた…)

(…勝った)


 意識が遠のくトッシュの脳裏に思い浮かぶのは5年前の記憶。暗黒新陰流の全国大会決勝戦の翌日の日のこと。道場に呼び出されたトッシュは、師との最後の邂逅を果たしていた。

 ・

 ・

 ・

「トッシュ。昨日の大会、あれはどういうつもりか?」

「優勝を辞退した件ですか?…別に私は自分の強さを確認したかっただけです。それに付随する栄光などは不要だと思っただけです」


 半分本音、そしてもう半分は口にしない。優勝の地位を辞退することで目立っただろうなという割と不純な動機も含まれているのだ。こんなの師に告げれば怒られるのは目に見えている。


「ふむ。貴様と戦った決勝の相手、東北の獅子と謳われるギャミはそれをどう思っていた?」

「他人の心中を察することは得意ではありませんが、あの時のギャミはそれでもすぐにわかるほど怒っていましたね。彼も辞退していましたよ。おこぼれなぞいらんと」

「じゃろうな。貴様が価値を感じておらん優勝の地位…暗黒新陰流の伝承者の条件はまず全国大会での優勝経験があること。しかし全国大会優勝者など毎年一人誕生している。優勝自体にはそこまで価値は無いというのはたしかにワシにもわかる。なればこそ、貴様はその先を、価値あるものを目指すべきだとワシは思うが?」


 一理ある。だからこそ、トッシュはその先にある違う道を進む決意をしている。剣を極めたのなら、剣が無ければどうなるか。無刀でも負けない強さを望んでいる。


「私は新陰流の極伝を習得しています。私にとっての先は剣以外の道だと思います。暗黒真拳を学ぶことが我が道です」

「暗黒真拳。暗黒新陰流極伝無刀取りと同じ発端でうまれた拳法。その極意は新陰流と同じ無刀にある。…トッシュ、この道場、いや、暗黒新陰流全ての道場に張り出されている掛け軸、なんと書かれている?」

「…人を斬る事はあるまじきなり。斬られぬを以って勝ちとするなり」


 暗黒新陰流の道場にはすべてこの掛け軸が張り出されている。新陰流創始者が言ったとされるこの言葉の意味は何とするか。それが師の言いたいことなのだろう。


「つまり、剣に斬られれば敗北であり、人に斬られぬための鍛錬こそ肝要。極めたと増長し半端で辞めることは敗北の第一歩だと、師はおっしゃられたいのですか?」

「その言葉は【今の】貴様が辿り着いた結論じゃな。まぁ正解が決まっているものではない。ただ一つ言えることは、貴様は優勝者の中で最も伝承者に遠い位置にいるということだけじゃな」

「…創始者の出した結論とは違うというのはわかりました。では私は自らが出した結論に乗っ取り暗黒真拳の習得に参ります。これは投げ出しでは決してありません。私の道の続きなのです」

 ・

 ・

 ・

(俺はギャミに斬られた…暗黒新陰流、暗黒真拳、スーパーチタニウム合金の剣、そして俺が作った二闘流…

 すべてを打ち砕かれた…。ギャミ…お前はあの時の怒りでここまで強くなったんだな…あの時お前を怒らせなければ俺は…っ!)


 そう、すべてはあの5年前のあの日、トッシュの増長がギャミという剣鬼を生み出した。


 人を斬る事はあるまじきなり。斬られぬを以って勝ちとするなり。


 無刀とは、必ずしも相手の刀を奪うという意味のものではない。刀を取って見せて、それを手柄にしようというものでもない。刀を持っていないときに、相手に切られまいとするための無刀の術、その極意は斬られないために最も必要なこと、つまりは相手に刀を抜かせないこと。戦わずして勝つことである。斬られなければ勝ち。生きることこそ勝ちであり、無刀の極意である。


 それは創始者が言いたかったこととは違うのかもしれない。しかしトッシュが死の淵で辿りついた結論。いままで自らが奥義だとしていた【二闘流】が、トッシュの辿り着いた極意により昇華された。


「トッシュ…まだ立つのか」

「あぁ…剣はお前の方が上だった。けどな、勝つのは俺だ…暗黒真拳・集気法!」


 トッシュは体の中で闘気を練り、肉体の回復力を促進させる。あくまでも自然治癒の範囲でしか回復できないが、失血を防ぐことはできる。そのかわり、闘気を激しく消耗するため濫用はできない。とくに軽微のダメージならば問題ないが致命的な傷を受け闘気を激しく失った状態では一度使うだけでいっぱいいっぱいだ。


「あぁ…おかげでクラクラする。立っているだけで精一杯だ。次斬られたら間違いなく死ぬわ…」

「そうか、なら死ね。鎌鼬アロー!」


 ヒュンと斬撃が飛ぶ。当たれば死ぬ。当たれば、の話だ。トッシュには当たらない。


「…何をした貴様!?」

「ギャミ、俺は師に言われたんだ。おまえは最も伝承者に遠いとな。ある意味ギャミ、お前が伝承者に相応しいのかもしれない」

「何を言っている…?」

「辿り着いた。これが俺の、暗黒新陰流と暗黒真拳の奥義だ。お前のおかげだ、お前は優秀な師匠だ。そうだな…【無闘流】とでも名付けよう」

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