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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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プロローグ

ヒュンケルとミストバーンの関係が好きなのであんな感じで書けたらいいなって。

「なぜだ!勇者ジャスティスの子と謳うならば、なぜ人間へ牙を向ける!」


 その日、魔王の軍勢が王国へと侵攻した。その軍を率いる魔王の配下は人間である。その名をトッシュと言う。18年前魔王を打倒し姿を消した勇者ジャスティス。その忘れ形見である一人の男の子がいた。トッシュは勇者ジャスティスが残した世界の希望。のはずだった。


「なぜ?…王よ、貴方はそれを聞かずともわかっているでしょう」


 魔王軍を構成する軍の一つ、不死の軍団。その軍団長、トッシュ。彼は自らに問う王にそう答えた。王に心当たりが無いはずがない、その理由。


「これは復讐です。貴方たち人類に裏切られ殺された我が母ジャスティスの仇です。殺らせていただきます」

「やめ…」


 王が制止を言い切る前に、王の首を地に落とす。頭を失った王は首から勢いよく血を噴き出した。この血の噴水はトッシュの復讐の始まりを告げる狼煙である。母ジャスティスの命を奪った王と、かつてのジャスティスの仲間たち。こいつらを殺すためにトッシュは今日まで生きていた。


 ~18年前~


「グワアアア!不死身と言われたこの魔王を滅ぼすとはあああ!!!」

「これでおわりだああああああ!」


 聖拳の勇者ジャスティスの拳が魔王の核を貫いた!この拳こそ最強の正義の証!魔王を滅ぼす無二の聖剣ならぬ聖拳!


「やった!やりやがった!さすがジャスティス!」


 力自慢の戦士グレゴリオ。脳ミソまで筋肉でできた、つまり全身が脳ミソと言える筋肉男。


「すごいわお姉さま!ボクもうたまんない!」


 ジャスティスを慕う僧侶サン。幼い身ながら術法の才能は教会でも屈指の13歳のボクっ娘。


「…」


 そして黒騎士アッシュ。仮面に隠した表情は誰も見たことが無いという謎の騎士。


「やったよアルベルト!君の仇を…ついに倒したよおおおお!」


 勇者ジャスティスは、ついに恋人の仇である魔王を倒したのだ。涙を流しながら叫ぶジャスティスの姿に仲間たちももらい泣き。そしてまだこの頃のジャスティスは気付いていないが、そのお腹には新しい命が、恋人との間にもうけた子供が宿っていた。恋人…今の恋人であるグレイとの子が。そう、後のトッシュである。


 ~14年前~


「ハァ!ハァ!」


 森を駆ける二人の人影。一人は齢20代中ごろの女性。ふわふわしたウェーブのかかったかわいい髪、おっきな目をさらに際立たせる赤いアンダーリムのメガネ、きりっと釣りあがった意思の強さを感じさせる瞳、太めの眉は自然な美しさを醸し出す。村でも評判の美人妻である。かつて勇者ジャスティスの名で魔王を討伐した過去を隠し、彼女はとある村で平和に暮らしていた。しかしその平和は覆る。守ったはずの王国に裏切られた彼女は、グレイとの子を連れ村から逃げ出したのだった。


「うわぁあああん!こわいよおおおお!」


 ジャスティスに抱きかかえられ泣きじゃくる子供の名はトッシュ。ジャスティスにとって自らの命より大事な宝物。この子を何としても守らなければならない。そのためにジャスティスは勇者の称号を捨て、人類の敵になる覚悟を決めなければならない。


「そんなこと…アタシはどうすれば…」


 そんな覚悟を簡単に決められるものではない。一先ずジャスティスは逃亡する。しかし王国の追手からいつまで逃げ切れるだろうか。だが、今はとにかく逃げるしかない。明日のことは明日の自分にまかせて今の自分の精一杯をしなければならない。ジャスティスは全力で逃亡する。


 ヒュン!


 風を切る音が聞こえた。その時には既に手遅れだった。ジャスティスの足を一本の矢が貫く。バランスを崩しジャスティスはその場で転倒する。


「な…!こんな森の中で!まさか!?」

「そうです。私ですジャスティス。」

「あなたは!」


 ジャスティスの足を射抜いたのは狩人マスターのジム。ジャスティスと一時期行動を共にした弓の達人である。森という遮蔽物の多い環境でも得物を的確に打ち抜く彼は森の英雄と称えられている。


「失望しましたよジャスティス。あなたが王国へ反乱を企てているとは」

「何を言っている!アタシはそんなこと考えていない!」

「…でしょうね。しかしこうしなければならないのです。あなたさえ囚われてくれればその子は見逃しましょう。さぁ裏切り者ジャスティスよ、神妙にお縄につくのです」


 ジムは自らに言い聞かせるようにジャスティスを裏切り者と呼び、投降を呼びかける。ジャスティスを捕らえる際は生きたまま、手足は無くなってもいいが生殖能力だけは奪わないよう腹を攻撃はしてはいけないとのお達しであるが、それが投降を呼びかける理由ではない。非の無い者へ矢を向けるのは極力やめたいのだ。脚を封じれば逃げる能力も無い。もうこれ以上は勇者を攻撃したくない。


 ジャスティスは考える。本当にジムはトッシュを見逃すだろうか?しかし足を射抜かれ今も目の前で弓を構えられているこの状況では逃げることはほぼ不可能だろう。殺そうと思えば殺せる状況でこう言ってくれているのは、本当にそう思っているのかもしれない。


「…わかったわ。この子だけは助けてちょうだい」

「わかってます。サム、この子を連れて逃げなさい」


 弓使いサム。森の英雄ジムの従者。彼はトッシュを連れて行こうとする。が、トッシュはジャスティスにしがみついて離れない。


「いやだいやだ!おかあさん!おかあさんといっしょがいい!もうわがままいわないから!ちゃんとおかたづけもするから!」

「ごめんねトッシュ。強く生きるのよ。復讐なんて考えたらダメよ。しあわせに…しあわせになるのよ」

「うわあああん!」


 トッシュはジャスティスから引き離され、サムに連れられ森を往く。トッシュは離れていくジャスティスに必死に手を伸ばすが、ついに視界から消えた母の姿にもはや泣く事しかできなかった。


(すまないトッシュくん。こうしなければ我が一族は滅ぼされてしまうのだ…許せとは言わん。復讐するなと君の母は言っていたが、君が望むなら、その時はすすんでこの首を差し出そう。だからせめて復讐は私だけにしてくれ…)


 ジムはジャスティスを拘束しながら未来のトッシュの姿を考える。きっと復讐に来るだろう、と。そしてその未来予想図は現実にはならなかった。


 ~13年前~


「誰…?」


 雨の中、トッシュの目の前に謎の人影が現れた。一年前、母から引き離されたトッシュは活気を失っていた。母を失い、父も消息が知れず、そして贖罪として自らを育てた森の一族もまた王国に亡ぼされた。森の英雄ジムは最後にこう言ったという。


「この首はトッシュくんに差し出すものだというのに…無念だ…」


 しかしそんなことはトッシュが知る由もない。トッシュは森からも投げ出され、とある街の貧民街に流れ着いていた。しかし幼い子供が流れ着いたところで助けなど無い。はずなのに、その影はトッシュを抱き上げる。久しぶりに感じるぬくもりに、トッシュは懐かしさを覚えながら意識を失った。


「気を失ったか、勇者の子よ。この新たなる魔王イクスが貴様を救ってやる。復讐と言う生きがい溢れる未来へ連れて行ってやろう」

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