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序章『始まりと終わり』9

 その頃…質屋。


「え~ぇ!売ったぁ!?」


 紅髪の少女が、店主から事情を聞き、驚きの声をあげた。先程まで龍稔と会っていた鈴である。


「あ~ぁ、あのブローチィ?さっきある方が来て、『ある名義で領収書を切ってくれれば良いから!』なんか言っちゃってくれちゃってネェ…あれ以上あんまりしつこく言われるの好きじゃなかったから、しょうがないから売っちゃったワヨォ。ある意味早い者勝ちネェ」


 店主は爪の手入れをしながらそう言う。その口調は女だが…見た目は丸っきり男であるが、歌舞伎で言えば女形だろう…体格がガッチリしているわりには、その仕草は妙に似合っていた。


「ところで…アナタ、何であの赤翡翠のブローチが目当てだったワケ?」


 そして、赤いマネキュアを爪に塗りながら、店主はそう聞く。


「そ…それは――」

「元々彼女がその持ち主で、以前に盗まれた物だったから…」

「――っ!?」


 鈴がその問いに言葉を濁らせていると、後ろから声が聞こえてきた。

 彼女は、慌てて声がした方へ振り返り驚いた。


「――だろ?王鈴」


 店の入口には、不敵に笑う短髪の男と、シミターを肩にぶら下げた丸坊主の大男が立っていた。そう…鈴が知っている男達だった。


「ア、アンタ達は…ガイアと――何だったっけ?」


 不敵に笑う短髪の男を指差しながら問いかける。

 それを見て、男はその場にズッ転けた。


「そ…そんなにズッ転けなくても良いんじゃない?」

「貴様がボケるのが悪い!俺様はブレス…ブレス=ウォーリアだ!!」


 鈴が苦笑しながら手を差し出すと、ブレスという男は彼女の手を取り、立ち上がりながら怒鳴る。


「そ、そのくらい分かってるわよ…た、ただ…いつもは帽子を深く被ってたから、分かんなかっただけだから…」

「相変わらず照れ屋だな…」

「ア、アンタに言われたくないわよ…」

「ところで…俺のとこに戻ってくる気はないのか?」

「え…?」


 ブレスの突然の一言に、鈴は間の抜けた声をし…


「戻ってくる気はあるのか?ないのか?」

「な…ないわよ!」


と言い、質屋を出て行った。


「追え…ガイア」

「…」


 彼女を見送ると、ブレスは指を鳴らしそう言い、ガイアは黙って頷き出て行った。



 ☆・☆・☆



「へい、らっしゃい!見てらっしゃい!!」

「安いよ、安いよ!」


 両側から店主の声が飛び交う所…

 そう、ここはウィング・シティの台所とも言える場所で、名を『コウライ市場』。

 その名の由来は、先代の領主の名で、その人物はウィングをたった一年で発展させた第一人者といわれている…らしい。本当はどうなのか定かではないが←

 そんな庶民の市場に、黒髪で全身黒ずくめという、やたらと目立つ男が一人…


「親父さん、これとこれをくれるかい?」

「あいよ!」


 黒ずくめの男に言われた物を袋に詰める陽気な親父さん。


「兄ちゃん、良い目をしてるじゃねぇかァ。このリンゴとブドウはよォ、今日一番の出来と言われてるヤツだァ。早いうちに食った方が良いぜェ?」

「それは良い。あやつらと一緒に食べるか…」


 親父さんに言われ、袋を受け取りながらそう答える男。

 彼の口元は微かに笑みを浮かべ、口調は一瞬変わったかのように聞こえた。


「ところで…兄ちゃん」

「何だい?親父さん」

「見たところ、見慣れねぇけど…どっから来たんだァ?」

「聞きたいかい?」


 親父さんに聞かれ、黒ずくめの男は聞き返す。すると――


「あ、いや…言いたくねェんだったら、聞かねェから安心しな。ただ、気になっただけだからよォ…」


 彼は、頬を軽く掻きながら、そう言った。


「そうか…じゃあ、失礼するよ」

「またなァ!兄ちゃん」


 親父さんにそう見送られ、男はその場を後にした。

 そして、人気のない路地裏に入り――


「『人間』とは…どうして、こんなにもお節介な奴らが多いのだ…」


と言いながら、袋からリンゴを取り出し口へと運ぶと、


「う…美味い」


と静かに唸る。すると――


[な~ぁに唸ってるのさぁ…兄さん]


と、どこからともなく声が聞こえてくる。

 ふと声がする方へと顔を向けると、黒ずくめの男の頭上に金髪で全身白の男が立っていた。

 いや…ここは『浮いている』と言った方が正しいだろう…良く見ると、金髪の男の背中には純白の双対の翼が生えている。


「フン…ミカエルか。我輩を殺しに来たのか?」


 黒ずくめの男は、そう問いながら、更にリンゴを一口口にした。


[いや…そうじゃないよ。今日は顔を見に来ただけ]

「だろうな…映像(ホログラフ)状態の所を見るとな」


 金髪の男――ミカエルがニコリとしながら答えると、彼は呆れたような口調で言う。

 映像(ホログラフ)とは、とある機械――この世界で言えば神の道具と書き『神具(シング)』によって映し出されるものである。


[なんだ…やっぱりバレてたんだ…]

「当たり前だろ…貴様、我輩を誰だと思っているんだ…?」

[そりゃあ…絶望を司る『魔王』ルシファ、私の双子の兄さんじゃないか]


 ミカエルは、兄の問いに表情を全く変えず答えた。


「そして…貴様は、我輩とは正反対の希望を司る『聖王』ミカエル…」

[私達は二人同時に生まれ…]

「希望と絶望の二つがある天秤に乗せられ、平行に保たれてきた…」

[だけど…ある日、兄さんによってその理は乱され、世界は混乱に満ちた…]

「え?」


 黒ずくめの男――ルシファは、ミカエルの言葉に間の抜けた声を出した。


[どうかしたのかい?兄さん]

「今、何と言った?」

[だから、兄さんによってその理が乱れて、世界は混乱に満ちた…って]

「な、何の事だ?それ…」


 弟の言葉に、ルシファは急に


「覚えがない」


と言い出す。

 そんな彼の発言に、ミカエルは首を傾げた。


「と言うより…今、何年だ?」

[ルビウス歴三〇一〇年だけど…?]

「ルビウス歴!?ラグナ歴じゃなくてか!?」

[に、兄さん?]

「我輩は、三〇〇〇年以上も眠っていたのか~ぁぁぁぁぁ!?」

[え~ぇぇぇぇぇ!?]


 ルシファの言葉に、ミカエルは驚きの声をあげたのだった…

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