序章『終わりと始まり』7
その後…
「あの顔、どっかで見たような…」
龍稔はそう呟きながら、ウィングの中央区にある赤レンガの建物中へと入っていった。
「おかえりなさいませ…若」
入るなり、玄関の受付に座っている銀色の髪をした青年が、彼に声を掛けてきた。
「若は止せよ…若は。俺は居候だぜ?」
「ですが、用紙として神家へ入られたのですから、変わりませんよ」
龍稔が照れながら言うと、青年は笑いながら言い返した。
何やら事情があるようだ。
「ったく…んで?お客は来てるか?」
「いえ。来てませんよ」
「そっか…ところで、ここで言うのも難なんだが…」
「はい?」
「俺達の事情を知らない奴が居ない時は、あの名で呼べって言っただろ?大和」
龍稔がそう言うと、
「はい…分かってますよ。ケイアス」
と彼は答えた。
「それでよし」
龍稔は納得すると、すぐ近くの椅子に座った。そして――
「大和、スケッチブックとペンを貸してくれ」
「御意」
そう言うと、大和は棚からスケッチブックとペンを出し、彼に渡した。
「珍しいですね…依頼じゃないのに似顔絵を描くなんて。何かあったんですか?」
「いや…さっき妙な女に会ってな…金欠で昨日から何も食べてないらしくて、パスタを奢ったんだ」
「フムフム…それで?」
「その女の顔をどっかで見た事があってな…」
龍稔は、大和とそう話しながらそれらを受け取り、絵を描いていった。
「出来た」
――とか言っている間に、どうやら似顔絵が出来たようだ。
因みに、似顔絵は彼の特技でもある。その腕前は近所に住む絵描きが唸るくらいで、写真で撮ったかのような出来映えである。
「へ〜ぇ、この人が…」
大和は、出来た絵を見て感嘆の声を出した。
その絵は、まさに…さっき会った鈴そのものだった。
「色は紅――ですか…確かに、どこかで見た事がありそうな方ですね」
「ああ…そういえば、ギルドの元メンバーだとか言ってたなぁ…」
「それじゃあ、探してみましょうか…?ギルド帳がちょうど手元にありますし」
大和は似顔絵を見ながらそう言うと、いつの間に持っていたのか、分厚い本をテーブルに置き調べ始めた。
「良くまあ、都合良くそれを持ってたなぁ…お前」
「ちょっと調べ事がありましたから」
「まさか…俺が出かけてる間に、依頼が来たんじゃないだろうなぁ?」
彼にそう言われ、大和は本のページをめくる手を一旦止め、まためくり始めた。
「図星かよ…んで?どこのギルドの調査なんだ?」
龍稔は近くに置いてあるコーヒーを取り、カップに注ぎながら聞いた。
「そうですね…って、あ…見つけましたよ。彼女を」
大和の目があるページで止まり、ある人物の写真に指を差した。
その写真と似顔絵を照らし合わせてみると、全くの同一人物だったのだった。
「本当に、ギルドの元メンバーだったのか…って、おい!」
疑問が一つ消えたとホッとしたのも束の間…龍稔は、彼女の写真の下を見て驚いた。
「これ、おかしいぞ!?」
「何がですか?」
彼の驚きように、大和は不思議そうに聞いた。
「だって見ろよ!これ、見間違いじゃなけりゃ、明らかに違反だぞ!?」
龍稔はそう言いながら、驚いたところを指差す。
そこに書いてあったのは、
【赤い字で書かれている者はある条件を満たすまでは半永久的にメンバーである】
というものだった。
「本当ですね…これは確かに違反ですよ」
大和も頷く。
実は、ギルドの為の法律がこの世界には存在する。
その名も『ギルニア法』。名前の由来は、ギルニアという者が考えたからだという…らしい。
その中にこう書かれているのだ。
【メンバーの自由を尊重せよ。決して束縛をしてはならない】
と――