第1章『おかしな家の住民達』3
――食堂。
四人は、入るなりそれぞれ席に着いた。
「あいよ。朝ごはん」
そこへ宝蘭が食事を運んでくる。
今日のメニューは、トーストとオムレツとスープとサラダと、まあ…至って普通である。
『いただきま~ぁす』
「はい、召し上がれ」
そして、一同は食べ始める。たった一人覗いてだが…
「あら?どうしたんだい?」
宝蘭は、全く手をつけない鈴に不思議そうに話しかけた。
「あ…あのぉ…」
「ん?何だい?」
「このスープ…一体何なんですか?」
鈴は気になっていた。目の前にある蓋をしてあるスープが…
開ければ黒に近い茶色のスープがあり、何故か未だに煮たっていて、独特の臭いがしていた。
「ああ…これかい?これは闇鍋さ」
「う゛っ!?」
彼女の言葉を聞いて、龍稔は珈琲を吹き掛け、慌てて口を押さえた。
「ね、義姉さん!また朝から闇鍋かよ!?」
そして、驚愕の声をあげる龍稔。
彼が声をあげるのも無理はない…何故なら、宝蘭の趣味が闇鍋だからである。とは言っても彼女が作る闇鍋は、美容や健康に関する薬草や食材が豊富に入れられており、味は研究しながら作ったから問題はないのだとか。
まあ…前に一度、プライベートで雷鳴を訪ねてきた国王に出した事があり、彼女は『国王が認めた究極の鍋』と言っているが、実際のところ国王がどうだったのかと言うと…ぶっ倒れたのが正しく、味はかなり強烈なもので、慣れている者でないと食せない。
「普通、コンソメスープとかシチューが常識だろ!?こういう場――」
龍稔が反論しようとすると、彼の顔の横を何かが高速で通り過ぎ、壁に刺さった。
「合は…」
振り返って見れば、そこには銀色のフォークが一本刺さっていた。
「贅沢言うんじゃないよ…!うちはこれが定番メニューだよ!!」
宝蘭はそう言い終わると、自分の席に座り黙々とスープ――いや、闇鍋を食べ始めた。
「ったく、勝手に定番メニューにするなよな…」
龍稔は、大きくため息をつきながら座ると、そう呟いた。
「色々大変そうね…アンタ」
「まあな…」
鈴が心配そうに声をかけると、彼は苦笑しながらそう言い、パンを一口口にした。
★・★・★
朝食が終わり…
「さて…簡単に自己紹介をしようかね」
と、宝蘭が口を開いた。
「まずはアタイからね。アタイは神 宝蘭。龍稔の姉だけど、あのクソ親父に拾われたから血が繋がってないのよ」
「へぇ…そうなんですか(何かあったのかな…この人)」
「次は、俺な…」
鈴が心の中でそう思っていると、龍稔が珈琲を一口口にし手を挙げた。しかし…
「あ、アンタは昨日聞いたから良いわよ…」
と彼女はサラッと断り、飛鳥の方へと目を向けた。
「それじゃあ、お次は貴方で」
「僕ですか?良いですよ。僕は水城 飛鳥。そして隣に居るのが兄の――」
「闇火や」
飛鳥が横へ振ると、彼の言葉に続くように闇火が名乗った。
「僕は、ここの家主である雷鳴さんの剣術の弟子として住み込みをしてるのですが…」
飛鳥はそう言いながら、兄をチラッと見て…
「兄上は、な・ぜ・か勝手についてきたんですよ。僕に」
と迷惑そうに言う。それに対して…
「あ、飛鳥ちゃん!?これには深い深~ぁい事情があってやなぁ…!」
慌てて言い訳をしようとする。が…
「何…自分の弟に『ちゃん』付けしてんですか。このショタコンが」
「う゛っ!」
心に弟にとどめを刺され、その場にうずくまった。
「ワイは…ワイは…何の為に生きとんや…ああ…死にたい…」
どうやら、今のが致命傷だったようだ。小言を言い始めている。しかも、かなり暗い。
自己紹介が出来なくなった彼の代わりに説明するとしよう。
先程紹介した通り…この三人が、闇火が兄で飛鳥が弟の水城兄弟と、神宝蘭である。前者らは水族出身であり、後者は華族出身だが捨て子らしい。
職業は、闇火は医者兼裏家業で、飛鳥はよろず屋で剣術見習い、宝蘭は花屋兼占い屋である。因みに、闇火の裏家業は未だに明らかになっていないが、どうもヤバい仕事をやっているらしく、たまに全身血塗れで朝に帰ってきたりしている。
性格は――
「はい、説明そこまで。作者ありがとね」
そこへ宝蘭が止めに入る。どうやら言われたくないらしい…
まあ…あとで何かしら仕打ちがありそうなので、ここで止めておこう。