序章『始まりと終わり』14
「き…消えたの?」
「みたいだな…」
鈴の問いに、龍稔はそう答え、大男に近づき首に手を当てた。
「ガイア…大丈夫なの?」
「心配ない。気を失ってるだけだ。さてと…」
脈を確認し終えると、龍稔は立ち上がり、右手をゆっくりと天へと掲げた。すると、何やら獣のような鳴き声が微かに聞こえてきた。
「っ!?」
鈴は空を見た。
暗闇の中、何かがこちらへ近づいてくるのが目に見えていた。
「り、龍!?」
彼女は、近づいてくるのが影を見てそう驚く。
そう…それは銀色の龍だった。
銀色の龍は、龍稔の真上で停止すると、聞き取れないくらいの遠吠えをあげ光り出した。
その光は一瞬にして止み、光の中から銀色の髪をした青年が姿を現し、彼の横へ静かに降り立った。大和である。
「探しましたよ。若」
「探したって…こっちは、見廻りだって言ったじゃねぇか」
「貴方が帰りがあまりにも遅いから探してたんですよ…!まあ…若が右手をあげてくれたから、すぐ見つかりましたけど…」
大和は、龍稔に対して文句を言い終えると、ある事に気づく。
「あれ…?何で人が?」
それは勿論、彼らの後ろで仰向けで倒れているガイアの事だった。
「若、また何かやったんですか?」
そして、その疑いの目は、真っ先に龍稔へと向けられたのだった。
「な、何でそうなるんだよ!?」
龍稔は慌てて聞く。すると――
「だって、貴方と彼女以外誰が居るんです?皆、家の中なのに…これはどう見ても、若しか考えられないでしょ?違いますか?」
と、大和は更に聞き返した。
「ど、どう見てもって、お前なぁ…お、俺はコイツを助けて、この大男は勝手に倒れたんだけで、何にもしてないぞ!?」
「証拠がここにあるのに?」
龍稔が慌てて言い訳をすると、大和はそう言い、ある場所を指差す。それは、先程彼が傷つけた頬だった。
その傷を指摘され、彼は動揺が隠せずにいた。
「図星ですね…で?一体何があったんです?」
「そ…それが…」
龍稔は、大和に渋々先程までの事を話した。
「成る程…つまり、とんでもない人に貴方達が目をつけられた…って事ですね」
「簡単に言うとな…」
「ところで、もう一つ気になったんですけど…」
「何だ?」
「彼女のあれは、どういう意味なんですか?」
大和はそう言い、ある方へと目を向けた。
そこには、壁に向かって、
「あれは幻…あれは幻…龍なんて居ない…あれは幻」
と言っている鈴の姿があった。
「何やってんだ…?お前」
「あ…別に。ただ、幻覚を見ちゃったみたいで…あたし、疲れちゃったのかなぁ…アハハハ…」
龍稔に聞かれ、鈴は苦笑いをしながら言う。
そう言うのも無理はない。龍は、普段は天空の街『スカイピア』を拠点にしており、滅多な事で地上には降りてこく、現れたとしてもこういった街には現れる事はない。しかも…人前で龍から人へ変化する事は全くないのだ。
「あれ、幻覚じゃねぇぞ?」
「はい?」
「あれは本物だ。ついでに言うと…コイツがその龍だ」
「初めまして、王鈴さん。オレの名前は大和。ケイァ――あ、いや…若のお目付け役をしてます」
大和はそう言い、鈴に手を差し伸べた。
「ほ…本物?」
「はい」
「魔族じゃなくて…?」
「はい、龍族です」
鈴は、疑い深く大和の手をじっと見ながら聞き、彼は笑顔で答える。すると――
「それを聞いて安心したわ」
彼女の顔から次第に笑みがこぼれてきた。
「こちらこそ初めまして。ところで、何であたしの事知ってるの?」
鈴は握手をし終えると、大和に問いかけた。
「それは、主である若から聞いたんですよ。ねえ?若」
「まあ…そういう事だ」
「主ってまさか…アンタ、龍使いなの!?」
『主』という言葉に彼女は反応し更に問う。その顔は、興味津々そのものだった。
「ん…?ああ…(つか、龍使いって何だ?)」
分かっていない主人公君に説明しよう…
龍使いとは――龍族を自在に扱う者であり、契約した龍は主に従わなければならないのである。
(作者、サンキュー)
「じゃあ、痣はどこにあるの!?痣は」
「痣?」
龍稔が疑問符を投げ掛けると、
「『龍の痣』よ!龍使いの証の。知らないの!?」
と鈴は言う。
どうやら、龍使いには『龍の痣』という証が躯のどこかにあるらしい…
「痣って言われても、もともと大和は俺が赤ん坊の時から一緒に居たんだが…」
痣など心当たりが全くない彼は、彼女に事情を話す。
実は、龍稔と大和は、クェスに拾われた時には一緒に居たらしく、どういう経緯なのかが未だに不明なのだ。
「え!?それじゃあ、この龍は勝手にアンタに従ってる訳!?」
「そういう事になるな…」
「アンタって、一体何者なの?さっきから気になってたんだけど…」
「秘密だ。今のところはな」
「ふ~ん…」
鈴はそう言うと、腕を組むと片手を顎に軽く当てる。そして――
「決めた」
と手を叩く。
「ん?どうかしたのか?」
「あたし、アンタの家に行くわ」
「え?」
彼女の言葉に、龍稔は間の抜けた声を出す。
「な~ぁに変な顔してんのよ…アンタが言ったんでしょ?さっき…『俺の家に来ないか?』って」
「ああ…確かに言ったが…って、お前さっきは断ったじゃねぇか!」
「まあまあ…どの道、今からじゃ宿取りは無理ですし…良いんじゃないんですか?」
「そ…そりゃそうだな」
「それじゃあ、決まりね。あ!一旦街の外へ出て荷物を運ぶ準備してこなくっちゃ…忙しくなるわ~ぁ…」
「そ…それはどういう意味ですか?」
言ってる意味が全く分からず、大和は聞く。すると――
「今から荷物を運んでもらおうと思って」
「だから、どういう意味――」
「アンタ達の家に住むの」
と言い出し、
『はい~ぃ!?』
と二人は大声をあげ驚いたのだった…
序章『始まりと終わり』終
はい。これで序章終わりです
あ、タイトルと全く違う展開ですいません…
このタイトルの意味は後で分かると思いますので、気持ち長く待っていただけると嬉しいです