序章『始まりと終わり』11
――中央神殿の大広間。
そこで、ミカエルとルシファが互いに向かい合って座り、小さな会合が緊急で開かれていた。
周りには、魔王・ルシファを警戒して、数十人の兵士が立っていた。
「何でこうなるかなぁ…?私は二人だけで話したかったのに…」
「我輩に聞くな…聖王よ…我輩だってここではない所の方が良かったさ…」
二人はそう言うと、周りを改めて見渡し、深くため息を吐いた。
この会合が開かれる事になったのは、遡る事数時間前…
あのあと…老婆は、入るなりに直ぐ様ミカエルへと歩み寄ると、
「お主も久しいのォ…ルシファ殿」
と水晶玉に直接話しかけた。
どうやら、ルシファを知っているようだ。
[さ、三〇〇〇年振りですか…お久しゅうございます…メグ様]
流石の魔王も、老婆に対しては敬語になっていた。
それもその筈。この老婆の名はメグ…本名・メグリス=ハーネット。アルベルトの祖母で、中央神殿の最高管理人をしており、その職歴は五〇〇〇年と言われている。
「あ…あのぉ…おばあ様、いつこちらに?」
アルベルトは目をパチクリしながら聞くと、
「アル…お主と同じ答えじゃよ」
と心を読んだかのように答え…
「そんな所で立ち話もなんじゃ…どうじゃ?ルシファ殿。今一度こちらへ来ぬか?」
といきなり言い出し、今に至った訳である…
「お二方、ここなら話は出来ましょう…存分に話をして下さい」
勿論、二人の間には、発案者であるメグリスが堂々と座っていた。
「――と言われても…ねぇ?」
「これじゃ話しづらくないか?」
「しかし、貴方様はお忘れでしょうけど…この世界を混沌に一度陥れたのは、ルシファ様ですよ?」
そして、その彼女の向かいに見届け人としてアルベルトが座り、魔王にそう言う。
「そんな事言われても…あ、それより…良く、我輩をここに招き入れる事を許可したな…誰が許可したのだ?」
「それは、わたくしです」
ルシファがそう聞くと、大広間の奥から、透き通ったような女性の声が辺りに響き渡った。
「この声は…クロノスか?」
ルシファは、声の主の名を言う。
「はい…わたくしです…」
それに答えるかのように、声が聞こえる方から、この世界で一番と言ったら良いだろうか…そのくらい美しい女性がゆっくりと現れた。
彼女の手には、『時』をイメージした二メートル程ある杖があった。それもその筈…この美しい女神は、時空の神・クロノスなのである。
「お久し振りですね…ルシファ」
クロノスは、魔王に微笑みながら話しかけた。
「ああ…」
「それから…ミカエルもお久し振りですね。確か、一〇年振りですか…?」
「いえ、一〇〇年振り…ですネ」
彼女の問いかけに、ミカエルは苦笑しながら答えた。それを聞いて…
「まあ…!失礼致しました。やはり、何千年という時を生きると、時間を忘れてしまうものですね…」
クロノスは、変わらぬ笑みを浮かべながらそう言った。
「って…クロノス、貴様は時空の神だろうが…時間を忘れてしまってどうする…」
「まあまあ、兄さん…今のは冗談みたいだし…気にしない方が良いんじゃないかな?」
ルシファがツッコミを入れると、ミカエルがそう言い…
「そういう事です。細かい事は気にしないで下さいな…あと、わたくしの事を『貴様』と呼ばないでもらいたいものです…これでも、わたくしは貴方達の姉に当たるんですから。一応は」
クロノスも相づちをたてた。
「そうでした…そうでした…私達は、ゼウス様の遺伝子から産まれた姉弟でしたね」
そう…実はこの三人…姉弟であり、ゼウスの遺伝子から創られた一三の神々【サティウス】である。
え?あと一〇人は…って?それは今は秘密である。