弟について
金谷蒼それが私の弟。
品行方正、成績優秀、スポーツ万能。何をやらせてもソツなくこなしてしまうような完璧人間。
なんのいたずらか、そんな奴の姉として何年も生きてきた私は、成績はぼちぼち、スポーツはさほど好きではなく、得意なものがない平凡人間を極めている。
今の唯一の取り柄といえば、華の女子高生であることと、彼氏ができたことくらいだ。
彼氏が出来てからは一丁前に今後の人生なんかを考え始めているのだが、何かにつけて弟を思い出してしまう。(ブラコンではない)
例えば卒業式。
「姉ちゃん卒業おめでとう!」
なんて言って私の前に現れてしまったらならば、周りからみて私はぼやけて主役が姉を送り出す弟に変わる。
例えば結婚式。
「姉ちゃん結婚おめでとう!」
涙ぐみながら言われてしまったら、カメラのピントは私ではなく弟に合い、友人から送られてくる写真は雀の涙ほどの私と新郎の写真とその他弟の写真で間違いない。
例えば出産。
「赤ちゃんかわいいね!」
赤ちゃんとコラボするお前も相当可愛いよ!!!!!!!!!!!
となる恐れがある。
(再三伝えさせてもらうが、ブラコンではない)
金谷蒼。私の弟であり、人生最大のライバル。というかどう考えても試練の壁。
そんな弟に最近勝った項目。
それこそが恋人部門!私にも遂に彼氏が出来た。
もちろん弟のような完璧人間ではない。
なんとういうか、全体的にいい奴みたいな人で、私にはちょうど居心地がいいのだ。
しかし、勝ったと言っておきながら言うことではないのだが、実は今の彼氏は蒼がここに進学してくれたから出会えたと言っても過言ではない。
蒼と私は同じ高校に通っている。
今年の春で私は3年生、蒼は2年生になる。
私は通いやすい高校を選んだだけなのだが、「姉ちゃんがいるから」という理由で、色々な高校からの特待生の推薦を蹴ってこの高校にやってきた。
まるでシスコンのようだが、本人曰く「姉という存在が近くにいるほうが、面倒なことを起こす女の子が近づいて来ないから」らしい。(中学3年の時に相当苦労したと聞いた)
蒼が入学するまでは、中学校からの延長線でなんとなく吹奏楽部に入部したおかげで、高校生だというのに「彼氏」の「か」の字さえも見当たらない生活を送っていた。
蒼が入学してから、時々蒼の高校の友達が家に来るようになり、その友達が学校でも挨拶してくれるようになった。それから、廊下で立ち話をするようになったり、家の中で遭遇しても軽く会話を交わしたりと関係を深めているうちに、なんかお互い惹かれあって...。という甘酸っぱい時間の積み重ねの末お付き合いに至った。
我ながらあまりにも青春ど真ん中すぎて少し恥ずかしいのだが、ちょっと自慢したい気もある。
ある日の夜、蒼が私の部屋にやってきた。
「姉ちゃんはいつまで圭人と付き合うの」
そう言いながら、私の座椅子にどかっと腰を下ろした。お気に入りの座椅子に勝手に座るな。ちなみに圭人というのは蒼の友達であり、私の彼氏となった人だ。
「いつまでってそりゃ、長く付き合っていきたいよ」
正直、結婚までと言いたいところだが、流石に高校生の私には口にしづらい。
ふーん、といいながら少し考る仕草をしてから真剣そうな表情で続けた。
「別れてよ、圭人と」
「はい?」
「結婚する気ないなら、別れようよ」
「え?何?何を言ってるの?」
コイツ何言ってんだ?
あまりの衝撃に心臓がすごい勢いで動いている。負担がデカすぎる。なんというか、今まで大して気にかける様子もなく、無関心だった蒼がこんなことを言うなんて想像していなくて本気でびっくりしている。
「何っていうか、別れればいいのにって思って」
「いや...思うのは自由だけどさ、それ私に伝えてるのはなんで?失礼だし傷つくんだけど」
「うん、ぶっちゃけどうでも良かったけど、圭人が浮気してるっぽくてさ、それはほっとけないなと」
え〜、え〜?浮気?高校生の恋愛で???
いや、浮気に年齢など関係ないのだ、する奴はするし、しない奴はしない。
だとしても、だとしても...!
衝撃的すぎるカミングアウトに言葉を失った。
初めての彼氏だというのに浮気をされてしまうなんて。