第二幕「残光」
病院のベッドの上で、私は神道刀娘先輩から話を続けられる。行方不明のお姉ちゃんの情報どころか現実離れした内容になってきた。私に「辻斬り」にならないかという勧誘だったのだ。
「あの、辻斬りって……」
「ふむ。今は混乱しているだろうから、明日、もう日付が変わっているから今日か。今日のお昼に美術館の前の広場へ来てくれ。君のお姉さんについて、そして辻斬りについて話そう」
私は聞きたいことが山積みで混乱していると、刀娘先輩が私のおでこに人差し指を軽くあてた。と、同時に私の意識は消えた。
刀娘は寝息を立て始めた六花の髪を軽く撫でると、優しく微笑んだ。
「ふふ、寝顔も天花先輩にそっくりだ。さて、と。」
病室を出ると、スマホを取り出して電話を掛けた。数秒後相手が電話に出た、が。
『お疲れさまでした。彼女、引き込めそうですね。おめでとうございます』
電話の相手は変声期を使って声を変えており、まるで某名探偵の犯人のような声だ。思わず笑いそうになるのを堪えた。
「ん。今日はなぜそんな声なんだ?私以外に聞こえたらまずいか?」
『念には念を入れよと言いますからね。しかしまさか響姫が目覚めるとは。彼女が”羅刹”を持っている確信があったのですか?』
「天花先輩の妹だから、ほぼあると思っていた。それに彼女はあの”金色の海”への導き手になるかもしれない。利用しない手はない。」
『金色の海、ですか。まぁいいでしょう。私は報酬さえもらえれば問題ありません。』
「報酬、ね。まぁいいさ。君はそんなにお金を集めてどうす」
私の質問を遮り、電話口の相手は話した。
『ビジネス。これはあくまでビジネスです。私達はただのビジネスパートナー、お互い詮索は無し。それ以上も以下も、可もなく不可もなく世に事は無し。響姫はシスターロマリアの教会で浄化済みです。彼女も驚いていましたよ。それではまた。と、あとこれだけは忘れないでください。貴女達は彼らが残した残光。最後の希望なのですから』
一方的に話して切られたが、何故か声は少しだけ焦っているような気がした。詮索されたくないだけだったのか、それとも何かあったのか。
「ビジネス、ね。人は心の中で何を考えているのかわからないものだな。それに、もう希望なんてないんだ。」
一瞬刀娘の影が赤く燃え上がった。
翌朝、とはいっても数時間後だが六花は病院の待合室で速見と合流した。
「速見!大丈夫だったの!?」
速見は頭に包帯を巻いており、少し血がにじんでいた。
「あはは、やっちゃいました。暗闇で走ってしまって……。六花こそ大丈夫ですか!?美術館がガス爆発なんて、お互い無事で本当に良かったです」
「ガス……爆発?」
「ええ、学内ニュース見てないんですか?」
スマホには学校から送られてくるメールがあり、昨夜美術館でガス爆発が発生し二名が軽傷を負ったと記載されている。
「情報が…隠されたんだ」
「え?」
「いやいやなんでもない!速見は退院できそうなの?」
「それが、頭を打ったので今週いっぱいは検査入院と……。また先生達に怒られますねぇ。」
「ははは、怒られてすむんだから上々でしょ!生きてるんだし!」
「ふふふ、そうですね!」
「じゃあ、私は先に行くね。なんか病院費用は美術館が出してくれるらしいよ。」
というのは嘘で、受付へ支払いを訪ねると医療費や入院費は全て神道刀娘先輩が処理していた。本当に昨夜のことは夢ではないんだと思った。
退院した初日なので学校は休み、ゆっくりと美術館へ歩いて向かった。私がいる病院”龍川記念病院”はC学区の真ん中。D学区の美術館までは割と距離がある。色々頭の中を整理したいので、無人バスは使わずに歩いて向かうことにした。