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つじぎりっか~花篝ノ章~  作者: 風来坊セブン
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第一幕「つじぎり」

 深夜1時過ぎ、私と速見は寮を抜け出して街を歩いていた。抜け出す前まで仮眠をとっていたが、例の夢を見ないのが奇妙だった。


「んふ、うまく抜け出せましたね」


「うん。はぁ、D学区まで歩くのは面倒だなぁ」


 この「会場学園都市神道学園」は会場の大きな島を開拓して作られた巨大学園で、高等学区だけで6区もある。A学区は特待生の特別科。確か神道刀娘先輩がいるのがここ。隣のB学区は普通科。私達がいる学区。C学区は医療・研究科。病院や研究施設が多く集まっている。D学科は美術・芸術の学科。E学区は宗教科。教会が多く存在している。F学科は調理科。料理専門で、お昼時には全学区の生徒がわんさかと集まってお腹を満たす。


 バスで移動していたD学区まで歩いていくのは骨が折れるわけ。30分は歩く。


「でもまぁ街路樹の桜を見ながら夜桜見物ってのも乙なものじゃないですか?」


「確かにそうかも」


 電光の消えた街でライトアップされている夜桜を二人きりで見つつ、美術館へとたどり着いた。美術館は昼とは打って変わって物音ひとつしない静まり返った姿だ。美術館の前にある噴水の近くで、周りを見渡した。


「うわこわ。時間は2時前か。誰もいない……よね?」


「うーん、まだ時間じゃありませんからね。って……六花、あれ見えます?」


 急に小声で速見が指さした場所。それは美術館の横、まるで車か何かが突っ込んだかのような破壊された後がある。


「け、警察呼ぶ?」


「もしかしたら辻斬りの何かがあるかも……。一瞬!一瞬だけ中見ましょう!」


「えええ……、マジで。」


 恐る恐る崩れた壁を越えると、通路に繋がっており、まるで何かが暴れまわったような傷が壁中にある。


「マジやばたにえん。」


「カメラ、動画で起動してますから何かいたら教えてください」


 廊下の先には大広間があり、天井から月明りが漏れている。物音はしない。隣の速見の息遣いすら…あれ?


「速見?は、はやみしゃん?」


 いつの間にか速見がいなくなっていた。一気に恐怖が押し寄せてきた。そして嫌な予感は重なるのが人生。


「なに…あれ……」


 別通路側から異様なモノがひたひたと歩いてきた。


「タベ…タイ…タベ…タイ…」


「ひっ!?」


 それは月明りではっきり見えると、まさに化け物だ。真っ黒な全身にいくつもの目玉があり、ぎょろぎょろと私を見つめている。その手には黒い刀のような物が握られている。


「なんっ、なんなの!?」


 私は抜けそうになる腰と怯える気持ちを奮い立たせ、闇雲に走り出した。


「速見っ速見どこなの!?やばいよ!」


 逃げまわる六花を天井の梁から見つめている者がいた。少女は白狐しらぎつねの面を被っており、腰には灰色の刀と紅の刀を差していた。どこかへ通話しているようである。


「あぁ。接触した。彼女の妹が”羅刹らせつ”を持っているか確認できる。無茶はするな。」


 いつの間にか六花は岩に刺さった剣の前まで来ていた。


「た、助けを呼ばなきゃ、スマホは、ぐあぁ!?」


 追いつかれた化け物に背中を斬られ、ガラスに突っ込んでしまった。


「いっ……たくない?あれ、なんだこれ!?」


 怪我をしたと思って身体を見ると、何故か鎧が装着されているのだ。まるで私に合わせて作られたかのようなその鎧が私を守ってくれたらしい。


「お、重っ!」


 立とうと岩に刺さる剣の柄を握ろうとした。


 追ってきていた白狐の面の少女も遠目で隠れており、驚いた。


「まさか!?あの場所は!ダメだ!”響姫ひびきに触るな!」


 柄に触れた瞬間、一瞬脳裏にあの夢が見えた。それは騎士が私に語り掛けてくる最後のシーン。燃え盛る街で騎士は私へ手を差し伸べた。


「さぁ、立ち上がれ。そして叫ぶんだ」


 ーさぁ、叫ぶのでありんすー


「我、空に響き!!」


 剣を引き抜くと光が溢れた。


「グォアアアアア!?」


 その光は一瞬で化け物を蒸発させ、あまつさえ衝撃で周囲のガラスまで吹き飛ばしていく。眩い光に白狐の面の少女も驚きながらも驚愕していた。


「そんな、響姫が目覚めるなんて!」


 剣は巨大で、重苦しい鋼色。大きさは私の身体を優に超える巨大な刀身をしていた。


「はぁっ、はぁっ。ひび……」


 そこで私の意識は途切れた。次に気が付いた時、私はベッドの上だった。腕の激しい筋肉痛のような痛みで目が覚めた。


「いててて…。は、速見!!?」


「大丈夫。彼女は暗闇でどこかに頭をぶつけたらしく気絶していたよ。隣の病室で寝ている。」


「うぇああ!?」


 ベッド横の椅子に白狐の面を被った女子生徒が座っていた。


「初めまして。ではないかもしれないな。」


 面をとったその顔は知っている人だった。


「し、神道刀娘先輩!?あ、あの!美術館に化け物が!」


「知っている。あれは妖使あやかしと呼ばれる、はるか昔より存在する化け物さ。人を脅かし人を誑かし貶め、そして喰らう。妖怪の妖に使いの使だ。」


「あやかし……。そんなのが実在するなんて。あ、あの気持ち悪い目玉の奴は私が倒したんですか?」


「ん、たぶんそうだ。そして話は変わるが君は辻騎天花先輩の妹さんだね?」


「お、お姉ちゃんを知ってるんですか!?」お姉ちゃんは今どこに!?」


「詳しく話したいが、まずはこちらの願いを聞いてほしい。」


「は、はい?」


「妖使を倒す、”辻斬り”になってほしいんだ」


「えええええ!?」


そして私は神道刀娘先輩に驚愕の話を続けられることになる。




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