プロローグ3 召喚失敗
何だここ。どうなっているんだ。
頑張って両目をこじ開けて目に入る情報は、とりあえず歪んで見える視界がすっきりしたことだけ伝えてくれた。
この空間・・・一応しっかり見える範囲・・・は、大きさ数百メートル四方の箱のような形で、その外側には混沌が広がっていた。
自分の体を確認してみる。
手は動く(ぐっぱー)首も動く(ぐりぐり)目も問題ない(ぱちぱち)足は…あれ?
恐る恐る自分の下半身があったところに目を向けると、何もなかった。なんとなくわかってた。腹回りからくる傷み、そこから下の反応がなかったし。
切断面は、思いのほかきれいだった。もっとスプラッタな感じをイメージしてたのに。何この膜、うっすら光ってるし。ファンタジーでおなじみの結界かな。?
待てよ、これで足の代わりを造れないか?論より証拠、2本の円柱をイメージしてみた。すると、膜は伸び始め、それっぽい形になった。あ・・れ?なんだか、すごく、疲れ・・て・・
[WARNING!!WARNING!!:召喚に失敗しました。]
[転送先座標の捕捉不可能]
[召喚に失敗しました]
[召喚に失敗しました:召喚シークエンスを終了します。]
薄れゆく意識の中、いかにもな魔方陣を見た気がした―――
異世界η
η歴8203 未知の大陸 未開の地
「うう・・・」
望は、目を覚ました。体の節々は痛み、意識は朦朧とする。下半身の欠損も、再生してはいなかった。
「ここは・・・?」
「GOOOOOON!!!」「グギャ!?グギャギャ?」
頭上には悠々と飛ぶドラゴン、足元には見たこともない草。時折耳に入るのは、奇怪な鳴き声。
『あ、ここ、まじで異世界だ・・・』
望はとりあえず、この世界でどう生きるかを考えることにした。生きる意志がないと、生ける屍と同義だ。
『召喚した奴に復讐・・・必要ないな。本の世界への帰還・・特に未練はない。やりたいこと・・なんだ?』今は夕暮れ、うっすらと星が出ていた。地球のどの観測点、いや太陽系内のどこから見た星空も今の景色には一致しない。天の川のように空に掛かる、不自然なほどにキラキラと輝く星屑の帯が、望を魅了する。
『一番星か。そういえば宇宙の本を読むの、小学生のころから好きだったんだ・・・よし、とりあえず、望遠鏡でもつく――
「グギャギャ!」
「うわ~~!」
望は、手を足代わりにして走り出した。『勝てない戦はする前に逃げる』望のポリシーだ。
これらは望が異世界ηで生きてゆくことを決めて、数分経った頃の話である。