プロローグ・ゼロ 物語の始まり
空中30㎝に体が現れ、万有引力の法則に従って1/4秒後に地表に落下していく。
トサッ
彼が異世界で初めて触れた地面は、よくわからない雑草でおおわれていた。
「ここは、、、どこだろ?」
あたりを見回すが植物から空気に至るまでさっきまで自分がいた場所のいかなるものとも一致しない。強烈なフィトンチッドを肺に吸い込むが、発生源らしき木は松のような針葉樹ではあるものの樹皮の色がおかしい。少なくとも地球上では鮮やかなオレンジ色の木は熱帯雨林の地衣類や菌に由来するものしかないのだ。
「青い、青い空だけは地球と変わらないのか。」
8900-EX!?・・・失礼、忘れて下さい。まあ飛んでるものはカラスなどではなく、ファンタジーでおなじみの――――
―――口から炎を吐くことができ、巨大で強力な翼を持つ空の覇者―――
―――そう、ドラゴンだ。頭上で格闘戦を繰り広げていた2頭の決着がついたようで、両の翼を失った敗者、いや敗ドラゴン?が落下してきた。
「ギャオオオオーーン(うわああああああ)」
ドラゴンの咆哮は悲鳴に似ていて、内容がなんとなくわかった。そのまま折れた翼の付け根から血を散らしながら、丘の向こう側へ姿を消した。鳥とはシルエットが違う何かが落下地点から飛び去って、ワンテンポ遅れて腹の底に来る地響きが起こる。
「翼折れた鳥・・か。それなら僕は、足のない人だ。」
人間は一本の葦にすぎず自然のなかで最も弱いものである。だがそれは考える葦である。――パスカル
これはアシ違い。韻をふむという意味では間違ってはいない。
彼の胴体は腰の少し上のあたり・・ちょうど上半身と下半身の境目あたりに白色のパーティクルが散っていて、そこから股関節、膝、足と来るはずの場所には何もなかった。切断面には薄い膜のようなものが張っており、出血はしていない。内臓があるはずの場所はモザイク規制が必要な状態に―――なっていない。ニュートン環のような虹色の円が広がっていて、膜自体も白色不透明。
「夢じゃなかったか・・・」
頬を何度叩いても、ここが夢の世界ではなく、異世界であり現実なので何も起こらない。ファンタジーな世界だけど現実とはこれ如何に?頭が痛くなってきた・・・ついでに彼の頬も。
「ハードモード過ぎないか僕の人生。死にたい。」
軽く舌を噛み千切って自殺を試みる・・・
軽くで済ませていいことではない!?というか命に対する覚悟が出来てるものにしかできる芸当ではない。
うまく力が入らないことを、『死のうと思っても死の恐怖で体が竦んでいる、ああ僕はまだ死にたくないんだ』と勘違いしてくれたようで、彼は顎の筋肉の緊張を解いた。
かといって歩こうにも一歩も踏み出せない。足が無いから当然だ。
死ぬのはヤダけど何をどうしたらいいのかわからない。
途方に暮れて黄昏ていると、時間が早く流れているような錯覚に襲われ、ゆっくりと日は落ちてゆく――――――――
これはそんな主人公が異世界で頑張って自分なりに生き抜くお話である。
統合時に「サモン術式がバグったから、この世界を好きに生き抜く。」より移してきました。タイトルもこちらを採用、略称は全作品共通で「サモバグ」とします。
大分設定も継ぎ足しているので、捨てることにした作品を設定資料集として改変作業中(20.01.09現時点)