池に映る逆さ虹
ここは逆さ虹の森。
この森には、とっても鮮やかな虹がかかっています。
しかも、その虹は世界にここだけにかかる特別な『逆さまの虹』だったのです。
そんな、特別な逆さ虹の森に住んでいる動物たちはみんなが仲良しでした。
ある日のこと、いたずら好きのリスさんと怖がりのクマさん、それからお人好しのキツネさんが根っこ広場までやって来ました。
「今日は何をして遊ぼうか?」
と、キツネさんが聞きます。
「葉っぱを集めて、そこにゴロゴロするのはどう?」
とクマさんが言いました。
「それならドングリも一緒に集めて、あとでドングリ池にお願いごとをしに行こうよ」
「いいね」
「うん、とってもいい」
リスさんの提案にキツネさんとクマさんも賛成しました。
「じゃあ、どれだけ集められるか競争しようよ」
またも、リスさんの提案に二匹も大賛成です。
「「「よーい、ドン!」」」
三匹はいっせいに広場から森の中へと走って行きました。
リスさんは根っこ広場でドングリを集め始めます。
ここは、たくさんの根っこが飛び出した広場。
動物たちの間では、ここで嘘をつくと根っこに捕まってしまうと言われています。
いたずらは好きだけど、嘘をつかないリスさんにはそんな噂は気にもなりません。
せっせとドングリを集めます。
その時、キツネさんはドングリ池に着きました。
ここの水はよく澄んでいて、とってもキレイな池。
この池にドングリを投げてお願い事をすれば叶うと動物たちの間で噂になっているため、底の方にはたくさんのドングリが沈んでいます。
キツネさんはこの池が大好きでした。
毎日、ここへ来てはドングリを投げてお願い事して、お願いを叶えてもらったお礼を言います。お願い事は後でリスさんとクマさんと一緒に来た時にしようと決めていたので、今はお礼だけを言います。
「今日もみんなと一緒にいさせてくれて、ありがとう」
一方、クマさんが来ていたのはオンボロ橋。
森の真ん中に流れる川に一本の吊り橋がかかっています。
その橋は、いつ落ちてもおかしくないくらいにボロボロです。
クマさんはこの吊り橋を見る度に渡ってみたいと思っていました。
なぜ怖がりなクマさんが橋を渡りたいのか?
それは、向こう側にいるお父さんとお母さんに会いたいからです。
この森は川をはさんで二つに分かれています。
向こう側はおとなの国で、こちら側はこどもの国。
こどもの国に住む動物たちもいつか大人になれば、オンボロ橋を渡って向こう側へ行くことになります。
早く渡りたいと思っていても、クマさんが渡れば橋はすぐに落ちてしまいそうで怖くて渡ることができません。
それからしばらくの間、葉っぱとドングリを拾い集めた三匹は根っこ広場に集合しました。それぞれに持ち寄った葉っぱとドングリは小山のようにいっぱいになっています。
「クマさんが集めた葉っぱが一番多かったね」
「でも、ドングリはリスさんが多かった」
「キツネさんの集めた葉っぱとドングリはどれもキレイだよ」
キツネさんとクマさんとリスさんが楽しく話していると、暴れん坊のアライグマさんが広場にやってきました。
朝から嫌なことばかり起こって、アライグマさんはイライラしています。
テーブルの角に足の小指をぶつけ、階段からは転げ落ち、おでこを扉で打ってしまったからです。足から頭まで痛いところばかり。
そんな時です。
三匹が集めた葉っぱを見つけたアライグマさん。
「あれれ、あんなところにゴロゴロしたら気持ちよさそうな葉っぱの小山がある! にひひひ」
そう言って笑ったかと思うと、タタタッと勢いよく走って葉っぱの小山に飛び込んでしまいました。
ハ゛ッサーーン!!!
「「「あぁ!!」」」
三匹が集めた葉っぱはひらひらと舞い、パラパラとドングリが辺り一面に飛び散ってしまいました。
「わははははは」
葉っぱまみれになったアライグマさんは楽しそうに笑っていますが、それを見た三匹はとても悲しそうです。
すると、リスさんが言いました。
「そんなに暴れてばかりだと木の根っこに捕まっちゃうよ?」
「わはははは。そんなの嘘だね」
「本当だよ。嘘だと思うなら、あそこにある根っこの前に立ってみなよ」
「嫌だね」
「もしかして怖いの?」
「怖くないよ! そこまで言うなら立ってやるよ」
そう言いながらアライグマさんは木の根っこの前に立ちますが、心の中では怖くて怖くてたまりません。
「本当は怖いんでしょ?」
「平気だよ」
「嘘をつくと根っこに捕まっちゃうよ?」
「平気、平気」
その時でした。
とつぜん木の根っこがシュルシュルッとアライグマさんに巻きついて来たのです!
「わわわっ、たっ、たすけてぇー!!」
根っこに捕まってしまったアライグマさん。
三匹も驚いてアライグマさんを助けるため、クマさんとキツネさんはアライグマさんの手を引っ張ります。リスさんは根っこを剥がそうと頑張ります。
そこに歌上手なコマドリさんが歌の練習をしながら飛んできました。
コマドリさんは歌うことが大好きです。
その歌声は毎日森に響き渡り、歌声が聞こえない日はありません。
森の向こう側で歌っているお母さんと同じくらい上手に歌いたくて今日も練習します。
「ピリリリリリ、ヒンカララ、ヒンカラリリリリリ」
広場で歌っていると根っこの近くで動物たちがわあわあと騒いでいます。
コマドリさんは気になって三匹に聞きました。
「あら、みんなで何をしてるの?」
「「「アライグマさんを助けているの!」」」
「ふーん。それなら、私は応援してあげる。1、2、ピリリ。頑張れ、頑張れ、ヒンカラリ」
と、コマドリさんが歌うように応援します。
その掛け声に合わせて三匹が引っ張ります。
すると、徐々に根っこからアライグマさんの体が抜け出てきました。
「1、2、ピリリ。もうすぐ、抜ける、ヒンカララ」
スルスルスル、スポンッ!
「「「「抜けたぁ!!」」」」
アライグマさんの体から根っこが外れてみんな大喜びです。
「わーん! みんな助けてくれてありがとう」
泣きながら、お礼を言っているアライグマさん。
みんなも良かったねと口々に声をかけました。
アライグマさんは気づいていたのです。
最近、よくあちこちをぶつけてしまうのは体が大きくなったからだと。
毛並みも変わり、牙も鋭くなって大人になり始めていたのでした。
その急な体の変化に心がついていけず、いつまでみんなと一緒にいられるのかと不安になって暴れてしまっていたのでした。でも、悪い動物になった訳ではありません。本当は素直で優しい動物なのです。
みんながアライグマさんを囲んで喜んでいた時、リスさんはかばんを持って木の根っこへ近づいていきました。かばんからおやつのビスケットを取り出すと木の根っこの前に置きます。
そして、小さな声でお礼を言いました。
(ヘビさん、ありがとう)
すると根っこのフリをした食いしん坊のヘビさんがにゅっと顔をだしてニッコリと笑うと、リスさんがくれたビスケットを食べ始めました。
一体いつから、リスさんは根っこがヘビさんだと知っていたのでしょう?
リスさんにもらったビスケットを食べ終えたヘビさんは知っています。
この寒い冬が過ぎて春が訪れる頃、逆さ虹は消えてしまうということを。逆さ虹が消えてしまう前に、こどもの国にいる動物たちはオンボロ橋を渡っておとなの国へと行かなければなりません。
もう、向こう側へ渡っている動物も何匹かいます。
そのことに気がついているのはヘビさんの他にはアライグマさんとキツネさんだけでした。
だから、アライグマさんは不安から暴れてしまい、キツネさんは毎日みんなと一緒にいられらようにドングリ池にお願いしていたのです。
それから、泣き止んだアライグマさんと葉っぱの上でゴロゴロしたみんなは、ドングリ池にいってお願い事をします。
一匹づつ順番に、池へ向かってドングリを投げ入れました。
ちゃぷん
「「「「「「これからも、みんなが仲良くできますように」」」」」」
波紋が広がったあとの池には、とってもキレイな逆さ虹が映っていました。
おしまい。
リスさんは、根っこがヘビさんだといつから知っていたのか?
いたずら好きだからヘビさんと初めから協力していたのか、それとも根っこを引き剥がそうとした時か、はたまた根っこは本物でヘビさんはただ隠れていてリスさんのお礼は全く別の意味という事も。
そこはご清覧頂いた方が、好きなように想像してもらえれば嬉しいです。