叶わぬ願いは白の中に埋もれる
山も谷もありません。
ちょっと違う文の書き方も試してみたくて書いたので面白みが全くないです。泣
暇つぶしにぼけーっと読むの推奨。
世界観はProcursatorと同じ違う時間軸です。
「アンタ…迷子か?」
しんしんと、白き雪が降り積もる深き森。背後にそびえるそり立つ岩肌も、自分の何倍も高く伸びる立派な木々も、私の辿った道筋をかすかに残す地面も。全て真っ白に彩られる白銀の世界。その中で呆然とするノンナに話しかけてきたのは見たことのない、奇妙な格好をした少年だった。
銀色の短い髪に鋭く切れ長な黄金の瞳、薄い唇からは八重歯のようなものが飛び出している。毛皮でできた暖かそうな服を着て、訝しげにこちらを見ている姿は、確かにノンナ種族とそう代わりないかもしれない。歳だって同じくらいであろう。男女の差がある分、身長や身幅は彼の方が少し大きいが、幼馴染のダヴィートと比べればそう変わりはない。
ただ一点。髪と同じ銀色の耳と尻尾が生えているということを除いては。
「あなた…なに?」
「なにとはどういう意味だ?」
少年の怪訝そうに顰められていた眉間が、より一層皺を濃く刻む。どうやらノンナの質問の意味が理解できなかったようだ。ノンナは確認するようにまた目の前の少年に視線を滑らせ、やはり困ったような笑みを浮かべた。
「どう見ても私の知ってるどの種族にも当てはまらないのよ…もしかして魔物とヒュム族のハーフとか?」
そう言ってノンナは困ったように首を傾げる。彼女の知ってる中で、あのようなふわふわの毛並みを持つ生き物は、魔物の野獣に分類される生き物でしか見たことがない。
「狼牙族だ。まぁ、ウルフと交わったヒュムから生まれたらしいから、あながち間違いではないがな…」
ノンナの言葉が気に障ったのか、少年は機嫌悪そうな表情をそのままに面倒くさそうにノンナの質問に答える。
「ウルフですって!?本当にあのウルフ??」
少年の言葉にノンナは食いつくように聞き返す。その瞳は彼女の好奇心を全面と押し出し、キラキラと輝いている。
「…だったら何だというんだ。」
「だってすごいじゃない!!今ではもう幻とされているあのウルフなのよ!!」
ノンナの食いつきように、少年は得体の知れないものを見るような視線を向けているが、ノンナはそんなことを気にもとめず、彼に顔を近づける。急に近づいた距離を嫌がるように、咄嗟に少年は後ろに一歩下がった。
「何を聞いてるのかは知らないが、ウルフや俺たち"狼牙族"が減ってしまったのは、アンタら他の種族がオレらを大量に狩ったからだろうが!!」
真っ直ぐに睨んでくるその瞳に、黒い感情が見え隠れする。
「狼信仰…聞いたことないか?『"神に遣わされし獣"を携えるもの、命あるものを守り抜く力となるべし』。」
「ウルフが"神に遣わされた獣"というのは聞いたことあるけど…その信仰とかは知らないわ。」
鈍いのか、気がつかないふりをしているのか。剣幕な少年とは反対にノンナはキョトンとした顔で彼を見つめる。しかしその様子がさらに少年の、彼女に対する疑念を深めた。
「じゃあ、なぜここにいる?アンタは他の奴らのように、オレたちを襲いに来たのではないのか?」
少年の探るような視線に、ノンナは悠然と笑っている。
この冬に閉ざされた極寒の森に狼牙族と魔物以外に住まうものはいない。来たとしてもそれは"狼狩り"の奴らか、英雄平原の端にある崖から転落し、迷子になった者くらいだ。しかし、後者は最近ではかなり少なくなったし、何よりあの絶壁から落ちて生きている人間など一握りにも満たないだろう。
(本当にこの女は何者なのだろう。)
少年はその全身マントに覆われた少女に目を凝らす。自分より少しだけ背が低い、自分とそう歳の変わらぬ子供だ。この白く覆われた世界であまり見ることのない萌黄の色を宿した瞳は、濁ることなく少年を見つめている。
「ただ、旅をしているのよ。」
ノンナはそう言って少年に笑った。そして、寒さで赤く染まった指先をゆっくりと頭に持っていき、そっと被っていたフードを取り払う。そこにあったのは藤色の長い髪から覗く尖った耳。精霊族、最大の特徴の1つであった。
「まだ生まれたばかりでね。世界を知るために旅をしているの!」
ノンナはおっとりと笑う。
「世界の調和を守るのが私たち精霊族の役目。そのために世界を見て回るのは当たり前のことじゃない?」
「だからこんな僻地まで…難儀な奴だな。」
少年はノンナの言葉に呆れたように笑みを作る。その瞳には先程まであった鋭い敵意も、憎悪も感じられない。
「…警戒を解いて良かったの?」
「精霊族は狼牙族を襲ったことは一度もない。」
「そりゃあ、"神から遣わされた同士"を襲うなんてできないわ。」
薄暗く閉ざされた空にそっと白い息を吐く少年に、ノンナは悲しげな笑みで笑う。そっと差し出した掌で、淡い雪のかけらが柔らかに溶けて消えていく。
地上の生き物はなんでこんなにも哀れで、か弱いのだろう…
「この森は本当に美しいわね。」
「何もない、雪に覆われた森がか?」
「だからよ。」
うんざりしたように笑う少年に、ノンナは優しく笑いかける。凍える白に閉ざされたこの場所は、厳格なまでの清らかさを保ちそこに存在すらなら、他の地では豊かさと引き換えに今も争いが起き、沢山の罪なき命が血を流している。
「アンタはこの世界が好きか?」
「わからない。けど、美しいとは思うわ。」
「オレは嫌いだね。」
ノンナの言葉に、少年は辛辣な声を被せる。その表情は皮肉げでありながらどこか物悲しげで、とても寂しそうにノンナには見えた。
「アンタは世界の調和を保つために生まれたんだろ?」
少年は地面を見たままノンナに問いかけた。少しずつ、空から降りては積み重なる白い影が、2人の痕跡を消していく。
「だったら、仲間も、他の種族も生きやすい世界がいい。」
「……」
「出来たらでいいからさ。」
「……わかったわ。」
少年の真剣な言葉に、ノンナは小さく頷く。先ほどより雪が降りてくる数が増え、2人の視界をより一層白く塗りつぶしていく。
「そろそろ行かないと…」
呟くような小さな声に、少年の耳がピクッと反応する。その様子にノンナは小さく笑みを浮かべると、真面目な表情で彼を見つめた。
「名前…なんて言うの?」
「テジ。」
「テジ…私はノンナ。」
ノンナは噛みしめるように一度彼の名を呟くと、テジににっこりと笑いかける。そして、わざとらしくその場でくるりと回ると、彼に背を向けて歩き始めた。まるで何かを振り払うように…
「またそのうち遊びに来るわ。」
「…あぁ。」
ノンナは後ろ手にテジへと手を振り、振り返ることはなかった。テジはそんな彼女の背中が白の世界に紛れて消えるまで、ずっとその姿を見送った。
彼女が"闇夜を支配し、この調和の乱れた世界を壊す者"だとは知らないまま。
お粗末様でした〜!!