決戦前の集会
全員で同じ釜の飯を食べて団結し、徐々に人を増やしていたある日のこと。
王都を見晴らせていたカラスの目に、勇者国に向けて出立する国王軍の姿が映った。
「来るか……」
「んゆ? どうしたの、お兄ちゃん?」
「次男が軍を動すみたいだ。兵士達の話しを聞く限り、寄り道なしでここを目指してる」
どうやら本気で滅ぼすつもりらしく、最小限の兵力だけを残しての出立のようだ。
集団の中には次男本人の姿もあり、さながら最終決戦といったところ。
「んー、そうなんだ。ってことは、お兄ちゃんの予想通りってことだよね?
私は予定通りに準備したらいいの?」
「あぁ、そうなるな」
ここ数日の王国の様子を見るに、そろそろ危ないかなー、と感じていたので、勇者国の皆にはそれとなく伝えてあった。
ずっと平和だったらいいのにな、といった希望もあって意喚起程度にしておいたのだが、残念ながら無駄にならなかったらしい。
「それと、悪いんだが、サラ達にも伝えてもらえるか? 敵が来るから準備してくれって」
「はーい。了解しましたー。
それじゃ、行ってくるね」
そういって、クロエがパタパタと駆け出して行った。
それから3時間ほど経過した頃、俺はアリスに作ってもらった高さ4メートルほどの御立ち台に昇っていた。
背後にはサラやクロエ、アリスにミリア、ノアといった、いつものメンバーが勢ぞろいしており、眼下には綺麗な縦列を組んだ仲間たちがいる。
「今日は良く集まってくれた。勇者として礼を言う」
数にして凡そ800。
子供や年寄り、妊婦などの戦えない者を除いたほとんどの者が、ここに集まっていた。
「すでに周知していることではあるが、今朝、王国の軍が王都を出立し、ここを目指している事が判明した。
勇者の力で確認した限り、その数は、4000人」
俺がそう言葉にすれば、仲間たちから動揺の声があがる。
800人 対 4000人
普通に戦えば、どう考えても勝ち目はない。
「俺達と敵の戦力の差は、5倍程度。守る側である俺達が地理的に有利ではあるものの、絶望的な差と言っていいだろう。
だが、俺達には今日までに蓄えた力がある。
武器は数え切れないほどあり、食料も充実している。外壁は王都に負けないレベルになった」
簡易で作り始めた壁は、日に日に高さを増し、間に土が入り、さらには水が入った堀まで作られていた。
そんな信頼できる壁を思い浮かべながら、背後のサラ達と、集会場の端に立つ女性達に視線を送る。
俺の意図を理解した女性達は、パタパタと支度を開始。サラが俺の前へと食糧の入った器を持ってきてくれた。
「皆も知ってのとおり、俺は勇者だ。そして、俺が育った、この世界に来る前に居た国では、そこに暮らす者のすべてが勇者だった。その秘訣。勇者の秘密をお見せしよう」
そんな言葉を皮切りにサラたちが、手のひらサイズの食糧を取り出し、全員が注目しやすいように掲げて見せた。
お茶碗1杯分のごはんを愛情を込めて三角形に握ったもの。
「これはおにぎりと言って、勇者達が戦いの場や遠征時に力を得るための食べ物だ。、これを口にすれば、ここに居る全員が、勇者の力の一端を得ることが出来る!! おにぎりは全員に行き渡るだけの量を確保した。ここに居る全員が勇者の力を得られる!!」
先ほどの4000人と言う言葉以上に、会場がざわついた。
王国にはない力をここに居る全員が手に入れることが出来る。それは希望というほかないだろう。
「我々全員が勇者となれば、王国軍など恐れる必要などない。我等の真の力を見せ付けてやろうじゃないか。
全員、拳を高く掲げろ。そして、勇者国ここにありと吼えて見せろ。皆、戦えるな?」
「「「イエッサーー!!」」」
「よし、ならば米を食え。武器を持て。
王国のやつ等を追い返してやるぞ!!」
「「「おぉぉぉおぉおぉーーーーー!!!!!!」」」
その日、勇者国はひとつになった。




