王都の偵察 3
勇者国の食料改善と、王国との差別化を願って作った2種類のタネを鞄に仕舞い込む。
「ノアさんもミリアさんも、本当に優秀で。2人がいないと我が社は立ちゆかなくなりますね。本当に助かってますよ」
「そうですか、そうですか。それは良かった。叔父の私が言うのも何ですが、この子は昔から手のかからない子でしてね……」
程なくして運ばれて来たお菓子とお茶を手に、ノアとミリアの昔話で盛り上がっていた。
自分のことが議題に上がっているためか、ノアはどこか居心地悪そうに顔を赤らめているが、時折お菓子に手を伸ばしては、幸せそうに顔をほころばせていた。
「……な、なぁ、クロエ」
「んふゅう? ほうひぁんでふぁ?」
「…………い、いや。なんでもない」
一番幸せそうなのは、クロエである。
右手にフレンチトースト、左手に大きなクッキーを持ち、頬袋をパンパンに膨らませていた。
出されたものとはいえ、あまりにも遠慮がなさ過ぎる。
「いや、ほんと、すいません」
「ははは、いいんですよ」
優しそうな笑みを浮かべて店主が笑ってくれるが、ひとえにクロエのかわいさゆえだろう。
「お口に合いましたでしょうか?」
「あ、はい。とっても美味しいですよ。
それこそ、クロエがあんな状態になってしまうほどに」
この世界に来て食べた物は薄味のものが多かったが、さすがに高級店だけあって、しっかりとした甘みがあった。
「そうですか、それは良かった」
お城でサラにもらったものと比べれば、少しだけ寂しくも感じるが、それは比べる先が悪いだろう。
そうして和やかに会話を続けていれば、不意に服の裾が引かれた。
「お兄ちゃん。このクッキー美味しい!! はい、あーん」
「へ?? あ、あぁ。……あーん」
促されるままに口を大きく開ければ、クッキーを差し出してクロエが近付いてくる。
『見張られてるみたいだよ。お兄ちゃん』
笑みを浮かべたまま、クッキーを口の中に放り込んだクロエが、俺の耳元でそんな言葉をつぶやいた。
(ん? は? え? 見張られてる!?)
「おや、どうかしましたか?」
「……あー、いえ。本当に美味しいクッキーだなー、と思いましてね」
「おぉ、そうですか。それはよかった」
不思議がる店主に適当な言葉を返しながら、笑って見せた。
見張られている。
その原因は、俺が勇者国の代表だからというもの以外にないだろう。
「そういえば、本人からの話ってあまりなかったですね。そんなわけで、ノア、よろしく」
「え?? ん? はい、了解しました。えっと、あんまり詳しくは言えないんですけど、最近は商品の開発なんかを……」
店主はノアに任せるとして、今後どうするか、だな。
冷静になって考えれば、何故俺達の場所がばれたかなんて1つしかない。
この店が通報したのだろう。
バレた原因は不明だが、そこは追々考えればいい。
現在部屋には、俺達と店主だけ。
扉は閉まっているが、出口は俺達の後ろ。
扉の向こうには、槍を構えた兵士が1人だけ。
クロエに兵士を任せて、状況を知らないノアは俺が抱えて逃げれば良いだろう。
『クロエ。タイミングを合わせて飛び出すぞ。ノアは任せろ。いいな?』
『はーい。まかせといてー』
手を背後に回し、5、4,3、と指の本数を減らしていく。
ガタン、と椅子を蹴り上げて、ノアの腰に手を回した。




