美女と美少女
服代として金4枚、1億2千万円を支払って店を後にした。
3千万円もする服に身を包んだクロエが、夢見心地な雰囲気で隣を歩いている。
「えへへー。お兄ちゃんもその服、かっこいいねー」
「そうか、それは良かった。とりあえず買い物は終了だな。サラ様のもとに帰るからそのつもりでな」
「……え??」
だが、そんな笑顔も俺の一言で消え去ってしまった。
「王女様に会いに行くの??」
「あぁ、そのための服でもあるしな」
「…………うん」
表情を曇らせたクロエが、自信なさげにうなずいた。
「大丈夫だ。気楽に構えてればいいさ」
「うん……」
奴隷商で出会った時と同じような雰囲気に、逆戻りしてしまった。
クロエの手を引いて、召喚された部屋に向かう。
緊張に体をこわばらせる彼女に癒やされながら重厚な扉を開けば、少しだけ不機嫌そうな表情を見せるサラに迎えられた。
「少しばかり遅かったじゃないか、ボクとしては罰を与えようと考えているのだが、まずは言い訳を聞こうか。
それとも、誠意を見せるために、何も言わずに檻に入るかい?」
1日ぶりに見た彼女は、明らかにご立腹だった。
本来の予定では昨日の夜に帰宅することになっていたため、約束時間から半日遅れたことになる。
怒られても仕方ないと思うのだが、こっちも頑張った結果なのだから、出来れば大目に見て欲しい。
「悪いな、本当に言い訳になるんだが、サラに似合う服を探していてさ。
姫様のために一生懸命に作り上げたんだ。受け取って貰えるか?」
御機嫌取りのために、右手に下げていた毛皮の袋をサラに差し出した。
中を覗き込んだサラの顔に、面白そうな笑みが浮かぶ。
「ふーん。キミのいた世界のファッションかい?
キミの後ろに隠れている少女の服もそうだが、悪くないセンスだね」
「そうだろ。サラは綺麗だから、特に気合を入れて作ったんだ」
「……そう言われると、悪い気はしないね。
仕方がない、この服に免じて、罰は取りやめにしてあげるよ」
どうやら、御機嫌取り成功なようだ。
「姫様の慈悲に感謝します。……とりあえず、こっちはそんな感じだ。
かなり時間はかかったが、人と物は準備できた。サラの方はどんな感じだ?」
「無論、何の問題もないよ。例の物も仕上がったしね。……見るかい?」
「そうだな。丁度良いし、服と一緒に御披露目って事で。
とりあえず、その服に着替えてもらえるか? もちろん、仕上がった物と一緒にな」
「了解した。少しばかり待っていてくれ」
服を抱きしめるように抱えて、彼女が部屋を出て行った。
ホッと息を漏らしたクロエが、慌てて詰め寄ってくる。
「おにいちゃん。姫さまに、ころされちゃう、あんな、ことば!!」
どうにも、かなり緊張しているようだ。
まぁ、連れてくる前から予想はしていたけどさ。
「大丈夫だから、すこし落ち着け。な。
ってか、クロエ、顔色悪いぞ、大きく深呼吸してみろ。
ほら、すってー。はいてー。すってー」
そして、待つこと10分ほど。
極度の緊張で血流の悪くなってしまったクロエを落ち着かせていると、着替えを終えたサラが帰ってきた。
「なかなかに興味深い服だったよ。
どうだろう、ボクはこの服をキミの思い通りに着こなせているかい?」
そういって、サラは、両手を大きく広げてみせる。
白のブラウス、胸元が開いたベスト。
膝丈のスカートが揺れていた。
赤フレームのメガネが、サラの魅力を大幅に引き上げていると思う。
出会った瞬間から絶対に似合うと思っていた衣装なだけに、感動もひとしおだ。
こちらにもタイトルを付けるなら、図書室の女神だな。
そうして自分の仕事に顔を綻ばせていると、サラが満足げにうなずく。
「彼女を見たときは、正直、負けたと思ったが、キミの表情を見るにボクもまだまだ捨てた物ではないようだね」
「あぁ、出会った中で1番の美人だな。メガネも良く似合ってるぞ」
「そうか、ありがとう。……キミに褒められるとなんだかふわふわした気分になるね。っと、そうだ。着替えのついでに、厨房からお菓子を貰ってきたんだ」
お菓子と聞いて、クロエの雰囲気に変化が見えた。
ほんの少しだけではあるが、緊張が和らいだように感じる。
なぜこのタイミングでお菓子?
とも思ったが、緊張しすぎて使い物にならないクロエを改善するための作戦なんだと思う。