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布告

 城内で1番最上階に位置する第1会議場。


 歴代の王が側近達と意見を交わすために作られた部屋であり、月の初めに各部署のトップが顔を合わせ、王の意見を伺う部屋である。


 その場所は、王不在の現在であっても、非常に重要な役割を担っていた。


「俺の許可もなく、俺の住民を殺戮したそうだな?」


「んー? やだなー、いつからこの国の住民は兄貴の物になったのさー。許可なんていらないでしょー」


 40人ほどが横並びに座れるようなテーブルを挟み、第1王子と第2王子、王の座を争う2人が向かい合って火花を散らせていた。


 そんな2人の横には軍や行政の重鎮達が座り、神妙な表情で兄弟げんかを見守っている。


 本来ならば、国内情勢を話し合い、国の方針を決めるはずであった定例会は、いまや、権力競争の場と成り果てていた。


 テーブルを境にどちらの王子側に座るかで、その者が所属する派閥を示し、相手側のミスにつけこんでは、その敵を排除し、自分の息がかかった者を送り込む。


「それに言っとくけど、僕は自国の民を殺した訳じゃないからね?

 ねぇ、あれ出して」


 第2王子が合図を送ると、彼の側仕えが人の顔に彫られた木を運んでくる。


「うん、ありがとう。

 さてさて、優秀なお兄様。

 これなーんだ?」


 首から下がないその像はかなり精巧に作られており、木目がなければ人の首だと勘違いしてもおかしくない物だった。


「…………」


 このタイミングで取り出してくるということは、何かしらの物的証拠だと思うが、心当たりのない第1王子には沈黙を守るしかない。


 そんな第1王子を眺めて、第2王子が楽しそうな笑みを浮かべた。


「んん? あれー? 知らないの?

 偉大なお兄様ともあろう御方が情けないねー。

 んー、じゃぁ、特別に教えてあげるよ。


 これは、勇者を語る偽者を模した物でねー。俺が成敗した村にあったんだー」


 すなわち、自分は領民を殺したのではなく、氾濫分子を排除しただけだと第2王子が語る。


「……ッチ。

 それが勇者を模したとする証拠はあるのか?」


「んー? あれー? んん?

 もしかして、もしかすると、偉大なる兄貴様は敵の顔をご存じない?

 いや、まさか、王を目指そうとする者が情報に疎いなんて事はないよねー?」


 実際の所、第1王子には、その像が偽勇者を象ったものであるかどうかはわからなかった。


 一応、第1王子側にも勇者の姿を確認した者はいるのだが、その者に判別させると、自分は知らなかったと宣言していることになってしまう。


 ゆえに、彼は認めるしかなかった。


「……よかろう。今回の虐殺は、敵の排除だったと認めてやる」


「あ、そうそう。

 同じような村がもう1つあったから、歩兵を1個中隊行かせたからね。

 いやー、事後承諾になってしまってゴメンねー」


「……ッチ。

 仕方がない、その件に関しても大目に見よう」


 自国の民を殺すなど、王を目指すものならば絶対にあってはならない。故に、今回の第2王子の暴走で自分の勝利を確信していた第1王子だったが、目論見は大きく外されてしまった。

 そのことに、内心では舌打ちしつつも、これ以上の追及は無駄だと判断した彼は、別の切り口を模索し始める。


「そんなことよりもだ。

 前回の会議で話があった塩の権利なのだが――なっ!!」


 しかし、そんな第1王子の新たな切り口も、1枚の紙によって妨害されてしまった。


 第1会議室の中央、2人の王子の間。

 この国で1番セキュリティが高いと言えるその場所に、1枚の紙がヒラヒラと舞い落ちてきたのだ。


 その瞬間、室内は殺気立ち、壁際に配置されていた兵達が柄に手をかける。


 たかが紙切れ1枚で、辺りは爆弾でも見つけたかのような雰囲気になった。


「っ!! アルフレッド王子、危険です、お下がりください!!」


 だが、そんな雰囲気の中でも、第2王子だけが平然と舞い降りてきた紙に近づく。


「大丈夫だよ。魔力の反応なんてないからさ。

 それに、僕だからね」


 気負うことなくテーブルの上に落ちた紙を拾い上げた第2王子は、そこに書かれた文字を確認し、楽しそうな笑みを浮かべた。


「んー、どうやら僕と兄貴に宛てた手紙みたいだよ。

 差出人は勇者とその仲間だってさ」


「……なんだと?」


 どうやら敵の手紙が王子2人の前に降って来たらしい。

 第2王子の言葉でその事実を知らされた側近達は、事情を把握すると同時に青ざめていった。


 たとえ手紙であったとしても敵の物が直接王子に届くなど、絶対にあってはならない事態であり、しかも、それが国の根幹を担う第1会議場で起きたなどとあっては、国の重役が総入れ替えとなってもおかしくない状況である。


 しかし、そんな雰囲気も自分には関係ないとばかりに、第2王子は勇者からの手紙を自ら音読し始めた。


『前略 お兄様方に伝えたいことがあるとボクの主である勇者様が申されたので、彼の代わりに元第4王女で、現在は勇者国の王妃となったサラ・オオヤマが手紙を書かせて貰った。


 まずは結論から伝えたいと思う。

 そちらの国の第2王子が、我が国の民を虐殺したことに対し、勇者国として報復措置を取ることにした。


 残念ながら、ボク達いは建前や正当性など面倒なことを色々言うつもりはない。

 そこに悪が存在し、辛い思いをしている者が居れば、勇者として見捨てるわけにはいかない。

 ゆえに、たとえそこがボク達の国の領土でないとしても、ボク達は全身全霊で弱者の保護を行う。


 勇者国は、民に成りたい者は積極的に受け入れ、その者を全面的に保護する。そして、外敵は武力にて排除する。


 これは交渉や取引などではなく通告である。ボクからの話は以上とするよ。


            貴方達の妹 サラ・オオヤマ』


 会議室には冷たい沈黙が流れ、第2王子だけが楽しげに笑っていた。


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