近くの街で
クロエの強い希望により開かれた宴会を終えてから2日が経過したその日。
俺達は近くの街に来ていた。
その目的は魔法で作った皿や服の売却と、みんなの息抜きだ。
「お兄ちゃん。あそこでドルビの串焼き売ってるよ。
買ってもいい?」
「まてまて。
先に今後の予定と集合時間を――って聞いてねぇな」
昨日は死屍累々な状態で、とてもじゃないが外出できるような感じではなかった。
地獄絵図という言葉がぴったりな状況だった。
誰だよ、酒を手作りしてうちの女性陣に飲ませた奴は! ほんと、大変だったんだからな!!
脱ぎだすやついるし、
俺のこと縛りだすやついるし、
にゃーにゃー言い出す奴いるし、
ずっと怒ってるやついるし、
カラス食べようとする奴いるし、
爆薬作りだす奴いるし、
リアムたちは、後は夫婦水入らずでお楽しみください、とか言って早々に帰りやがるし!!
絶対に褒美以外でお酒を出してやらねぇからな! 造った酒は俺1人で全部飲んでやる!!
あー、もしかすると、戦闘より宴会の方が疲れたかもしれないな……。
「へぇー、ボクの記憶が間違っていなければ、王都より活気があるように見えるね。
ずっとこんな雰囲気なのかい?」
「そうですね。毎日が収穫祭してるような感じの街です。
私とお姉ちゃんは何回も来てますから、困ったことがあったら聞いてください」
照れたような表情を浮かべながら、ノアが胸を張った。
両親が健在だったときに、商売目的でよく訪れていたそうだ。
「頼もしい限りだね。それじゃぁ、遠慮なく頼らせてもらうよ」
「はい、任せてください!!」
俺たちが訪れた町は、貿易の拠点として利用される場所で、商人の往来が多く、飛び入りで参加できるフリーマーケットが毎日のように開かれているらしい。
ミリア曰く、この町の面白いところは、町に入る際の審査がないこと。
なんでも、町を出るときに返還される保証金と入町料さえ支払えば、誰でも入れるのだとか。
悪人だろうとなんだろうと、町でお金を使ってくれる人はお客様ってことらしい。
(いやいや、そんなんで治安とか大丈夫なのか?)
なんて思ったのだが、自衛の兵士が常に巡回しているため、犯罪率は低いそうだ。
さすがはお金が主体の街と言うべきか、門を抜けた先には、露天が所狭しと並び、活気のいい声が耳に飛び込んでくる。
ノア曰く、町全体がお店のような状態で、1日ですべての店を診て回ることは不可能な数らしい。
「ただいまー。お兄ちゃんにも1本あげる」
「あぁ、ありがとう」
そんな町の活気に吸い寄せられて食いしん坊魂に火がついたクロエが、5本の串を手に帰ってきた。
そのうちの1本がすでに串だけの状態で、満開の笑顔が咲き乱れている。
「安くて、新鮮で、美味しいよ!!」
進められるままに、魔物の肉だと思われる塊を口の中に放り込む。
軽く噛めば肉はあっさりと切れ、薄い塩味と芳醇な旨みが口の中に広がった。
「……うまいな」
マグロの赤身を表面だけバーナーで炙っり塩を振ったかのようなその味に、幸せななつかしさがこみ上げてくる。
醤油欲しいよー。わさびも欲しいよー。
日本酒か白いご飯をください。
もしくは俺に、米と糀を使わない日本酒の造り方を教えてください。
「美味しいでしょ」
「……あぁ、見た目は肉なのに、魚のような味だな。びっくりした」
「えへへー。この町は美味しそうなものが一杯だね」
「そうだな」
ん? ってか、商売がメインの町だったら、米もどこかに売ってるんじゃないか?
もちもちな日本の米までいかなくても、タイ米みたいなのくらいならあるんじゃないか!?
白いご飯は無理でも、ピラフくらいなら可能なんじゃないのか!?
よし、今日の目標が決まったな!!
「今日の予定だが、この後すぐ宿を決める。そして、その後は自由行動とし、明日の昼ごろにダンジョンへと帰る。
それでいいか?」
そういって、全員を見渡してみたが、誰からも異論の声は上がらなかった。
「うし、それじゃぁ、ノア。
オススメの宿とかあったら教えてくれ」
「はーい。
兄様、予算はどのくらいですか?」
「ん? ……あー、程々な感じで。
朝食付きの個室でよろしく」
「んー、それなら、あそこでいいかなー。……うん、決めた。
それじゃぁ、みんな、はぐれないように付いてきてくださいねー」
どうやら該当する宿があったらしい。
美味い飯が出てきたらいいな。……ん? ご飯?
「……クロエ。ちょっとこっちに来てくれないか?」
「んー? どうしたの?」
「宿に到着するまで俺の手を握っててくれるか?
屋台にふらふらーっと吸い寄せられていなくなりそうだからな」
「……んー、……わかった。握っとく」
何処となく不満げな表情を浮かべたクロエだったが、自分でも食の誘惑に勝てないと思ったのか、素直に手を繋いでくれた。
「ダーリン。アリスとも手を繋ぎなさいよね」
「ん? なんでだ?」
「な、なんででもいいじゃない。
ダーリンは黙って手を出せばいいのよ」
「……へいへい」
なぜかそういうことになり、食品系の店に目を奪われるクロエと上機嫌なアリスを引っ張りながら、ノアの後について行った。




