侵入者11
「動くわけがないし、恐らく生きていたんだろうな。……え?? サラ、死体って動かないよな?」
「そうだね。リビングデッドや操作魔法なんかが使える魔法使いがいれば可能だけど、今回に限っては僕達がいたからね。
誰の目にも触れることく、忽然と消えてたことから考えると、十中八九、移動魔法を使ったと思うよ」
「そうか……」
一応は否定してくれたが、不可能ではないようだ。
だが、消えているのが移動系の魔法使いということを加味するれば、生きていたと考えるのが妥当だろう。
「残りの遺体はすぐに埋葬する。
それと同時進行で王都の様子も確認してみるから、結果がわかり次第またここに集まることにしよう。異論はあるか?」
そう結論を出して仲間の顔を見渡せば、クロエが大きく手を挙げた。
「お兄ちゃん、質問していい?」
「……あぁ、いいぞ?」
「えっとね、宴会の準備はどうするの?」
「ん? ……あぁ、そういえば、そんな話をしていたな。
悪いが、事情がかわったから、状況が把握できるまで宴会は延期する。それでいいよな?」
俺がそういうと、クロエは驚いたように目を開き、頬をプクーっと膨らませる。
「……やだ」
「いや、やだって……」
「やだもん」
クロエが拗ねてしまった。
けど、まぁ。この状況で明日宴会ってわけにはいかないよな。
「クロエは、俺と食事、どっちが大事なんだ?」
我ながら卑怯な質問だとは思うが、仕方がない。
もし移動魔法が使える者が生きて王都へ帰ったとすれば、俺達の人相や戦い方など、俺達が不利になる情報が敵に渡ることになる。
早いうちに状況を把握し、対策を立てなければ、取り返しの付かないことになる可能性が高かった。
「ん? お兄ちゃんと食事?
んー………、食事」
ん? …………え?
……あ、はい。
そうですよね。……知ってましたよ?
俺なんかが人間の三大欲求の1つに勝てるはずないですよね。
あれ? なんだろう。目から汗が……。
「悩む素振りを見せてくれてありがとうございます」
そう、即決じゃなかった。一応、悩んでくれた。俺はそれだけで満足です。
…………ほんとだよ?
さて、どうするかな……。
クロエが納得してくれそうなこと、……うーん。
やっぱ、飯関係だよな。
「あー、クロエ。飯の量を増やすので、日にちを延長させてくれませんか?」
「ごはん、増量? んーーーー、…………。うん、わかった。約束だからね」
えーっと、あのー、クロエさん。先ほどの質問より今回の方が悩んだ気がするのは、俺の気のせいですかね?
気のせいだよね? そうだよね?
周りのみんなも、俺を哀れむような目をしているのも気のせいだよね?
……うん。気にしない。
「……みなさま、解散してください」
「イ、イエッサー」
そうして精神に大きなダメージを受けながら自室に戻った俺は、全身系を集中して王都周辺に配置したカラス達と感覚を共有した。
そして見つけたのが、第2王子に報告をする魔法使いの姿。
やはり移動系の魔法使いが生きていたようだ。
(つめが甘かったか……)
俺達の戦い方や人相が王子たちに、伝わってしまった。
移動魔法が使える者を即死させることが出来なかった原因は俺で、回復魔法が使える者に魔法を使う時間を与えてしまったのも俺だ。
俺がみんなに心配を掛けなければ、アリスに連行されることもなかった。
(すべての責任は、俺か……)
俺は何のために彼等の命を奪い、何のために彼女達の手を汚させたのだろう。
自分の無能さ加減が嫌になる。
「今回の結果は仕方のなかったことだから、自分を責める必要はないと進言させて貰うよ」
「そうだよお兄ちゃん。
私の焼き鳥あげるから、元気出して」
「終わったことを悩んでても仕方ないわよ。
みっともない顔してないで、笑いなさいよね」
「兄様は笑ってるほうが、似合ってますよ」
「お姉ちゃんがよしよししてあげるから、嫌な事は忘れちゃおうねー」
仲間達に情報収集の結果を伝えると、みんな、同じような言葉を口にした。
どうやら、俺はポーカーフェイスも出来ないらしい。
ほんと、いやになるね。
(さて、俺たちはどうするべきなのか……)
楽しそうに指示を出す第2王子をカラスの視界にとらえて、はぁー……、と息を吐き出した。




