俺の趣味じゃないですよ?
クロエに仕事内容を伝えるためには、俺達の立場を理解してもらわなければならない。
手始めに雇い主が第4王女のサラであると伝えたところ、クロエの顔が驚きに包まれた。
「第4王女様?
第5王女のアリス様じゃないの?」
「いや、アリス様とは会ったこともないな」
王族に仕えている事よりも、その相手の方に驚いたようだ。
クロエを購入したときに、第5王女の話をした関係だろう。
本当に第5王女のお世話をすると思っていたのかもしれない。
「クロエは、サラ様の魔法を知ってるか?」
「うん。たしか、付与魔法が使えるんだよね?」
「あぁ、その通りだ」
この国では、100人に1人程度の割合で魔法使いが生まれる。
魔法使いになる者と一般人の違いは良くわかっていないが、魔法使いの子は魔法使いであることが多いらしい。
そのためか、血のサラブレッドたる王族達は、何らかの特殊な魔法を使えることが広く知られていた。
王族の一角であるサラも例に漏れず、物に魔法を付与する特性を生まれもつ。
市民の間では、付与魔法のサラ様と呼ばれているらしい。
本人曰く、王家を信仰させるために、意図的に呼ばせている部分もあるそうだ。
知っているなら話が早いと、クロエを尋問した際に用いた青い玉を取り出して、クロエに質問をさせる。
「クロエ、ちょっと、俺の主人がアリス様か訪ねてもらえるか?」
突拍子もない話ではあったが、なにかをしようとしていることが伝わったようで、クロエは素直にしたがってくれた。
「御主人様の御主人様は、アリス様?」
はい、とあえて嘘をついた俺の手元では、青い玉が淡い光りを放った。
程なくして光りが収まったかと思えば、手元の玉が赤く染まっていた。
「この玉にはサラ様の付与魔法がかけられていて、手に持った人が嘘をつくと色が変化するらしいよ」
へー、そうなんだー、なんて声が漏れ聞こえるが、良くわかってないように見える。
俺としても魔法の仕組みなんて良くわからないので、適当にはぐらかして本題に入った。
「サラ様は危ない立場にあって、いつ命を落としてもおかしくないんだ。そんな状況を改善しようと俺が動いている。クロエには、それを手伝ってほしいんだよ」
「んーっと?? 具体的には何をしたらいいの?」
「あー、その、なんだ、……俺の妹になってほしいんだ」
クロエがキョトンとした表情で、首を傾げる。
部屋の中に、しばしの静寂が訪れた。
なんだろう、沈黙がすごく痛い。
「……いもうと?
御主人様のことをお兄ちゃんだと思えばいいの?」
「あ、あぁ。簡単に言えばそうなる」
「いもうと、ねぇ?」
喋り方や抑揚などに変化はないが、責められている気がする……。
いや、違うんですよ。
決して俺の趣味とか、特殊な変態とかじゃないんですよ。
いやまぁ、変態か一般人かって聞かれると、変態かなーと思うけど。
「いや、あれだ。作戦成功のためには、サラ様以外の王族とも会わなくてはいけなくなるから、奴隷の立場じゃ色々と面倒なんだ。
だから、俺の妹として振舞ってほしく思う。もし妹が嫌なら他の立場も考えるが、どうだろう?」
言い訳っぽいが、本当なんだ。信じてくれよ。
そんな思いを心の中で温めていると、クロエがゴクリとうなずいてくれた。
「よくわかんないけど、お姫様を助けるために、御主人様の妹になればいいんだね?」
「……そういうことになるな」
「うん、わかったよ。
私、御主人様の妹になったげる」
どうも、良くわからずに答えているように見える。
まぁ、妹になって欲しいなんて話を理解しろって方が無理か。
ずっと優秀だと思っていたがのだが、なせが急にこの子の将来が心配になってきた。
けどまぁ、指示通りの内容で了承されたので、良しにしとこう。
「疲れたし、今日はこのまま寝るか……」
外を見れば既に日が落ちていた。
本当ならもう少しするべきこともあったのだが、クロエは既に目をこすっている。
急ぐべき状況だが、無理はすべきじゃない。
「はーい。お休み、お兄ちゃん」
クロエの暖かさを感じながら、異世界生活1日目が終わった。