侵入者9
強い衝撃が体を襲い、手足の感覚がなくなっていく。
目を開こうにも体が動かなかった。
(どうなって……)
上空を飛び回るカラスの視界を借りれば、全身を焼かれた男が横たわっている姿が見えた。
服は見る影もなく、顔は焼けただれている。正直自分のかも定かではない。
だが、立っていた場所から考えると、自分以外に考えられなかった。
(あれだけの攻撃を受けたらそうなるよな。ってか、敵は!?)
慌てて魔物たちの様子をうかがえば、息も絶え絶えに倒れ込む姿が見える。
どうやら今の攻撃で魔力を使い果たしたようだ。
(追撃はないのか。……よかった)
そう思いながら心の中でホッと息を吐き出せば、血相を変えたサラの姿が視界の端に映り込んだ。
上空を飛ぶ、#カラス__おれ__#の姿は見えていないように思える。
「ノアはすぐに治療を!! クロエは出来るかぎり攻め込んでくれ!!」
「はい!!」「うん!!」
矢継ぎ早に指示を出せば、丸焦げの俺に向かってノアが走り出した。
(いや、俺は良いから。魔物たちの討伐を!!)
そう願うも、言葉を伝える手段がない。
たった1人で敵に向けて走り出すクロエに近寄れば、クロエが視線を向けてくれた。
「お兄ちゃん!? 無事なの!??」
走りながら目を丸くするクロエに向けてコクリと首を縦に振れば、泣きそうになりながらも笑ってくれた。
チラリと丸焦げの俺の方に視線を向けたクロエが、一瞬で表情を引き締める。
「ノアちゃんに任せる。お兄ちゃん、絶対死んじゃだめだからね!!」
そう叫んだかと思えば、スライムのナイフを握り締めて敵の懐に突っ込んでいった。
そんな俺たちの様子を見てか、敵のリーダーも声を荒げる。
「偽勇者は倒した。すぐに逃げるぞ!! 魔法の盾を最大出力で出現させて、即座に――なっ!!」
だが、その言葉は最後まで続かなかった。
矢と石が飛び、その合間を縫ってクロエが飛び出して行く。
「駆逐するぞ!!」
「「「イエッサー」」」
そして魔物たちの背後から、ついこの間仲間に引き入れた5人の男が飛び出してきた。
「ここで新手だと!?」
ノアが抜けた穴を埋めるかのように、男たちが魔物を取り囲んでいく。
背後から迫り来るプレッシャーに気を取られたのか、前衛の男が一瞬だけ背後に目を向けた。
その隙を突いて、クロエがナイフを振るう。
「……はぁぁぁーー!!」
サイドステップで敵の横に回りこみ、スライムナイフをフックのような形に変形させて左肩に突き刺した。
そのナイフを引っ張るように飛び上がり、渾身の力を込めて敵の喉を引き裂く。
「勇者様のかたき!!」
「死にさらせ!!」
待ち続けていた苦悩を晴らすかのように、男たちが剣を振り、次々と致命傷を与えていく。
「ダーリンが!! ダーリンが!!」
アリスの焦りを反映するかのように、石つぶてがその数を増やしていった。
そして気が付けば、すべての魔物の動きが止まっていた。
「お兄ちゃん!!」
仲間たちが次々と俺の周囲を取り囲み、ノアが生み出した布を全身に巻いていく。
(いや、ちょっと巻きすぎじゃないか??)
エジプトのミイラを思わせる自分の姿に、思わず失笑が漏れた。
「ダーリン、死んじゃ、ダメなんだから……」
すがりつくようにアリスが手を握るも、その感覚を感じることは出来ない。
誰しもが涙を見せる姿に、少しだけ気持ちが落ち込んでくる。
(みんなに手を汚させ、魔法をくらって、結局俺は何が出来たのだろう?)
思わずそう思ってしまう光景だった。
(防御施設をより強力にしておけばよかったのかな……)
今更ながらそんな考えが、脳内を過ぎっていた。
5人の男たちには、敵の魔力が切れるまで隠れていてもらったが、それも正しかったのかわからない。
だた、仲間たちが無事だったのは、素直に嬉しかった。
(……それと、……この、…………人たちを丁重に葬らないとな)
そんなことを思いながら、俺は意識を閉じた。




