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侵入者8

「それは最終決定だと思っていいのかな?」


「あぁ、そう考えてくれて構わない。和解交渉には応じられないな」


「…………」


 提案を断られたリーダーは、驚いたように目を見開いた後、不思議そうな表情を浮かべた。

 絶対通ると信じての提案だったらしい。


「……勇者は仲間の命を大切にする存在だと聞いたのだが、違ったのかな?

 断る理由を伺っても?」


「貴方達の任務は、俺達の情報収集。すでに目的は達成してるわけだ。そうだろ?」


「何を言っているのかわからないな。

 俺達は見ての通り冒険者だ。任務なんて――」


「第2魔法部隊所属の3番隊。命じたのは第2王子だったよな?」


 ポーカーフェイスでシレっと返答する相手の言葉を遮り、カラスから獲た情報を挟む。


「…………」


 相変わらずのポーカーフェイスではあったが、次の言葉が続かなかった。


「沈黙は肯定だと受け取らせてもらうよ。お前たちが情報を持ち帰ると、近い将来、仲間に危険が及ぶ。そのための斥候だろうしな。

 今と未来、どちらがより危険かを考えた結果、断ることにした。

 他に聞きたいことはあるか?」


「…………」


 きっぱりと言い切ってやれば、リーダーの表情が曇った。

 次なる提案はないのだろう。


 一応の答えを貰おうかと思い、相手のリーダーに言葉を催促しようかと思った矢先、遠くで見守っていたノアから、声が飛んできた。


「兄様、兄様。再開していいんですか??」


「あぁ、そのようだな」


 普段よりも低い声で答えれば、クロエとノアが敵に向けて突っ込んでいった。


 ノアの短剣が、敵の剣と重なり合い、キィィーンという独特な金属音が部屋の中に響き渡る。

 その音が合図になったかのように、静まりかえっていた部屋の中に、殺伐とした空気が流れ出した。


 だが、それは交渉前と変わらない光景。


 どちらも決定打に欠けた攻撃をただただ繰り返すだけだった。


 そんな矢先、


「現状を打開する」


 敵のリーダー出す不穏な指示をカラスの耳が拾った。


『2人でありったけの魔力をつぎ込んで、でっかい魔法を発動してくれ。内容は任せるが出来るだけ派手なやつを頼む。狙いはあそこにいる偽勇者だ。俺はその魔法に乗じて、敵の懐に飛び込み、姫のどちらかを人質に取る』


 どうやら強力な魔法で一気に仕留める方針を決めたようだ。


 散開して遠距離から攻撃することにより、敵に攻撃の的を絞らせない作戦だったのだが、どうやら俺1人にターゲットを絞ったようだ。


 もしかすると、さっきの交渉は、勇者おれの場所を特定するための作戦の要素も含まれていたのかもしない。


「兄貴、いつもの様に誘導は任せる。俺の魔力をフルでつぎ込むからよろしく」


「あぁ、任せろ」


 リーダーから指示が出された2人が、浪々と言葉を積み上げていく。


「掛巻も畏き司炎神の、我が魔力を横山之如く積足して……」


 弟の方がブツブツとつぶやけば、上空に炎の玉が出現した。


 初めは手のひらほどだったその玉が、祝詞が進むにしたがって大きく成長していく。

 その大きさが人の体よりも大きくなった時点で、兄の方も弟に合わせるように詠唱を開始した。


 その様子を見て、俺達の陣営が、その魔法を止めようと動き出す。


「シュ、シュ、シュ、……」


「おじさん、ちょっと急用が出来たから、そこを退いてくれませんか?」


「悪いがそいつは無理だよ。もうすこし、大人しくしててくれ」


 だが、焦ったからと言って、敵を倒せるはずもなく。前の2人が切り込むことは叶わない。


「来なさい、ロックスロウ、ロックスロウ、ロックすりょ。

 あん、もぉ、どぉすればいいのよ」


 アリスの放つ土の塊が火の玉にぶち当たるも、ただ後ろにすり抜けるだけで効果があるようには見えなかった。


 俺の銃も、ミリアの矢も同じような展開だった。


「ゆえに我、希う。神敵を葬る力を与え賜えと希う。

 ……出来たぜ。やってくれ、兄貴」


 そして誰も止めることが出来ないまま敵の魔法が完成し、大型バスよりも大きな火の玉が動き出した。


「どうしよう、あんな大きなの受け止めらんない。

 ドームで覆っても蒸し焼きになるだけだし。

 やだ、ダーリンが死んじゃう。やめて、ダーリンが、ダーリンが……」


 アリスが青い顔をして叫び声を上げている。

 兄弟の会話にあったように、兄の方が俺の方に誘導しているらしい。つまり、どこに逃げても追いかけてくるのだろう。


 どう考えても避けれる状況ではない。


「アリスじゃ無理なの、お願い、誰かダーリンを……」


 何とか抵抗しようとしていたアリスだったが、そんな言葉と共に、その場に座り込んでしまった。


 魔法を放った2人は、今の魔法で疲れ果てて座り込んでいた。きっと次はないだろう。


 犠牲は俺だけで済むな。

 ……みんな、俺のために泣いてくれるだろうか?


 俺は、日本にいても毎日燻っていただけだ。こっちの世界に来ていろいろあったけど、日本にいた頃より楽しかった気がする。


 サラもボッチじゃなくなったし、俺がいなくなってもみんなでなんとかするだろう。


 そう考えると、俺がここにいた意味はあった気がする。


「……サラ、楽しかったよ」


 俺を巻き込んだこと、俺を召喚したことを後悔しないで欲しいという思いも込めて、届くはずのない言葉を小さく呟いた。


 そんな俺の言葉をかき消すかのように、銃の爆発音を遙かに凌ぐ音が周囲に響き渡り、俺の視界は強い光りと爆風で覆われた。

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