岩のある部屋2
石を踏みしめて岩の後ろに回り込む。
准男爵から奪った剣と盾を構えて、そこにいるモンスターを見据えた。
(勝てるのか?)
暇を見つけてクロエに剣術を教えてもらっているが、所詮はその程度だ。
思わず恐怖で喉がなった。
(どう見ても弱いよな?? 大丈夫だよな?)
目をひくのは、頭の上に乗った赤い大きなトサカ。
体は白い羽で覆われていて、尻尾が天に向けてピンと立っている。
どう見ても、ニワトリだった。
「ハルくん。新しい魔物って、あの子なのー?」
「あぁ、マリモより強そうだろ?」
大きさは俺の膝くらい。
小学生の時に係りで世話をしたニワトリに似ている気がする。
「強そうかなー? ねぇ、ハルくん。お姉ちゃんの目には、ニワトリに見えるわよー?」
「あたしの目にも、ニワトリに見えます」
そんな敵の姿を確認した2人が、緊張して損した、とでも言いたげな雰囲気で武器を下ろす。
ちなみにだが、ミリアは弓、ノアは短剣と小さな盾のスタイルが得意らしい。
商人は移動が多く、魔物や盗賊と出会う可能性が高いからと、幼少の頃から親に習っていたそうだ。
「ん? なんだ? この世界でも養鶏は、盛んなのか?」
「んー、そうねー。どの村でもニワトリなら飼っているわねー。
小さな村だと、村共有の財産ってことで、村長が育ててたりするわよー」
「なるほどな」
どうやら養鶏は一般に普及しているらしい。
そんなことを話す俺たちをしり目に、ニワトリは岩の隙間を必死に突っついていた。
そこに生えている藻か何かを食べているのだろう。
今回も戦力外のモンスターのようだ。
「魔力を流し続ければニワトリも増えるだろうし、養鶏うんぬんは後々考えるとして、こいつは狩るか。
お土産がないと、クロエが怒るだろうしな」
「そうね。そうしましょうか」
思えば鶏肉とかひさしぶりだな。
から揚げにしようか、焼き鳥にしようか、北京ダックとかどうよ?
そんな妄想に花を咲かせながらニワトリに近付く。
すると突然、ニワトリが威嚇するように白い翼を大きく広げて走り出した。
「ぅぉ!!」
安易に近づくと逃げ出されて捕まえるのが大変になるかな、と思っていたのだが、結果は正反対。
驚いて動きが止まった俺の足に、ニワトリが飛びかかってきた。
「兄様!!」「ハル君!!」
2人の叫び声が聞こえるが、体は動かない。
ニワトリのくちばしが、俺のすねに当たった。
「あ、痛い……」
そうは言っても敵は所詮ニワトリ。
ズボンが破れることすらなかった。
それでも確かに突かれたような衝撃を感じることが出来た。
攻撃すらしてこなかったマリモと比べれば、大きな進歩だろう。
「大丈夫。問題ないよ。多分だけど、日本のニワトリの方が強いと思う」
両手を広げて無傷をアピールすれば、2人がホッと胸をなで下ろしてくれた。
だが、一瞬で冷や汗をかいたのも事実。
もしこれでニワトリの攻撃が強ければ、俺の足はなかったかも知れない。
(敵はどんな見た目でも魔物だもんな。気を引き締めておこう。もしアリスがいたらなんて言われてたことか……)
そう心の中で反省し、剣と盾を構えなおした。
そんな俺の目の前を空飛ぶマリモが横切っていく。
ぼんやりと眺めていると、ニワトリがマリモ目掛けてくちばしを振るった。
「え??」
マリモが一瞬で砕け散り、ニワトリの体が光り輝く。
瞳が赤く光ったかと思えば、体がひとまわり大きくなった。
「…………っ!!」
恐怖に息を飲めば、先ほどとは比べものにならない勢いで、ニワトリが襲い来る。
その鋭いくちばしが、俺の腹に深々と突き刺さった。
「兄様!?」
「ハルくん!!」
ニワトリの顔が返り血に染まり、俺の腹から血が流れ出る。
(マリモを倒してレベルアップしたのか……)
そんなどうでも良いことが、頭の中を過ぎっていった。




