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新人指導2

「クロエ様、ちょっと強すぎねぇか?」


「やべぇよな。勇者様はもっと強いんだろ??」


「なんたって、勇者様だしな」


「だよなー」


 訓練を中断して休憩にすれば、カラスの耳にそんな声が聞こえてきた。


 勇者は強い。やはり、全員がそのイメージらしい。


 戦えないって知られたら、どうなるのだろう。


(出来るだけ、バレないようにしねぇとな……)


 そう心に刻み込んで、男たちに近寄った。


「動けるか?」


「は、はい!! もちろんです!!」


「すぐにでも再開出来ます!!」


 慌ただしく立ち上がった男たちが、一列に並んで敬礼をする。


 その様子に苦笑を覚えながら、手を横に振った。


「訓練の再開はもう少し後でいいよ。部屋に案内するから付いてきてくれるか?」


「部屋、ですか??」


「そう。ここに住むんだから必要だろ?」


 驚いた表情を見せる男たちに背を向けて、部屋を出る。


 キョロキョロと周囲を見渡す男たちを背後に、新しく作ったダンジョンの一角に案内した。


「ここがお前達の部屋だ。丁度人数分あると思うから、各自、好きな部屋を決めてくれ」


 目の前にあるのは、5つの扉が並んだ場所。

 俺たちの部屋とは、中部屋を間に挟んで隔離してある。


 入り口、一般人地区、中部屋、勇者の間。

 そんなイメージでダンジョンを構築してみた。


「個室を頂けるのですか?」


「あぁ、中を見てもらえればわかると思うが、布団を敷けばそれだけで一杯になるほどのサイズだ。

 さすがに5人で1部屋ってわけにもいかないだろ」


「いえ、寝ることが出来る場所を頂けるだけで満足です。ありがとうございます」


「あー、まぁ、それだけ期待してるってことだ。頑張ってくれよ」


「「「イエッサー」」」


 5人がここに住めば、1日50ポイント。


 このポイントだけでも、彼等を住まわせることにして良かったな、と思わなくもない。


「おっと、そうだった。

 部屋に関してもそうなんだが、キミ達の頑張りに応じて施設を増加しようと思っている。

 キミ達の頑張りが、#勇者__おれ__#の力を高めるからな。畑や果樹園、大きな個室や風呂なんかを一瞬で作ってやるよ」


 俺がそう話せば、男たちの顔に笑みが浮かんだ。

 どう考えてもクロエの力なのだが、そこは多めに見てもらおう。


「「「イエッサー」」」


 風呂も畑も今あるものをすべて使わせてよう思っていたのだが、サラ曰く、俺の信仰を高めるために必要な処置らしい。


 彼らが稼いだポイントは8割を回収して、残りをご褒美に使う。

 この辺は、サラに丸投げした。


「俺が知ってる狩場と、ポイントの貯め方を説明するから、ついてきてくれ。

 装備品も忘れないようにな」


「「「イエッサー」」」


 そして洞窟に移動となった。


(てか、このイエッサー、っていう軍隊方式、いつまで続くんだ? もう終了でよくね?)


 そう思うが、言い出すタイミングを完全に逃してしまった。


 何はともあれ、ここからは狩りの時間。

 俺の空間把握能力を使って、頼れる指揮者の素晴らしさを教えてやる!!


 なんて、思っていた頃もありました。


「お、さっそ――」


「盾、構え!! 身軽な足音だ。狼型の可能性が高い」


 俺の声が届かないうちに、前衛が盾を構えて、後衛が弓をつがえた。


 岩陰から顔を出した狼に、1本の矢が突き刺さる。

 その横とすり抜けて、もう1匹が走り込んできた。


(やばい、カラスで威嚇して――)


「絶対後ろに通すなよ!!」


 慌てる俺を尻目に、中央の男が腰を落とした。


 狼の襲撃にあわせて、縦を前へと突き出す。

 皮の盾が狼の頭に当たり、狼の動きが鈍る。


「敵は一匹だ!! 取り囲め!!」


 そんな指示に両脇の2人が一斉に動き出し、盾を突き出して押さえ込む。


「はっ!!」


 1人がナイフを取り出して、狼にトドメを刺した。


 全員が周囲を気にする中で、指示を出していた男がクルリと振り向く。


「制圧完了しました。指示を願います」


 その顔には、自信に満ちた誇らしい笑みが浮かんでいた。

 俺が活躍する場面など一切ない。


 やっぱり俺は、要らない子らしい。


「……みんなが優秀で、俺はすごくうれしいぞ」


 悲しい気持ちを押し込めて、胸を張る。


 偉そうに見えるように心がけて、男たちを見渡した。


「獲物を階段近くまで運べば、自動でポイントと収穫物に分けられる。魔玉はミリアかノアに言ったら適正価格で買い取ってくれるからな。森に出れば果実なんかも収穫できる。どこへ行って、何を狩るかは、自分達で決めてくれ。

 予定表の提出はしてもらうが、俺は出来る限り口出しをしない。なにか質問はあるか?」


 一通りの説明を行えば、男たちが顔を見合わせた。


 リーダー役の男が、緊張した面持ちで手を上げる。


「お言葉に甘えさせて頂きます。我々に与えられた仕事は、食料の調達、と言うことでよろしいですか?」


「いや、すこし違うな。キミ達に与える仕事は、ここで生き残ることだ。

 自分たちで獲た食料を俺に差し出す必要は今のところない。住民が増えれば、税金なども考えるが、それも後々の話だ。キミ達はキミ達で好きにやってくれ。

 あぁ、ただし、仲間割れはダメだ。周囲の村へ行くことも許可するが、基本の寝床はここにしてくれ。注意点としては、そのくらいかな」


「我々は敗北兵。奴隷の扱いではないのですか? このような待遇では……」


「構わない。そうだな、住民を増やす際の毒見役だとでも思ってくれ。

 まぁ、敵が攻めてきたら、一緒に戦って貰うがな」


「……畏まりました。ありがとうございます、勇者様」


 こうして、勇者国の人口が11人となった。  

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