妹の購入
異世界の屋台料理を堪能してから1時間。
俺は、5件目になる奴隷商の扉を開いた。
その理由はもちろん、奴隷を買うためだ。
いや、サラの言葉を用いるなら、妹の購入だろうか。
赤い絨毯が敷かれたレンガ造りの店内は、奴隷商のイメージとはかけ離れていた。
中央にはカウンターで受付嬢と思われる女性が座り、その背後に続く廊下には複数の部屋が並んでいる。
日本人の感覚からすると、会員制の超高級カラオケ店に来た、といった感じだろうか。
店内の状況に戸惑いを感じながらも、鞄の中から王家の紋章が入った布を取り出して受付嬢に近づく。
「いらっしゃいませ、どのような者をお求めでしょうか?」
「教育が施されていない者で、器用な者が欲しい。アリス王女の精神を安定させることが出来るレベルを頼む」
「……かしこまりました。こちらへどうぞ」
サラから聞かされている要望をそのまま伝えれば、一瞬だけ受付嬢の表情が曇った。
だが、それも一瞬だけのこと。
受付嬢は俺を会議室のような部屋へ通すと、上司の指示を仰ぐと言って部屋を去っていった。
(あーあ、可哀想に。泣きそうな顔してたよ……)
ちなみに先ほどの注文は、サラから聞いた言葉をそのまま言っただけだ。
小学校すら行ってない者で、東大卒業出来るような奴を連れて来い、と言う意味になるらしい。
引き合いに出したアリス王女と言うのは、この国の第5王女。
彼女は市民にすら知られるほどのわがままな王女であり、彼女の精神を安定させるなど、最高の職人が最高の素材で作りだしたアクセサリーを用いても出来るかわからない。
さらには、受付で王族の印を見せてある。
『下手な奴を連れてきたら、お前の立場が危なくなるぞ』と言っている訳だ。
そんな面倒な客が来たら、泣きたくもなるだろう。
そんなことを思いながら待つこと数分。
「お待たせしました!!」
受付嬢以上に泣きそうな顔をしたおっさんが、部屋に飛び込んで来た。
その後ろにいるのは、15歳ほどの少女が1人。
幼い顔に、腰まであるツインテールを恥ずかしげになびかせていた。
「し、失礼します……」
緊張を隠しきれずに、彼女が深々と頭を下げた。
彼女が、俺の妹候補なのだろう。
そんなことを思っていると、おっさんが口を開いた。
「本日は弊社に御越しいただきまして誠にありがとうございます。
この店の責任者を任されているリョウと申します」
深々と頭を下げるおっさんに、視線だけを向ける。
「春樹だ。リョウ殿の事は、上から聞かされている。貴殿の手腕に期待するとの仰せだ」
出来るだけ偉そうに、大物っぽく。
そんな言葉を心の中で唱えながら、おっさんに言葉を放った。
動揺を隠しきれないといった様子で、おっさんが額に大粒の汗をかく。
「お任せください、と申し上げたい所なのですが、最近は何かと人材不足でございまして……。現時点では、お客様の希望に添える者がいない状態でございます」
わざとらしく不満な表情を浮かべてやろうか、とも思ったが、そこまで必要ないだろう。
むしろ素っ気ない態度の方が、効果的かもしれないな。
「そうか……。それで、そこの娘は?」
「はい、この者は、現在お出しできる中で、最高の者でございます。
お客様のご要望には添えないまでも、器量は十分かと。……しかしながら、言葉使いに関して少々難がございます」
「言葉遣いか……。
わかった、この娘を貰おう。いくらだ?」
「!!?」
俺の言葉に、少女おろか、責任者の男までもが驚愕の表情を浮かべた。
「失礼ではございますが。商品との会話なとはよろしいのですか?」
「必要ない。他でもない、リョウ殿のススメだ。その者を貰おう」
ただでさえ緊張で青みがかったおっさんの顔が、悪化の一途をたどる。
王家の威光を借りての威圧行動。きっと魔王か悪魔にでも見えるだろう。
自分でも酷いな、と思うが、これも仕方のないことだ。
「……かしこまりました。御代ですが、銀10枚で如何でしょうか?」
「良いのか? 美しい女性は、金1枚からが相場だと聞くが?」
「はい、ハルキ様の仰る通り、若い女性は高く、この者ですと、金5枚でも買い手が付くほどです。
しかしながら、まだ教育前でハルキ様の要望に届いていない者ですのでございます。
不躾ながら本音を言わせて頂ければ、王族の皆様に今後ともご愛顧のほどをと言った気持ちも込めて、でございます」
本当の本音は、厄介ごとに巻き込まれたくないからだろ? と思うが、指摘しても意味はない。
安く買えたことに安堵して、銀貨10枚を支払った。
「はい、確かに頂戴いたしました。
早速ではありますが、奴隷契約を執行してもよろしいですか?」
「いや、その件なのだがな、後で外しやすいように簡易のものにしてくれるか?
城で主人の変更を行うのでな」
一瞬だけ商人が戸惑った顔をしたが、すぐに頷いてくれた。
「かしこまりました。
それでは、商品の腕に着いている青いヒモに触れていただけますか?」
無言でうなずき、少女の右手にある青い腕輪に手を触れる。
おっさんが呪文のような言葉を放ったかと思えば、青い腕輪がオレンジ色に変わった。
きっとこれで奴隷契約が済んだのだろう。
「また寄らせてもらおう」
一言添えて外に出る。
足早に目星を付けていた宿に入り、買ったばかりの少女を部屋に招き入れた。
銀10枚。300万円で購入してきた奴隷の少女に、初めての命令を下す。
「着ているものをすべて脱げ。いますぐにだ」
一瞬驚いた表情を見せたが、主である俺の命令に逆らえるはずもない。
少女はゆっくりと、その身に着けた衣装を脱いでいった。




