裏でコソコソ
時間は少しだけさかのぼる。
畑と部屋しかないダンジョンの中で、俺は必死に外の状況を確認していた。
「隊を半分に分けて、洞窟の近くでテントを建てだした。残りは森の中に身を隠してる」
80羽に増やしたカラスたちを総動員すれば、見通しの悪さなど関係ない。
全員とまでは言わないが、ほとんどの人間が俺の視界に入っていた。
「土木作業員はボロボロの剣で、身を隠している方はきれいな装備に見える」
「なるほどね。本拠地をおとりにしてボク達を釣り上げよう、って作戦だろうね」
「……おとりって言う割には、大将が普通にそこにいるんだが?」
無能な准男爵はこの際どうでも良いとして、兵士長と呼ばれる男がおとり組にいるのが不思議だった。
自分の身を危険にさらしてまで、任務を遂行するような人間には見えない。
そんな俺の疑問に、不思議なことなんてないさ、とでも言いたげな表情を見せたサラが、苦笑を漏らして肩をすくめた。
「それだけ自分の作戦に自信があるんだと思うよ」
失敗した時の保険など考えていないと言うことか。
カラスの目を通して見た兵士長の性格を考えれば、当たっているような気もした。
「……まぁ、サラがそう言うなら大丈夫か。本拠地の設置場所が予想より近いおかげで、ポイントが少なくて済みそうだし、准男爵様には感謝しねーとな」
「無能な味方は、優秀な敵より厄介らしいからね。それが1番偉いとなれば、なおさらだよ」
あんな人間にはなりたくないものだ、とサラが肩で笑った。
「寄せ集めの人たちは、今にも死にそうだしな。准男爵を倒したら、寝返ってくれるんじゃねぇか??」
「そうだね。それもありだと思うよ」
「んゅ?? おデブさんを捕まえたらいいの??」
「あー、まぁ、そうだな。出来そうならでいいぞ。無理はしない」
「はーい。それじゃ、行ってきまーす」
元気に手を上げたクロエが、くるりと背を向けて部屋を出て行った。
1人だけで敵の本拠地に乗り込むというクロエの後ろ姿に、全員で突撃しても良いのではないか、と思ったが、自分が行ったところで足手まといにしかならないだろう。
心を押し殺して、悩み抜いた作戦を実行することにした。
「俺達も動き出すぞ。通路を伸ばして、その先に例の中部屋を移動させてくれ」
ダンジョンコアに命じた後で、手元に残しておいたカラスを飛ばす。
直線上に伸びた廊下を進ませれば、事前に準備しておいた部屋が、その先に移動されていた。
注文通りの結果に、少しだけ口元が緩む。
「サンキュー。よし、行くぞ」
「了解したよ」「任せなさい」
「わかりました!!」「はいー」
バラバラな答えに苦笑を覚えながら、廊下に飛び出した。
向かう先は、先ほど動かした部屋。
それと同時に、カラスを通してクロエの様子をうかがう。
『突撃してもいいよね?』
いつの間に移動したのだろうか。
クロエはすでに、敵の後ろに回り込んでいた。
中部屋の扉を開きながら、カラスの首を縦に振る。
『行ってきまーす』
お使いにでも行くかのような気軽さで、クロエが森の中を走り出した。
ほんの少しでも助けになればと思い、周囲に散らばっていたカラスたちを集めて、クロエを援護する。
兵士長との戦いが始まれば、周囲に散らばっていた男たちが近付いてきた。
「サラ、土魔法の魔玉を」
「了解したよ」
地上の様子を確認しながら、土魔法を付与した魔玉を握る。
すべての敵が範囲内に入ったことを確認して、大声を張り上げた。
「今だ!!」
合図とともに、全力で魔力を流し込む。
全員が天井を見上げて、一心に祈った。
壊れろ、と。
(行ける!!)
握った魔玉から淡い光が漏れ出し、天井を覆った。
敵がいるであろう場所を中心に、丸い切れ込みが入っていく。
出来た隙間から、太陽の光が降り注いだ。
「仕上げは任せなさい!!」
額に汗を浮かべながら、アリスが両手を掲げる。
クロエに合図を送くると同時に、天井の崩落が始まった。




