表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/117

100人で木を切りに行こう

 討伐隊の先頭が洞窟に近付いた頃、中央で馬に乗る1人の男が高らかに吠えた。


「全体止まれ!!」


 胸当てとボロい剣だけを持たされた男たちが、額から流れる大粒の汗を拭う。


 周囲から聞こえる悲鳴のような息づかいを気にもとめずに、馬に乗る男が背後へと視線を向けた。


「准男爵様、少々お話が」


 そこにいるのは、木で出来た台に乗る小太りの男。

 その下では、6人の男たちが必死にその台を担ぎ上げていた。


 死にそうな表情を浮かべている男たちを尻目に、馬から下りた男が片膝を地面に付けて小太りを見上げる。


「前方に敵基地と思われる洞窟を発見しました、指示をお願いします」


 恭しく言葉を紡げば、チラリと空を見上げた小太りの男……准男爵が満足そうにうなずいた。


「昼前に到着か。お前らのようなクズにしては、良くやったほうだな。お前を兵士長にしたワシの目に、狂いはなかったようだ」


「はっ!! 恐悦至極に存じます」


 准男爵の言葉を受けた兵士長が、深く頭を下げた。


 軽やかな足取りで馬に乗り直して、大きく息を吸い込む。


「ここに本拠地を設置しろ!! それが済み次第、洞窟に攻撃を仕掛ける!!」


「「「はっ」」」


 精一杯の声で兵士長の命令に応えるも、周囲にいる男たちは今にも死にそうな表情を浮かべている。


 街を出てから2時間余り。


 重い荷物を持ちながら走り続けた彼らは、すでに疲労困憊だった。


「……、……おい、ジェイ。マラソンの後は穴掘りだとよ」


「……は、はっ……、は……」


「いや、返事はいいさ。……倒れるなよ」


 特に今回が初参加の者は、今にも死にそうなほどだ。


 そんな彼らを見とがめた兵士長が、もう一度大きく息を吸い込む。


「ゴミ共!! 手の動きが遅いぞ!! 罰として昼飯は抜きだ!! しっかりと国のために働け!! わかったか!?」


「「「「はっ!!」」」」


 疲労と空腹の体にムチをうち、防衛のための空堀や准男爵用のテントを必死の思いで作っていく。


 木陰で眠る准男爵を殺したいとさえ思ったが、兵士長の目が光る中での反乱は、出来そうもなかった。


「准男爵様、本部と堀の設営が完了しました」


「……んぁ? …………そうか、それで? 姫の首はいつ届く??」


「はっ!! 今すぐにでもお持ち致します。少しだけこちらでお待ちを」


「そうか、良きに計らえ」


 再び目を閉じた准男爵に背を向けて、兵士長が顔をゆがませた。


 すこしだけ距離をとり、手頃な石を蹴り上げる。


「無能な豚が」


 ツバと共に吐き捨て、敵がいるであろう洞窟へと視線を向けた。


 右手を大きく掲げれば、木陰に隠れていた男が近付いて来る。


 その男に視線を向けて、兵士長が口を開いた。


「敵に動きは??」


「今のところありませんな。逃げも攻めもせずに引きこもっているようです」


「ちっ、とんだ腰抜けを掴まされたか……」


 敵の前で無防備な姿をみせて、出て来たところを隠れていた手練れで取り囲む。そんな予定だった。


 だが、その作戦は不発のようだ。


「仕方がない。10人ほど突っ込ませて様子を見るか……」


 さすがに人を送り込めば、動きもあるだろう。


 めんどくさいとばかりに、兵士長がため息を付く。


 そして、いけにえ役の10人を決めるために、周囲の一般兵を目を向けた。


――そんな矢先。


「敵だぁ!! 敵が出たぞ!!」


 隊列の後方がにわかに騒がしくなった。


 慌てて目を向ければ、両手にナイフを持った少女の姿があった。


 その周囲には、何十羽ものカラスが飛び回っている。


「なんだあれは?」


 敵の姿はひとり。


 一般兵をすり抜けて、准男爵のいるテントに向かっているように見えた。


「ちっ!!」


 いくらムカつく相手とはいえ、この作戦の責任者。


 敵をそのまま行かせるわけにも行かなかった。


「敵は少女ひとりだけだ!! 取り囲め!!」


 指揮棒で少女を指し示し、一般兵に指示を出す。


「ぐぉぉ!! なんだこのカラス!!」


「くそ!! 邪魔だよ!!」


 近くにいた男たちが少女に近付けば、周囲にいたカラスたちが群がってきた。


「ひっかくな!! どっかいけよ!!」


 あるものは爪を立てられ、あるものはクチバシでつつかれる。


 痛みはないが、本能的にひるんでしまう。

 とにかく邪魔だった。


 そうして腰が引けた兵士の横を少女がすり抜けて行く。


「ちっ!! あいつらを集めろ!!」


 隣にいる男に命じながら、兵士長が地面を蹴った。


「邪魔だぁぁ!!」


 飛びかかってくるカラスを左手の盾で弾き飛ばし、少女に向けて剣を振るう。


 振り下ろした剣が、2本のナイフに当たった。


「なっ!!」


 そのまま力で押し切ろうと思ったが、びくともしない。


 驚きで表情を歪めれば、剣を横なぎにはじかれた。


「ちっ!!」


 バックステップで距離をとる。


 対峙した少女の雰囲気が、すこしだけ鋭くなった。


(姫の隠し玉か!?)


 ナイフの構えに隙がない。


 負けないとは思うが、無傷では済まない相手に見えた。


 だが、その足は完全に止まっている。


「取り囲め!! 正規兵に道をあけろ!!」


 少女が逃げないように視線で圧力をかけながら、周囲に指示を出す。


 少女と兵士長を中心に、人の輪が出来た。


「大将、面白そうなやつとやってんじゃねえか。まぜてくれるか??」


「わぉ、いい構え。先輩、脅して仲間にしたらどうっすか?」


 森の中に潜ませていた部下たちが、続々と集まってくる。


 これで少女に逃げ場はない。


 相変わらずカラスたちが向かってくるが、ただ邪魔なだけだ。


「殺せ!!」


「「「うぉぉぉぉーー」」」


 兵士長の命令に、部下たちが吠える。


 我先にと飛びかかった。


ーーその瞬間。


「くっ!!」


 少女を中心にまばゆい光が放たれた。


 思わず目を閉じれば、部下たちの小さな悲鳴が聞こえてくる。


「なんだ!?」


 足元に大きな揺れを感じた。


 立っていられそうもないほどの、大きな揺れだ。


「あいつは!?」


 地面に手を突きながら周囲を見渡すも、少女の姿はない。


 なにが起きているのか理解出来ないが、敵の策略にハマったことだけはわかった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ