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道と残された者

 本拠地である洞窟から徒歩30分ほど歩いた場所に道がある。


 俺達が王都から逃げてきた道だ。


 そんな道の端に、スライムを抱きした少女が座りっていた。


「ひまだねー」


 スライムの感触を楽しみながら、クロエがボーッと空を眺める。


 そんな彼女の耳に、タイヤの転がる音が聞こえてきた。


 塩を運ぶために作られたこの道は、15分に1台くらいのペースで馬車が通っていく。


 きっと次も商人の馬車だろう。

 そんな思いで、クロエが静かに立ち上がった。


「次は当たりだといいなー」


 彼女の目的は、道行く商人達に魔玉の売却をお願いすること。


 兄達が攻めてきた時の対策として1番の要となるのはダンジョンなのだが、傭兵団や兵士、場合によっては奴隷兵士などの活用も必要になるときが来ると思う。


 そのための資金を稼ごう、ということになった。


「さてと、お仕事、お仕事」


 小さな魔玉をひとつだけ握りしめて、クロエが顔を上げる。


 大きく手を振れば、荷台から白髪混じりの男が顔を出した。


「なんか用かー??」


「おじさんは商人さん? それとも雇われさん?」


「ん? あぁ、俺は商人だよ」


 人を雇う金なんてないさ、と商人が自虐的に笑った。


「あのね、商人さんにお願いがあるの。

 この魔石なんだけどね、買取してくれないかな?」


「っ!!」


 クロエの手の中にある物を見た商人は、立場も忘れて驚きの表情を浮かべる。


「おじょうちゃん、それをどこで手にいれたんだい?」


「んとね。落ちてるのを拾ったんだよ。

 魔玉は高いって聞いたんだけど、売れない?」


「いや、大丈夫だよ。

 そうだね。銅10枚でどうだい?」


「そんなにくれるの?」


「あぁ、おまけにリンゴもあげよう。それでいいかな?」


「うん、いいよ。ありがとうね、おじさん」 


「交渉成立だね。それじゃぁ、なくさないようにしっかり持って帰るんだよ」


 商人が銅貨10枚とリンゴを手渡す。


 そして、逃げるように王都へと進んでいった。


「ふふんー♪ スライムちゃんもリンゴ食べるー?」


 大変ご機嫌なクロエだが、魔玉の買取価格は銀貨1枚程度が相場である。


 今回の商人から提示された金額は相場の10分の1。


「リンゴ美味しいね」


 そのリンゴがせめてのも罪滅ぼしなのだろう。


 商人として値段を安く仕入れることは悪いことではないが、信用など出きるはずもない。


「お兄さんは、商人さん??」


 それから日が沈むまで待ち続けたクロエだったが、結局その日は適正価格で買い取ってくれる商人と出会うことは出来なかった。



 そうしてクロエの手によって魔玉ばら撒き作戦が実行中される中、ダンジョン居残り組みである俺は、異世界に召喚されて以来の危機に見舞われていた。


 人生最大の不幸と言っても過言ではない状況だ。


「サラ、俺の記憶が正しければ、野菜炒めを作るって言ってたよな?

 どうしてフライパンの中が紫色なのか聞いても良いか?」


「あぁ、構わないよ。

 料理中にふとアイディアが沸きあがってきてね。食べ物に魔力を注ぐとどうなるかの実験を行ったんだ。

 その結果、野菜炒めに急激な変化が訪れたわけだよ。とても興味深い現象だと思わないかい?」


 クロエがいないのならと、お姫様2人が頑張った結果、ひどいことになっていた。


「味の検証実験につき合ってくれると嬉しいよ」


 サラの手により、フライパンから皿に取り分けられる。

 すると、皿に乗った野菜炒めが、紫色から赤色へと徐々に変化していった。


 なるほど、温度の変化によって色合いが変化するみたいだな。


「アリス、焦げてないか?」


 サラの実験から目をそらせば、辺りに焦げ臭い匂いが漂ってきた。


 その発生源はどうやらアリスの手元にある鍋のようなので、とりあえずは訪ねてみることにした。


「はぁ? なによ、焦げてるって。

 それって失敗したときに使う表現でしょ? アリスが失敗なんてするはずないじゃない」


 アリスが胸を張って、なべの蓋を開く。


 中を覗き込んだアリスの表情が、一気に険しいものになった。


 嫌な予感しかしなかったものの、勇気を振り絞って、鍋の中を覗き込む。


「……こ、こういう料理なのよ。……なによ、ダーリンはアリスのすることに文句でもあるの?

 じっくり焼かなかったら食中毒になるって、クロエが言ってたでしょ。……だから、……ゆっくり、………やいたのよ。

 なんか文句あるわけ?」


「…………いや、ないよ」


 2人が頑張って作った料理。食べるしかないよな。


「い、いただきます……」


 アリスの手料理は、天に昇れそうな味がしました。

 サラの手料理は、神秘的で気絶しそうな味がしました。


 次からは、絶対に俺が作ろうと思う。

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