あいつ、マジ空気
1歩、2歩と、足元を確かめるように、ゆっくり進む。
すると、それまで辺りをうろうろしていたカラスが、突然飛び立ち、俺達の前方へと降り立った。
その瞬間、俺の視界の端に小さな画面のようなものが映り込む。
(なんだ??)
思わず足を止めて、まじまじと眺めてしまった。
空中に映像が浮いているように見える。
視線を向ければ、動画のサイズが大きくなった。
(……洞窟か??)
見えている場所は、今いる洞窟の中に見えた。
それも、ほんの少しだけ前にいるような構図に見える。
それはあたかも、カラスが見ている情景のようで……。
(カラスの見ているものがわかるってことか?)
召喚獣は主人と感覚を共有できるらしい、というのは、おそらくこのことなのだと思う。
「どうしたのよ? 進なら、進みなさいよね」
「あ、いや、悪い。カラスに先行させようと思ってさ」
「ふ~ん、ダーリンにしては悪くない思いつきじゃない」
適当な言い訳をしたら、ほめられてしまった。
それならば、ということで、カラスを洞窟の奥へと進ませる。
物陰に隠れるようにして、カラスの後ろを追いかけた。
(……へぇ、この状態なら思い通りに動いてくれるんだな)
寝て頭がすっきりしたおかげかか、熟練度があがったのか、カラスは指示通りに進んでくれる。
理由はわからないが、とりあえず使えるので良しにしとこう。
(この洞窟、どこまであるんだ??)
暗闇の中でもよく見えるカラスの目で確認したが、終わりは見えない。
そうして歩いていると、カラスの視界に白い狼の姿が映った。
昨日の個体よりも大きく見える。
「ストップだ。この先に敵がいる」
慌てて声をかけ、壁沿いに身を隠した。
「その先の岩に狼が隠れている。おそらくたまが、俺達が近付いたら飛び掛ってくるつもりだと思う」
確信はないが、当たっていると思う。
「まずは、カラスに威嚇をしてもらう。
岩陰から出てくるようなら、アリスの魔法とクロエの投げナイフで攻撃する。
カラスに当てないように注意して、遠距離から仕留めてくれ。いいな?」
「はーい」
「任せときなさい」
そういうことになった。
カラスと出来る限り感覚を共有して、狼の背後へと回り込む。
そ真っ黒な翼を出来るだけ大きく広げ、甲高い鳴き声を発した。
「カーーーー!!」
渾身の力を振り絞って、バサバサと、音が出るように大きく羽ばたく。
だが、そんな俺の努力もむなしく、狼は一向にその場を動こうとはしなかった。
#カラス__こっち__#を見ることさえなかった。
(……あれ? ちょっと、遠かったか?)
先ほどよりも、すこしだけ狼に近づく。
「カーーーーー!!」
バサバサ。
もうちょっと、近づくか。
「カーーーーー!!」
バサバサ。
こいつ死んでるじゃね?
いや、それはないか。
しょうがない、もう少し近づくか……。
「カーーー!!」
…………。
そんなことを続けること、10回。
#カラス__おれ__#は、とうとう耳元と言って過言ではないところまで近づいた。
それでも狼は、こちらを見ようもしない。
「カーーーーーーーー!! カーーー!! カー!!」
「無視するんじゃねぇよ、このやろ!!」
思わず、本体の方で声を荒げてしまった。
仕方がないので、カラスにクチバシで攻撃してもらう。
鋭いクチバシが、柔らかそうなお腹に直撃した。
「わぉん?」
そのおかげで狼を振り向かせることに成功したのだが、狼は辺りを見渡したかと思うと、不思議そうな顔をした後に、何事もなかったかのように顔を伏せる。
ん? いま、何か当たった?
そんな感じに見えた。
(カラスさん、戦闘力、皆無ですか……)
…………まぁ、あれだよな。諜報能力に特化してるって事だよな? そうだよな? 無能じゃないよな?
ちなみに狼は、普通に近づいて、襲い掛かってきたところをクロエがナイフを突き刺して倒しました。




