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幸せな食卓

「ダーリン、突っ立ってないで、そっち側持ちなさいよね」


 アリスの土魔法でたき火の周りの土が盛り上がり、かまどの様に周囲を囲んだ。


 近くに落ちていた石が薄く延ばされて行く。


「うん、完成だわ。これでお肉が焼けるわね」


 直径70センチ、厚みが1センチほどになった元石を2人で火があたる位置に乗せた。


 魔法、すげぇ……。


「あとは細々とした物ばかりね。

 舞い踊りなさい。アースメイク」


 俺の驚きに追い討ちをかけるかのように、皿やフォーク、フライ返しまでもが石で作られた。


 それから待つこと5分程度。


「焼くよー、焼いちゃうよー」


 綺麗に切りそろえられた肉が、石の上で焼かれていく。


 ジューっという肉の焼ける音と、焼肉特有の香りが辺りを埋め尽くしていった。


「あふあふ、おいひー」


 ほどなくして、焼きあがった肉を口いっぱいに詰め込み、クロエが、幸福に満ち溢れた笑顔を見せる。


「ふーん、悪くないじゃない。まぁ、アリスが焼き場所を作ったんだから、当然といえば、当然の結果よね。

 クロちゃん、どんどん焼きなさい」


「ほぁーい」


 平たく伸ばされた石の端から端まで、整然と肉が並ぶ


 次々と彼女達の口の中へと消えていった。


「新鮮だからだろうね。城で出されていた物より美味しいと感じるよ。それに普段とは違う場所で食べる高揚感もあるのかな」


 大自然の中で食べるバーベキューも、ワイルドな3人のお嬢様方には大変好評のようだ。


 清楚ながらも取り合うようにして食事を進める3人の姿は、なぜかとても美しく見えた。


「ところで、ハルキが未だに一口も食べていないようだが、ボクの気のせいかい?」


 そんな中、サラの何気ない言葉で、のこる2人が一斉にこちらを見た。


 まるで不審者でも見るかのように、見つめてくる。


「なによダーリンってば、アリス特製の焼肉が食べれないって言うの!?」


「お兄ちゃん、どうしたの? お腹痛いの?」


「いや、そういう訳じゃないんだが…………」


 3人の注目を浴びながら、程よく焼けた肉を見つめ、石のフォークを突き立てる。


「……いや、そんなことないよ。ちゃんと食べているよ」


 正直な話、目の前で解体されたものを、口にすることに、抵抗があった。


 だがそれは、日本にいたからこその贅沢な悩み。


 生きるために必要なことだと自分に言い聞かせて、ゆっくりと口に運んだ。


「……うまいな」


「でしょでしょ! お兄ちゃんもどんどん食べてね」


 脂は少なめだが、臭みはない。


 塩コショウがなくても、十分美味しかった。


「ちょっど、ダーリン! それはあたしのお肉よ!」


「部位が変わったのかい? 味に変化が出た気がするね」


 誰しもが我先にとフォークをのばす。


 40分も経過しないうちに、すべての肉が胃の中へと消えていった。


 小型だったことに加えて食料として飼育されていたわけではないので、食べれる部分も少なかったようだが、みんな満足するだけの肉があった。



 お腹も一杯になり、ぼーっとしていると、睡魔が襲ってきた。


 そのまま意識を遠のかせても良いかなと思ったのだが、気力を振り絞って頭を覚醒させ、アリスに声をかける。


「アリス、悪いんだが、洞窟の奥を塞いでくれないか?

 さっきみたいに、狼とかが出てくるかもしれないからさ。完璧に塞いじゃってくれよ」 


「…………」


 俺の言葉に反応したアリスが、洞窟の奥へと目を向ける。


 だが、なぜかそこで固まってしまった。


「……ん? おい、アリス? 聞いてるか?

 アリスの土魔法で、奥から魔物が出て来れないように穴を塞げるよな?」


「……えぇ、もちろん、出来るわよ。アリスを誰だとおもってるの?」


 アリスの反応をすこし不思議に思ったが、再度話しかけると普段通りに返してくれた。


「そうだよな。天才アリス様に不可能なんてないよな。

 それじゃぁ、早速塞いじゃってくれ」


「…………ダーリン、4日間ほど、時間を貰えない?」


「ん?」


「な、なんでもないわ。こんな穴ぐらいすぐに塞いであげるわよ。

 来なさい、アースウォール」


 アリスの詠唱に答えるように、地面から土が盛り上がっていく。


「あ、アースウォール……、アースウォール。…………あーす、うぉーる」


 1度の詠唱では操れる量が少なかったのか、アリスは何度も詠唱を行う。  


 時間を追う毎に、一回で積みあがる量が減少していった。


 結局その日積み上げられた土の量は、膝を少し超えた辺りまで。


 あの狼であれば、余裕で飛び越えれそうな高さまでしか積み上げられなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ…………、きょ、今日のところは、この辺で勘弁してあげるわ。アリスの優しさに感謝しなさいよね」


 洞窟の奥に向かって捨て台詞を吐くアリスは、疲労困憊と言った感じで、時折フラフラしている。


 立っているのが精一杯なようだ。


「……あぁ、そうだな。これで、多少は奴らも進入し難くなっただろう。助かったよ」


 どう考えても高さが足りないが、そんな状態のアリスに向かって、全然ダメに決まってんだろ、もっと頑張れよ、などと言えるはずもない。


 結局俺は、その日も眠れぬ夜を過ごす事となった。


 後でサラから聞いて知った話ではあるが、1日に使える魔力量は人それぞれに決まっているらしく、使いすぎると疲労困憊になるらしい。


 酷いときには、数日間寝込むこともあるそうだ。


 どうやら、俺が思っているほど、魔法も便利な物ではないらしい。

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