ぼっちの危機4
アリスの目が、一直線にカラスを捕らえる。
「ねぇ、勇者って言うよりは、魔王ってイメージなんだけど、アリスの気のせいじゃないわよね?」
必死に召喚獣を出現させた俺に向けて、アリスがそんな言葉を放ってきた。
たしかに、アリスの言う通り、カラスに勇者のイメージはない。
むしろ、墓場や魔女の使い魔、朽ちた屋敷に住み着くなど、気味の悪い方だと俺も思う。
「……いやいやいやいや、魔王ってことはないだろ。
ほら、見て見ろよ、この勇者の相棒らしい勇ましい姿!! 後光が差したかのように輝いて見えるじゃないか」
自分で言っていて無理があるとは思っているが、さすがに、アリスの言い分を認める訳にはいかなかった。
「勇者がカラスねぇ……」
胡散臭そうな目をするアリス。
やべぇ、どうするよ……。
そう思っていると、不意にクロエが動いた。
カラスに近付いたかと思えば、楽しそうに指先で頭をなでる。
「つやつやな綺麗な羽だねー。それに、肉付きも良いみたいだよ?
ちょっとだけ遅くなっちゃったけど、晩御飯は焼き鳥にする?」
いや、食べないでください、お願いします。これでも俺、がんばったんです。
見た目だけならカラスを可愛がる美少女の図なのだが、内情はかなり物騒なことを考えていたようだ。
しかし、まぁ、クロエだから仕方がない。
クロエを無視して、アリスが言葉を紡ぐ。
「まぁ、いいわ。とりあえず、この鳥が特殊能力って認めてあげるわよ。一般人に召喚魔法なんて仕えるはずがないものね。
それで? この鳥のどの辺が戦闘力があるっていうの?
私には優秀な召喚獣には見えないんだけど、教えてくださるかしら、ゆ・う・し・ゃ・さ・ま」
「ぅぐ…………」
召喚さえ成功すれば万事解決とばかり思っていたが、まだダメらしい。
カラスに、戦闘能力はあるのだろうか?
あいつらって、ゴミ袋を荒らしてるだけで、狩りをしているイメージなんてまったくないのだが?
肝心のカラスはと言えば、晩飯にされる危機にも気付かず、幸せそうにクロエに頭をなでられている。
ダメかもしれない……。
「えっと、それはだな…………。まぁ、なんだ、…………えっと――」
「その辺の説明は、ボクの担当かな」
俺が返答に困っていると、横からサラの声が飛んできた。
目を向ければ、自信満々にサラがウインクしてみせる。
「アリスには、その召喚獣のすばらしさがわからないのかい?」
「なによ!! アリスにだって、そのくらい…………、……サラ姉には、どうみえるのよ?」
心の底からカラスを無能認定しているのだろう。
いつも通り、強がりを言おうとしたが、言葉にならなかったようだ。
そんなアリス向けて、サラがゆっくりと言葉を紡ぐ。
「飛べる時点で、戦場の把握が容易に出来る。召喚獣は主人と感覚を共有できるのが普通だからね。
黒くて比較的小さな体は、敵から身を隠すには適切だと思うよ。
日が落ちてからだと、発見は困難だろうね。
この能力を使えば、戦場全体の把握に、敵伏兵や罠の発見、敵の行動までもが予測可能になる。
味方の位置情報もリアルタイムに把握できれば、数多くの者を一度に指揮出来るだろうね。
集団対集団での戦闘では、飛びぬけた武力を持っているとは思わないかい?」
ぉ、ぉお‼
なんか、行けそうな気がしてきた‼
「…………まぁ、たしかに、そうかもしれないわね。
けど、余計に勇者っぽくないじゃない。勇者のパーティは、勇者、僧侶、シーフ、魔法使いの4人でしょ?
集団対集団向けの能力っておかしくない?」
確かに、アリスの言うように、俺の中でも勇者が徒党を組むなんてイメージはない。
それでも、サラのナイスなアシストのお陰で、流れはこっち側にある。
新たな突破口も見つかった。
後は任せろとばかりに、話を引き取ることにする。
「4人パーティってのは、先代の話だろ?
俺の場合は、仲間の数に制限なんてないんだよ。それこそ、1億人のパーティとかもありえるね。
優秀なアリスにわざわざ訪ねる必要もないと思いながらも、一応聞くんだが、最近の魔王は集団戦闘を仕掛けてくるって知ってるか?」
「……は? …う、うん。ええ、もちろん、知ってるわよ。当然じゃない」
勿論、魔王の行動など俺が知るはずがない。
アリスがちょろくて良かった。
出来る限り自信ありげな表情をつくって、言葉を続ける。
「勇者側もそれに対抗する必要があるんだよ。だから、俺の能力がこうなったってわけだ。
パーティ人数を決めるなんて、自分の首を絞めるようなことする必要ないだろ?」
「……うーー、たしかに、4人とか、少なすぎるでしょ、って昔から思っていたわね。
けど、集団で、カラスが一緒の、勇者ねぇ……」
すこしばかり想像してほしい。
武器を持った大量の人々が列を成し、その集団をまるで監視するかの如く、周囲を飛び回るカラスの群れを…………。
うん、完全に魔王軍襲来だね。
「……まぁ、戦闘力がある特殊能力を示せたら認めるって約束だし、一応、信用してあげるわ。感謝しなさいよね」
「あぁ、恩に着るよ」
なんとか、今度こそ、アリスを納得させることが出来たようだ。
…………けどさぁ、カラスって、勇者とか抜きにしても、どぉよ?
なんか、イメージわるくね?
ドラゴンとまで言わないけど、もうちょっと、なんかあったでしょ…………。
「焼き鳥ー、やきとりー」
とりあえず、クロエをどうにかしないとな……。




