姫に召喚されまして 2
自分の妹を買う。
その言葉を脳内でリピートさせて理解しようしたが、ダメだった。
俺は一人っ子で、妹どころか、兄妹がいない。
神様にでも会って、妹が欲しいので売って下さい、とでも言えば良いのだろうか?
それともあれか? 神じゃなくて、コウノトリさんから買うのか?
そうして脳内に言葉を巡らせていた俺の表情を見かねてか、サラが助け舟を出してくれた。
「また説明不足のようだね。どうやら、私は人と話すのが苦手なようだ。
不本意ではあるが、キミに話の主導権を譲ろう。何でも質問してくれて構わないよ」
不本意と言いながらも、思わず惚れてしまいそうなほどの明るい笑顔だった。
思えば出会ってからずっと笑顔だった気もする。
「あー、そうだな。とりあえずは、不本意といいながも笑顔な理由から教えてもらって良いか?」
「あぁ、構わないよ。主導権の譲渡はたしかに不本意なのだが、話すことが苦手だという新しい発見が出来たからね。その喜びの方が上回った結果だと判断するよ」
意味がわからない。
苦手が発見出来てうれしいとか、変態なのだろうか?
「こうして人と話していることが、楽しいと感じているのかもしれないね。
しかし、それも可能性の範疇を出ない。なにせ、サンプルが少なすぎるからね」
「サンプルが少ないってどういうことだ?
友達とはあまり話さないのか?」
「いや、ボクに友人など居ないよ。
物心付いてからは、ずっとこの研究室に引き篭もっていたからね。最近では乳母ともあまり話さないかな」
なるほど、ひとりぼっちで研究していた結果、すごいものを発明した訳か。
天才なのか、変態なのか……。
今までの印象から考えると変態の可能性の方がたか…………。
「いや、ちょっと待て。たしか、その研究結果のせいで命を狙われてるんだったな?」
「不本意ながら、同意させてもらうよ」
「その研究のせいで友達も居ない訳だ」
「その通りだね」
「………助けてくれそうな人は?」
「居ないね。申し訳ないが、研究狂いの変態姫を助けてくれる人などいると思うかい?」
どうやら、変態の自覚はあるらしい。
「護衛なんかは、雇えないのか?」
「それも無理なんだよ。兄達の息の掛からない者など探しようがない。
護衛なんて雇えば、裏切られて殺されるのがオチだよ」
なるほど、すべてが敵みたいな状態なのか。
「俺みたいな奴をドンドン召喚するとか」
「素材も魔力も足りないね」
「本当に命を狙われているのか? 話す機会も無いような兄弟だろ? 勘違いなんてことはないか?」
「その可能性は薄いと断言するよ。研究結果の中には、盗聴器もあってね。どうやらボクは、クーデターの首謀者として捕まるらしい。今頃は、証拠の捏造に勤しんでいるはずだよ」
「…………………」
このひとりぼっちなお姫様を助けることは不可能だと思う。
そう思っていると、サラの笑みが深みを増した。
「キミの表情から推測すると、どうやらボクの現状を正しく理解してもらえたようだね。
キミに主導権を譲渡して正解だったよ」
おもむろに近づいて来た彼女は、檻の隙間から手を差し入れて俺の手を握る。
「それじゃぁ、改めてお願いさせて貰うよ。ハルキ、ボクを助けてくれないかな?」
整った顔が、息が当たりそうな距離にある。
一瞬だけ、頷いてしまっても良いかなと思ったが、強く状況を意識する。
「現状を正しく理解した俺が、助けるために動くと思うか?」
「まぁ、そうだろうね……」
ほんの少しだけ寂しそうな表情を浮かべたサラが、瞳を閉じた。
俺の手を握りながら少しだけ沈黙を保ったサラが、何かを決意したように強くうなずく。
その綺麗な瞳には、覚悟の文字が浮かんでいるようい見えた。
「勿論、報酬も出すよ。助けてくれた暁には、ボクの体を好きにしてくれて構わない」
「……は?」
突拍子もない発言に戸惑う俺を尻目に、サラは突然立ち上がり、羽織っていた白衣を脱ぎ捨てた。
あっけにとられていると、スカートが床に落ちた。
彼女の下半身を守るものは、白いパンツしか残されていない。
サラの両手がブラウスの裾を掴み、見せ付けるかの様にゆっくりと上がっていく。
ブラジャーなどは身に着けていないのか、プルプルの肌が迫り来る。
「!!! いや、ちょっとまて!」
思わず叫んだ俺の声に、胸を半分さらした状態でサラが止まった。
出来るだけ感情を抑えて、声を絞り出す。
「服を元に戻せ」
「報酬を確認しなくて良いのかい? これでも胸には自身があったのだが、こう大きくては好みに合わなかったかな?」
めくり上げた裾を戻したサラが、不満そうに唇をとがらせる。
「サラの覚悟はわかった。こっちも本音で話すから、スカートも履いてくれ」
「えっと、今更で悪いんだが、経験が不足なんだ。出来れば優しくしてくれるとありがたいんだが……」
「とりあえず、服を着ろ!!」
「……仕方ないね。了解したよ。
このままでは、女としてのプライドがズタズタなんだが、キミを怒らせてしまっては本末転倒だからね」
しぶしぶと言った感じで、サラはゆっくりと服を着直していった。
ほんの少しだけサラから視線をそらして、嘘のないきびしい言葉を紡いでいく。
「サラの現状は理解した。その上で助けてやりたいとも思う。だけど、その案が浮かばない。
したがって、助けることは出来ない。報酬以前の問題だ」
出来る限りの鋭い視線を彼女に向ければ、サラがポンと手を叩いた。
「そういえば、打開策について詳しい話をしていなかったようたね。またしても先走ってしまったようだ。
一応作戦自体はあるんだよ。そして、キミの手助けを借りれば、成功すると思うんだ。
もちろん、より良い計画があればそちらに変更するつもりだよ」
「そういう話しは1番初めにしてくれよ……」
今更なサラの言葉に、思わず苦笑が浮かんでくる。
そして、俺は彼女の作戦を聞くことになった。