寝込みを襲われる
目的地であった洞窟で倒れこんだ俺は、すぐに意識を夢の世界に旅立たせた。
そして、いくばくかの時間が経過した頃、ぼんやりと霞がかった脳内に、不思議な声が聞こえる。
「グル゛ル゛」
うっすらと目を開ければ、燃え盛る焚き火が見えた。
周囲にはクロエ、アリス、サラが寝ている。
「グル゛ル゛」
そこからすこしだけ離れた場所に、4本の足の置物があった。
三角に飛び出した顔。鋭い牙。
白い狼の置物だ。
「グル゛ル゛ル゛」
しきりにグルグル言っている。
ニヤリとあざ笑うように、牙をむいた。
こいつ、もしかして置物じゃな……。
「おぁーーー!!」
思わず、叫び声を上げた。
白い狼から距離をとるために、地面を転がる。
そんな俺めがけて、白い狼が飛んできた。
「ちょ、たんま」
思わず口を次いで出た制止の言葉も意味をなさない。
勢いを殺すことなく、鋭い爪が迫り来る。
どうやら狼の狙いは、柔らかそうなお腹らしい。
頭では状況を理解しているが、体は一向に反応しなかった。
(動けよ!! 動いてよ!!)
どうにも避けることは不可能なようだ。
胃液が逆流し、額からは嫌な汗が流れ出す。
死んだな。
そう思った。
「来なさい、ロックウォール」
遠くからアリスの声がした。
目の前に土の壁が盛り上がってくる
「キャウン」
その壁にぶつかったのか、白い狼の情けない声がした。
「犬の分際で、どこから入り込んだのよ!!」
アリスの叫び声が聞こえる。
(助かったのか?)
「ちょっと、ダーリン!! 呆けてないで、迎撃しなさいよね!! ナイフ持ってるでしょ!!」
っと、そうだった
ナイフをポケットに……。
「キミに死なれると、かなり困った事態になるんだよ」
「お兄ちゃんをいじめちゃダメなんだから!!」
ナイフをカバーから出せずにいると、サラが盾にでもなるかのように、俺と狼の間に入り込んだ。
クロエが手持ちのナイフを投げつける。
「キャゥン」
眉間にナイフが刺さり、白い毛皮が赤く染まっていく。
そこにアリスが追撃を加えるべく声を張り上げた。
「行きなさい‼」
アリスの叫び声に答えるように、クナイのような形の石が宙に浮く。
1つ、2つ、3つと、次々に狼の体に突き刺さった。
「お兄ちゃんのナイフ借りるね」
俺のナイフを奪ったクロエが、狼の喉元に投げつける。
狼が力なく地に伏せた。
「お兄ちゃん、大丈夫だった? 怪我してない?」
「……あぁ、クロエやみんなのおかげで、怪我はしてないよ。ありがとな」
ホッとした感情と共に、クロエの髪をなでる。
生まれて初めて感じる命の危機に、俺は逃げることすら出来なかった。
(情けなさすぎだろ……)
本気でそう思った。