本拠地へ
所狭しと並ぶ木々の合間を歩き始めてから30分ほど。
「ふう。ようやく到着したか。
占い通りとは言え、なかなかに良い場所に辿り付けたな」
サラがそんなことを呟いた。
目の前には5階建てのマンジョンほどの崖がそびえ立ち、その根元には大きな穴が開いている。
雨風をしのげるあの場所は、俺達のような逃亡者が暮らすのには良い場所だと思う。
周囲に人の気配もなく、最悪の場合、篭城も出来るだろう。
追っ手から身を守るのにも適した場所に見える。
しかし、そんな目的地に関して、1つだけ確認しなければいけないことが発覚した。
「サラ。逃亡先に関しては、良い場所を知っているから任せて欲しい、と聞いていたんだが、いま、占い通りって言ったか?」
「ん? あぁ、たしかについ先ほど、そう言ったと記憶しているよ。
それがどうかしたのかい?」
俺の質問に対して、サラは不思議そうな表情を浮かべた。
少し考える素振りを見せたあとで、ポンと手をたたく。
「あぁ、占い師から情報が漏れることを気にしているのかい?
それなら大丈夫だよ。準備から実行まで、すべて自分ひとりで行った結果だからね」
すべて1人でって、セルフ占いってことですか……。
ものすごく寂しくないか?
まぁいい。そんなことよりも重要なことがある。
「もしかして、なんだが。
俺達の目的地は、占いによって決められていたのか?」
「ん? あぁ、そうだね。その通りだよ。
研究所に引き篭もっていたボクは、逃げる場所として適切な地点を知らなかったからね。占いに頼らせて貰った結果がこの場所だね」
「……サラの占いは当たるのか?」
「的中率はわからないね。何せ、今回が初めてのことだから、統計のとりようがないよ。あえて確立を算出するとすれば、1回中、1回成功で失敗なしの100%になるものの、試行回数が少なすぎて意味を成さないね」
…………。
「あー、クロエ。
大事なことを占いで決めるって、この国では一般的なのか?」
「んぅ? 占い? んー、私はしないかな。
占いって、あんまり当たらないからね」
もしや占いも魔法で⁉ と思ったが、違うらしい。
今日のラッキースポットが海だったから、海水浴行こうよ、的な考えで逃亡先が決まっていたようだ。
サラは、バカなのかもしれない。
…………けど、まぁ、それが根拠のない占いの結果でも、目の前には作戦通りの良い場所がある事実は変わらないし、今は気にしないことにしよう。
そのほうが精神的にも良いと思うし。
「……サラ、今後の拠点にする場所は、この洞窟の中ってことで良いんだな?」
「あぁ、その通りだよ。さっそくだが、中に入るとしようか」
自身の占いを信じるサラは、ためらいもせずに洞窟に入って行く。
俺は少しだけ距離をあけて、サラの様子をうかがうっていた。
クロエも不安だったのか、俺と同じくらいの位置まで下がってきている。
「ん? どうしたんだい、2人とも。
そんな所にいないで、中に入ろうじゃないか」
「……あぁ、いま行くよ」
それでも洞窟に入らない選択肢はないため、恐る恐る中をのぞきこんだが、見える範囲は砂と岩と土だけ。
サラに襲い掛かる者はいない。
どうやら危険はないようだ。
「……ふぅ、ひとまずは、逃亡作戦成功か」
身の安全と、これ以上歩かなくて良いという達成感が全身を襲う。
「もうだめだ。1歩も歩けねぇ」
出来る限り平坦な地面を探して、肩から崩れ落ちるように倒れこんだ。
硬い地面だが、寝れると言うだけでも今はすごくありがたい。
そうしていると、いつの間にか夢の世界に旅立っていた。