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アリスのわがまま

 街を抜け出して、森の中の道を歩き始めてから9時間ほど。


 辺りが茜色に染まり始めたな、と思っていた頃にアリスが頬を膨らまして足を止めた。


「もうやだ。もう歩けない。

 ねぇ、ダーリン。アリスのこと、特別におんぶさせてあげるわ」


 もう一歩も歩けないとばかりに、草の上に腰を下ろした。


 昼飯の時間と少々の休憩以外はずっと歩き通しだったので、限界だというのも嘘ではないだろう。


「目的地まではあと1時間ほどで到着するけど、この後は、道を外れて森を歩くことになるね。

 ハルキには申し訳ないが、アリスのことを頼んでも良いかな? 実は、ボクも歩くことには慣れていなくてね」


 先を行くサラが、力なく笑った。


 サラも生粋の王族だ。

 歩いてくれているだけで御の字だろう。


 正直な話、俺の脚も悲鳴をあげているが、ここは男の意地を見せる時ってことだろうな。


「わかった。アリスは俺に任せてくれ。その代わりと言ってはなんだが、森では比較的歩きやすい道を選んでくれると助かる」


「先導は任せてくれて構わないよ」


 自信ありげな表情を見せるサラにうなずきを返す。


 大きく深呼吸をしてから、クロエへ方に視線を向けた。


「クロエは大丈夫か? 足は痛くないか?」


「うん、私は全然平気だよ。お兄ちゃんの方こそ大丈夫? 足はガクガクで、顔色もあんまり優れないみたいだけど……」


 どうやら、クロエにはバレバレなようだ。


 ぶっちゃた話、限界は近いと思う。


「い、いや、大丈夫だ。このくらいでへばったりするような俺じゃないよ」


「そう? わかったよ。

 けど、無理しちゃだめだからね。なんだったら、アリスお姉ちゃんは私がおんぶしてもいいよ?」


「…………いや、大丈夫だ」


 正直なところ、かなり魅力的な提案だったが、さすがに妹に任せるには男のプライドが許さない。


「ほら、アリス、乗っかれよ」


 決意が揺らぐ前に、片膝を地面につけてアリスを促す。


 そんな俺の決意に、アリスはことのほか動揺しているようだ。


「……乗っちゃっていいの?」


「いいさ。ここまで頑張った御褒美だ」


 俺の言葉に視線を彷徨わせたかと思えば、恥かしさを隠すように胸を張った。


「その殊勝な心がけに免じて、アリスのナイスバディをその背中に感じることを許可してあげるわ。支えるときに、ちょっとだけなら、お尻に触れても気が付かないフリをしてあげるわよ」


 その言葉に思わず彼女の胸を見てしまった。


 ナイスバディとは程遠い胸がそこにある。


「なによ、その目は‼」


「いや、あのですね――」


「うるさいわよ、発情犬。アンタは黙ってしゃがめば良いのよ」 


「…………」


 言い訳すらさせてもらえず、アリスをおんぶすることになった。


 背中に当たる感触は、うん、まぁ、そうだよね、って感じだ。


 そんな無駄なことを考えながら進むと、先頭を行くサラが道をはずれて、木々の間を進み始めた。


 どうやら平坦な道はここまでのようだ。


 この先は、今まで以上にきついのだろう。


(俺の足はどこまでもつかな……)


 そんなことを考えていると、アリスが小さく話しかけてきた。


「ダーリンってば、アリスのこと無能だと思ってるでしょ?」


 声のトーンから考えるに、胸の件の苛立ちは消えたようだ。

 だが、その質問の意図がわからない。


 とりあえず、当たり障りのない返答をしておこう。 


「いや、そんなことは思っていなさ」


「ふん、このさき、絶対に役に立つんだから、覚悟しときなさいよね」


 1人だけ歩けず、背中に居ることが不安なのだろ。


 人には得手不得手がある。

 それこそ、アリスの土魔には今後もお世話になる予定だ。


「あぁ、頼りにさせて貰うよ」


「ふん、そうしなさい。

 けど、こんな森の中に入って、何処までいくのかしら。この先に、アリスに相応しい場所なんて、ないと思わない?」


「あー、うん、そうだね。アリスには、もっと可愛い場所が似合うと思うよ」


「なによ、可愛い場所って。アリスは、大人の女なのよ!! 

 …………まぁ、かわいいのも、嫌いじゃないけど」


「うんうん、アリスは綺麗でかわいいからな。君になら、どんな場所でも似合うよ」


「……ダーリンって、意外に良いこと言うじゃないの」



 この子、ちょろい子。


 そんなことを思っていると、急にアリスの声が真剣みを帯びた。


「ねぇ、アリスを仲間に入れてくれたのって、ダーリよね?」


 前を行く2人、主にサラを気にしてか、もともと小声だった会話が、さらに小さくなる。


「…………どうしてそう思う?」


「だって、サラ姉がそんな発想に思いつくはずないもの。

 アリス達はみんな、他の兄妹達に排除されないように生きてきたわ。だから、同盟なんて話を聞いたときは、心の底から驚いたの。

 アリスがサラ姉の立場だったら、サラ姉を引き入れようなんて、絶対に考えもしなかったと思うしね。

 もしかすると、クロちゃんかもしれないけど、あの子って自分から何かを提案するなんてしないじゃない。だから、ダーリンしかいないの。

 どう? アリスの予想当たってるでしょ」


 アリスの予想通り、サラが考えた計画では、クロエを購入後、速やかに脱出予定だった。


 それを仲間は多いほうが成功率が上がると提案して、今の形に落ち着いていた。


 まあ、その結果が嫁になるとは予想してなかったがな。


「あのままだと、兄達に殺されてたか、良くても幽閉だっただろうし、一応だけど、ダーリンには感謝してるの。

 話しはそれだけよ。わかったら、とっとと歩きなさいよね」


「あいよ。了解しましたよ、お姫様」


 アリスも良い子、サラも良い子。


 微笑みを浮かべながら、前を進むサラを

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