その頃の第1王子
次期王に誰よりも近いと言われている、第1王子スバル。
その日も彼は、自分の地位を確実なものにするために、精力的に動いていた。
「スバル王子、全員整いましてございます」
彼の周囲には数多くの部下達が肩膝を地面につけて、彼の指示を待っていた。
椅子に座っている者は、スバルと側近のギルだけだ。
「そうか、軍の把握はどうなっている?」
「はっ! 軍に関しましては、一般軍の7割の把握が完了し、魔法軍の攻略にも着手致しました。
しかしながら、魔法軍の方は、第2王子派の抵抗が激しく、難航しております」
「そうか。わかった。2週間の時間をやろう。その間に何かしらの成果をあげて来い。以上だ」
「かしこまりました」
無謀な命令にただうなずくしかなった軍の計略担当が、顔を青くして立ち上がる。
退去しようと足を引いた時、不意に1人の男が駆け込んできた。
「火急の報告が御座います」
「その顔を見るに悪い話か。速やかに報告せよ」
「はっ! 第5王女アリスの御姿が城内にないとのこと。第4王女サラ様もドアを魔法で施錠し、立てこもっておられます。
現在、100人体制でアリス様の行方を捜索しておりますが、発見できておりません。
サラ様のドアに関しましては、現在、筆頭魔法使い様の協力を仰いでおります」
「わかった。早急の解決を期待する」
「かしまりました」
入ってきたときの様に、男は足早に去って行った。
(アリスの方はいつものワガママで、城下町に行っただけだろうが、サラの方は問題だな。このタイミングで魔法を使ってまでの立てこもりとなると、あいつを処刑する計画がばれたと考えるの妥当か。
どこから情報が漏れたか特定したい所だが、あの女のことだ。幽霊に聞いたとか精霊に聞いたとか、十分にありえそうだな話だ。捜査するだけ無駄だな)
そう考えをまとめたスバルが、側近へと視線を向ける。
「ギル。例の件はどうなっている?」
「滞りなく。本人の身柄を確保できれば、すぐにでも刑を実行できます」
「そうか、よくやってくれた」
(知られてしまったからには、早急にこの世から去ってもらう必要があるな。
大人しくしておれば、命ぐらいは助けてやったものを……。頭が良いのも考えものだな)
「会議の続きは、サラの身柄を確保してからとする。
担当者には急ぐように伝えておけ。早急に解決できれば褒章を出す。以上だ」
そうして会議は解散となった。
それから2時間後。
側近と弟の行動を抑制する方法を検討していたスバルに、新たな情報が届けられた。
「わるいが、よく聞こえなかった。もう一度、報告を頼む」
「はっ! サラ様の研究室内に人影はなく、無人の模様。
捜索隊の報告によると、アリス様、サラ様共に城内および城下町に、その姿はありません。
本日、城下町に到着した商人によると、サラ様、アリス様に似た人物を門の外で見かけたとのことです」
聞いた言葉が信じられずに聞き返したが、結果は変わらなかった。
サラとアリスは2人とも城を抜け出したらしい。
顎に手当てたスバルが、宙を見詰めて眉をひそめた。
「目的が見えぬな。城を抜け出し何処へ行こうというのだ。……ギル、お前は、あやつらの目的をよめるか?」
「そうですね。アリス様の目的はわかりませんが、サラ様は隣国へ亡命するためでしょう。第3王子の亡命を受け入れたバルト国なら、第4王女である自分も亡命出来ると考えたのかと思われます」
「ありえる話だな。だが、ここ最近、サラが手紙を出したなんて報告はあがっていないぞ?
事前準備なしで、隣国へ渡るつもりか?」
現状を鑑みたスバルは、頭の中で情報を整理し、ニヤっと笑った。
素早く席から立ち上がったスバルが、手下の顔を見渡して嬉しそうに胸を張る。
「わが国の国家機密が、サラ王女自らの手で他国へと渡ろうとしている。
アリス王女の方は依然として行方、目的共に不明だが、彼女も放置すれば情報がもれる恐れがある。
これは国家創設以来の忌々しき自体だ。
即刻、軍を派遣し、賊を討て。サラ、アリスの両名を縛り上げ、我が前に示せ。生死は問わん。以上だ」
「「「「はっ!!」」」
大義名分を獲たと叫べば、周囲が慌ただしく動き出す。
そんな中、側近のギルが、スバルの命令に待ったをかけた。
「お待ちください。王女様は御2人とも――失礼しました。賊は両人共、固有魔法を有しており、中隊以上を差し向ける必要があるか思われます。しかしながら、多くの者を王都から離せば、第2王子派の反逆が予想されます」
その言葉を聞き、慌しかった部屋に沈黙が落ちる。
「……ちっ。たしかに、ギルの言う通りか。
ここであやつらを撃ったところで、結局は第2王子派が邪魔だな……」
(まったく、面倒な弟だ。アリスの方は放っておいても問題ないか。サラは早急に始末したかったのだがな……。
しかしまぁ、国を出てくれるのならば、当分の間は邪魔をしてこないだろう。その間におろかな弟を始末し、王位を磐石にすれば問題ないな)
「わかった。我々はこれまで通り、活動の場を広げて力を蓄える。
諜報に優れた者を数人で愚妹それそれの行方を監視。それ以外の者は、第2王子派の排除。以上だ」
結局、第1王子派では、サラ達への軍の派遣は行わず、監視のみとなった。
城内の別場所で同様の会議を行っていた第2王子派でも、同じように監視のみで今後の行動を見守ることになる。
両陣営とも、サラとアリスが手を結んでいること、そして勇者の存在に気がつくのは、かなりの時間が経過してからのことである。