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城から脱出

 秘密の抜け道を前に、全員が顔を見合わせる。


「それじゃぁ、行こうか」


 うなずき合ってから、通路に入った。


 暗闇を進めば、アリスがふと後ろを振り返る。

 何かを振り払うように首を振って、再び前を向いた。


(生粋のお姫様って感じだもんな。初めての家出か……)


 暗闇に見えるアリスの顔は、どこか不安げに見えた。




 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




 真夜中の街は、明かり1つない暗闇だった。


 街灯など、どこにもない。

 酒場らしき場所も堅く扉を閉じていた。


 これもまた、王位を巡る争いの影響なのだろうか。


(こっちだね)


 はぐれないように注意しながら、通路をまっすぐ進む。


 ただひたすらにサラの背中を追い続ければ、程なくして巨大な壁にたどり着いた。


(小さくていいんだ。頼めるかい?)


(とうぜんよ)


 小さな声でうなずいたアリスが、ひとり壁に近づく。


 両手を壁につけて、ゆっくりと振り向いた。


(ありえないとは思うけど、失敗して崩れるかもしれないから、後ろに下がってなさい)


 ほんの少しの注意の後に、アリスが再び前を向く。


 聞き取れないほどの音量で何かをつぶやいたかと思えば、ゆっくりと壁が動き出した。


 壁に小さな穴が空き、みるみるうちに広がっていく。


(すげー……)


 思わずこぼした言葉に、アリスが胸を張った。


(当然よ)


 アリスの魔法は土や石を操ることが出来るらしい。


 事前にサラから聞いてはいたものの、実物を目にしては驚きを隠しきれなかった。


(見付からないうちに先に進むよ。穴はそのままで良いからね)


 ウインクしてみせるサラに続いて、壁を抜ける。

 

 そのまま、近くにあった森らしき場所へと進み、木の陰に隠れるように歩みを止めた。


 大きな木を見上げで、サラがほっと息を吐く。


「無事に脱出出来たようだね。今日はここで眠ろうか。ハルキ、テントを張れるかい?」


「あ、あぁ、1つしかないけど大丈夫なのか?」


「緊急事態だし仕方がないと思うよ。それにここにはキミの妻と妹しかいないんだ。問題はないよ」


 真顔で言い切るサラの姿に、思わず顔が熱くなった。


 周囲が暗くて本当に良かったと思う。


 恥じらいを隠すように背負っていた荷物の中からテントを取りだして組み立てる。


 とは言ってもそこは魔法世界のテント。


 丸い玉に手を当てて目を閉じれば、一瞬にして大きなテントが出来上がっていた。


「さすがとしか言いようがないな……」


 風の入らないがっちりとした構造。

 4人で使うには少し小さいが、身を寄せ合えば寝れそうだった。


 毛布すらないテントの中で横になれば、すぐに睡魔がおそってくる。


 周囲からは誰かの寝息が聞こえていた。


「おやすみ」


 そう小さくつぶやいて、俺も眠りの世界へと歩んでいく。 



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 それから4時間後。


 隙間から入る太陽の光に、サラがその身をもたげた。


 周囲を見渡したサラが、目頭を抑えて肩を落とす。


「……おはよう。提案なんだが……、もう少しだけ、寝てはだめだろうか?

 このままの状態では、逃亡に支障が出ると思うのだよ」


「うぅー、なんでアリスがこんな場所で寝なきゃいけないのよ。

 それもこれも全部、ダーリンが悪いんだからね」


 生粋のお嬢様であるサラやアリスが、眠たそうに目を擦っていた。

 かく言う俺も、十分に寝れられたとは言いがたい。


 あー、城にあったふかふかのベットが恋しい。


「おはよう、お兄ちゃん、お姉ちゃん。

 朝ごはん出来てるよ。少しだけでも食べたら、みんなすぐに元気になると思うな」


「……わかった。ありがとなクロエ」


 そんな中、クロエだけは元気いっぱいである。


 なんでも、奴隷商時代は、布団が無いことくらい当たり前だったらしく、タイル張りの冷たい床と比べれば天国だそうだ。


 むしろ、お城のふかふかベッドと比べれば、こっちの方が慣れている分寝やすかったとか…………。


「ほら、2人とも、さっさと起きるぞ。

 このまま寝たら死ぬぞ」


「……仕方がないね、了解したよ」


「……ふん。ダーリンの癖に生意気なのよ」


 サラに魔法で水を出してもらって顔を洗い、口を軽くゆすいでから乾燥肉をお湯で茹でてで戻しただけの朝食を食べる。


 水と火の魔法と一括りに生活魔法と呼ばれ、蛇口程度の水量や、100円ライターほどの火力であれば、血筋に関係なく練習次第で使うことが出来るらしい。


 サバイバル生活には優しい世界でよかった。


「それじゃぁ、行こうか」


 サラの道案内で森の浅いところを進む。


 街から見えなくなったところで、小さな道にでた。


「ねぇ、こんなに堂々と道を歩いて大丈夫なわけ?

 森の中を行った方がいいんじゃない?」


 アリスの言葉通り、俺達は普通に道を歩いる。


 時折すれ違う馬車などにと、軽く手を挙げて挨拶までしている。


 森の中と比べて歩きやすいのは良いが、アリスの言う通りの不安があった。


「ボクとしては森を進むよりも、こちらを進んだ方が良いと思うよ。

 下手にこそこそするよりは堂々としていた方が、見つかり難いからね。

 それに、逃げる先はここから1日ほどで到着する場所だから、速度優先なんだ。兄達の追っ手が来る前に到着してしまおうって作戦だね」


「ここから1日って、そんなところに何かあるの?」


「目的地がそこにあるよ」


「たしか、海まで行くのに5日よね?」


「その通りだと記憶しているね」


「海と街の間って森以外に何も無いわよね?」


「あぁ、アリスの言うとおり、城下町と海の間には何もないよ」


「意味わかんないわよ。ちゃんと説明しなさいよね、ダーリン!!」


 そういえば、アリスに何の説明も無くここまで連れてきた事を今更思い出した。


 ってか、そういうことって街を出る前に聞かない?

 俺の責任みたいに怒られてるが、俺が悪いのか?


 まぁ、可愛いからいいけどさ。


「わかった、わかった。順序良く説明してやるから、あんまり叫ぶな。

 周囲に人がいないとは言え、俺たちは一応逃亡者なんだからな」


 目的地まで1日。


 時間はたっぷりあるのだし、ダンジョンコアを扱える能力はクロエの固有能力だと言う事にして、これまでのことをゆっくりと説明することにしよう。

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