ツンデレ王女
「どうやらアリスの誤解も解けたようだね。私から1つ質問をしたいのだが、良いだろうか?
アリスは、自分の王位継承権を覚えているかい?」
「いきなりどうしたの? 継承権なら5番目よ?」
突拍子もない話に不思議がりながらも、アリスが素直に答えた。
そんなアリスに向かって、サラが首を横に振る。
「それは去年までの話だね。
第3王子のオルグ兄さんが隣国へ逃げたことで、1つあがってるんだ」
「へぇー、そうだったんだ。知らなかったわ。
けど、それがどうしたのよ。アリスの王位継承なんて、兄達やサラ姉がいるから、飾りのような物じゃない」
「たしかにそうなんだが、ここでボクが兄達に殺害される、もしくは国外逃亡したとしよう。
繰り上がって第3位になったアリスを兄達はどうすると思う?」
前々回の3位が排除、前回の3位が排除。
じゃぁ、今回の3位は?
「オルグ兄、サラ姉に続いて、アリスも狙われるってこと?」
悪い想像をしたのだろう、アリスの顔に恐怖の文字が写りこんだ。
「そういうことだね。いや、むしろ、ボクと一緒にクーデターを企てたと言われて、今回の騒動で一緒に処刑される可能性もあると思うよ。
そう考えると、クーデターにアリスが加わってると言う話も、兄達が流したものかもしれないね」
これ幸いと、兄達が噂に便乗してくる可能性は充分にある。
アリスの顔から血の気が引いた。
「…………けど、殺されない可能性もあるでしょ?」
「そうだね。たしかに、その可能性にかけるのもありだと思うよ。けど、命をかけれるほど、兄達を信用できるかい?」
「…………」
「まぁ、かと言って、ボクを信用しろとは言えないけどね。
ゆえに、1つ、提案があるんだ」
そう言うと、サラは意味ありげに間をあけて、アリスの目を見詰めた。
そしてゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「勇者である彼を中心に、同盟を結ぼうじゃないか」
「……へ?」
アリスの瞳がこれまでにないほど大きく開かれた。
そんなアリスをしり目に、サラが言葉を続ける。
「立ち居地は同じ正妻で良いよ。契約の魔法も実行しよう。
ちなみにだが、彼の妹であるクロエも、ボク達と同様の立場になるから、その点も了承して欲しい」
彼女を仲間に引き入れることは聞いていたが、またしても初耳の話が飛び出してきた。
俺を中心にだなんて、一切聞いていないぞ?
俺の妻の座が交渉の材料に加えられているのは、気のせいか?
「すこしだけ、考える時間をもらえないかしら」
話は非常にやっかいを極めている。
命が絡む問題でもあり、アリスの意見は当然であった。
しかし、サラはその要求に対して、首を横に振る。
「それは出来ない。兄達へ密告されるのが厄介だからね。
ボク達にはあまり時間がないんだ。早めに兄達から逃げなくていけないんだよ」
「うぐ、……それもそうよね」
文句だけ言いに来たつもりが、今じゃ、本当にクーデターの参加を促されている。
考える時間もない。
恐らくアリスの頭の中は、混乱でいっぱいだろう。
そんな彼女の視線が行き場をなくし、苦し紛れに俺を睨んだ。
「あの勇者は本物なんでしょうね?」
「あぁ、ボクがきっちりと異世界から導いた御方だ。出所はしっかりしているよ」
自信に満ちた表情を浮かべて、サラが大きく胸を張った。
そんなサラの態度に、アリスが静かに目を閉じる。
「……わかったわ。兄達よりもちょっとだけ信用できそうな顔してるし、しょうがないから、アリスも勇者の仲間になってあげるわ。
けど、勘違いしないでよね。おかしなことがあったら、すぐに同盟破棄してやるんだから、気をつけなさいよね」
鋭い視線を向けたアリスが、堂々と指をさしながらそう宣言をした。