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決戦7

 第1王子に降伏を呼び掛けてから3時間が経過し、城の門が開いたことを確認した俺は、気心が知れた建国当初の仲間だけを引き連れて城内へと入った。


 取り回しのきく、手のひらサイズの拳銃だけを手に、城内を歩く。


 行き先を告げるのは、サラとアリス。この城を知り尽くしている2人だ。


「城内に残っていた兵の撤退は完了しているみたいだね。

 ハルキの言った通り、敵味方共に、死者は最小限で済みそうだよ」


「……そうだな。ただ、まぁ……。

 俺としては、現時点でも死者を出し過ぎたと思っているがな」


 弱音とも取られかねない発言に、アリスが呆れたようにため息を漏らす。


「ほんとにあんたってば、バカなんじゃないの?

 勝利した時点で、あんたにしては頑張った方なんだから、ちょっとは誇りなさいよね」


「……そうだな」


 話をしながらも一応の警戒はしているが、城内に人の姿は無い。

 サラ曰く、不要な混乱を避けるために、兵やメイド達は、それぞれの詰め所で待機している可能性が高いそうだ。


 第1王子からは、投降を呼びかけておく、と返答を貰っていたが、どうやら本当に実行してくれたようだ。


 俺の引き抜きによって減りに減った王国の兵数は、いまや500人に満たない人数であり、対する俺達は、6000人に膨れ上がった。


 最早誰の目にも王国に勝ち目は無いのだが、最後の悪あがきとばかりに、王子が特攻を仕掛けてくるかも、といった考えが頭を過っていた俺にとって、この結果は素直にありがたかった。


 味方はもちろん、敵であったとしても、亡くなる人は出来るだけ少ない方が良いに決まっている。


 脅迫したり、人質を取ったりと、卑怯と批判されそうな行動をした自覚はあるが、人が大勢死ぬより悪いことはないと俺は思う。


「着いた。ここが王座の間だね」


「……気を付けなさいよね」


「あぁ、わかっているよ」


 目の前にあるのは、見上げるほどの大きな扉。

 手前に引く構造のようで、磨き上げられた金のドアノブが二本突き出ていた。


 至る所に豪華な装飾が施され、王国の威信やその歴史を全面的に押し出しているように感じる。


 俺は、この扉を通っても良いのだろうか?


 この世界に召喚された当初なら、そんな思いを抱いていたと素直に思う。


「開けてくれ」


 だが、幾人もの人が亡くなるような状況を作り出した俺に、ここで立ち止まるなどという贅沢は許されない。許されるはずがない。


 何が起きても対処出来るように、その場に居たすべての者が武器や防具を構える。そして、先頭を歩いていたサラとアリス、クロエ、ノア、ミリアの手によって、ゆっくりとその扉が動き出した。


 重厚そうな見た目に反し、一切の音を立てずに扉が開く。


 まず目に飛び込んできたのが、ひと際豪華に飾った椅子だった。

 部屋の最奥に位置し、一段高い場所に作られたそれは、誰の目からも最高権力者が座る物だとわかる。


 そして、その椅子の少し手前。

 一段だけ下がった場所に一人の男が居た。王位継承第1位、王子スバルである。


 部屋の中に兵は居らず、王子だけがそこに座っていた。


「ようこそ。歓迎せざる客人達」


 銃口を王子に向け、兵やサラ達と部屋中に入った俺は、銃口を下げること無く口を開く。


「勇者国の代表、春樹だ。

 お前が王国王位継承第1位、スバルだな?」


「いかにも、私がスバルだ」


 俺たちに囲まれながらも王族らしい振る舞いを続けるスバルは、命を狙われていた立場である俺であっても、思わず崇めたくなるほどの凄みを持っていた。

 

 長男であり、王としても素質も持ち合わせる。


 もし適正な魔法さえ備わっていたのなら、これほど大きな混乱は起きなかったのだろう。そんなことを思わせる光景だった。


 しかし、だからと言って状況が変わる訳ではない。

 相手の不幸を感じ取ったとしても、どうしようも無いほど血が流れていた。


 だが、そんな感情を抜きにしても、目の前に要る彼をこの場で死なせてしまうのは勿体ないと感じたのも事実だ。


「状況は理解しているな? 降伏せよ。

 無論、残った兵に危害は加えない。お前もただのスバルとして俺に知恵を貸すというのであれば、生かしておいてやる。無論、幽閉だがな」


「…………」


 俺の言葉は予想外だったのだろう。驚きの声を発しなかったものの、表情までは取り繕え無かったらしく、少しだけ身を捩ったかと思えば、大きく目を開いた。 


 俺が出せる最大の譲歩。降伏条件としてはかなり緩いと思う。


 だが、そんな俺の提案に対し、帰ってきたのは苦笑だった。


「……なんとも甘い男だ。俺が残っていれば、将来の禍根になる。それがわからぬほど、バカでもないだろうに」


 そんな言葉と共に、腰に付けていた鞘から剣を抜き取ったスバル王子は、自分の腹に剣先を向け、両手で柄を握る。  


「……民を頼む」


「兄さんっ!!」

「バル兄ぃ!!」


 サラとアリスが叫ぶものの、スバルの手が止まることは無い。

 

 その日、王座の床が、高貴なる血で染まった。 


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