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決戦

 第1王子スバルが王都へ逃げ帰ってから4日。

 疲労が抜けきらない表情で部下からあげられる報告に耳を傾けていた彼に、さらなる苦労が舞い込んできた。


「…………もう一度、報告を頼む」


「畏まりました。

 王都周辺に勇者国と思われる集団が現れ、町を作っているようです」


「……わかった。

 遠見に、より詳しい内容を頼むと伝えてくれ」


「畏まりました」


 勇者国が王都周辺に出現した。そして、町を作っている。しかも、目と鼻の距離に。


 その意図がわからないスバルは、何度も部下にその様子を確認させるものの、かえってくる答えが変わることは無い。

 どれだけの時間が経過しても、町作りの様子が詳しくなるだけだった。


「町の規模は30軒ほどで、周囲の柵は腰丈。どうやら、加工した木材を運び入れているようで、その建築速度は極めて速いとのことです」


「……建築以外に動きは無いんだな?」


「はい。現在、建築以外の動きは、確認されておりません」


「…………そうか、わかった。

 さがっていいぞ」


 失礼します、と言う声と共に報告の兵が部屋から消えたのを確認して、スバルは自分の横に座る男に目を向ける。


「ギル。お前は、あいつらが何をしているか、わかるか?」


「恐らくは、防衛拠点を築いているものと思われます」


 そんな王子の質問に、彼の側近は淀みなく答えて見せた。


 宰相に1番近い男と目される彼は、知識において王国のトップを直走る。

 戦術においても彼以上の者はいないと言われていた。


 そんな側近の言葉に、王子が眉を寄せる。


「防衛? あいつらは攻めて来たんだろ?」


「その通りです。ですが、攻めるにもいろいろな方法がございます。

 我国ではあまり取り入れられませんが、兵糧攻めなる手法かと思われます。直接手を出さず、食料が尽き、敵が弱るのを待つ。

 遥か西方の国が好むの戦法でございます」


 王国は土地の豊かな国であり、不作は長い歴史の中でも数えるほどしか無い。

 モンスターの被害で食料不足に喘ぐ村はあるものの、町と呼ばれる規模になれば、それも皆無である。


 だが、現在の疲弊した王国にとって、その方法が無用の産物には成りえない。

 

「……なるほど。たしかに、先の戦いで備蓄は減り、農民の数も減っていたな。魔法で作ろうにも魔玉が足りない。

 つまり、拠点防衛を基本にした長期戦闘を要として、周囲からの補給を絶ち、我等を飢えさせようという話か」


「その通りでございます。

 部下に備蓄の確認をさせましょう」


「あぁ、わかった」


 ちなみに勇者国内では、町ではなく、付城や出城と呼んでいた。


 勇者ハルキ的には、町では無く、城のようだ。


 住む場所が町、戦う場所は城。そんな日本人的な矜持など、この2人が知るはずもない。


「それで? 町の方は、このまま作らせると面倒なのだな?」


「その通りでございます。

 万が一、2つ以上作られますと、片方を攻めれば、もう片方に潜んでいた兵に挟み撃ちにされる危険が出てくるため、早めの対処がよろしいかと」


「なるほどな」


 付城の厄介さは理解出来ないが、挟み撃ちの危険性は理解できる。

 こうして敵の策を知った以上、放置する理由は無かった。


「して、敵を蹴散らせるだけの兵は集められるか?

 逃げ出した者の回収はどうなっている?」


「蹴散らすだけならば、少々城の守りが手薄になりますが、可能でございます。

 逃亡兵なのですが、どうやら勇者国に先手を打たれているようで、回収はあまり芳しくございません」


「そうか……。まぁ、そちらに関しては、愚弟の失態だ。仕方が無い。

 だが、相手の戦力が増えるのは厄介だな。こちらに援軍は?」


「……いつも通り、周囲の貴族は日和見でございます。

 理由は、王命では無いから、と」


「ッチ!! ふざけた連中だ。勇者国の次はあいつらだな」


 こちらの兵は増えず、あちらの兵が増えるばかり。そして、時間が経過するごとに、敵の防衛拠点が強度を増す。

 ゆえに、スバルに残された選択肢は、1つしか無かった。


「明朝、日の出と共に攻める。準備を整えておけ。

 大将はギル。お前に任せよう」


「畏まりました」


 王子の側近が恭しく一礼し、王国の作戦が決定した。


 2人は気が付いていないが、周辺に付城を築かれると兵達に圧力がかかり、王国の威信を揺るがすことになる。見張られている気分になることに加え、目に見えて敵の防衛力が上がるのだから当然の話だ。


 ゆえに2人が出した結論は、正解と言って差し支えない。

 もし攻めずに付け城が出来上がっていたら、クーデターが起きていてもおかしくなかったのだ。


 そして運命の朝がくる。


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