決算
「…………終わったか。失敗だったな……」
「いや、そんなことは無いさ。たしかに第1王子は取り逃がしたが、捕虜と仲間は増え、敵の戦力を大きく削った。
最高の結果では無いかもしれないが、前進には違いないよ」
「…………そうだな」
騎馬隊の突撃を受けた俺達だったが、被害はそこまで大きく無かった。
2回の斉射に加え、炎によって突撃してくる馬の数を減らしていたため、実際に俺達のところまで到達したのが、20体ほど。
その結果、骨折などの重症が19人で死者はいなかった。
「あの時、俺がやつを撃ててればな」
第2王子が殺され、残るは第1王子のみ。
これが最後の戦い。これが最後の犠牲者。これで終わり。
それが目的の戦いだった。
敵の戦力は減り、捕虜を説得すれば俺達の戦力は戦闘前より増えるだろう。
だが、俺が気を抜かなければ、降伏じゃなく殲滅を選択していれば、そもそも戦力を増やす必要すらなかったかもしれない。
「ハルキ。きついようなことを言うが、いまは落ち込んでいる暇はないね。
落ち込むなんていう贅沢は、兄を倒した後だ」
「……あぁ、悪いな。その通りだ」
襲われたから戦った前回とは違い、俺の考えで攻め込んだ戦いだ。
失敗したからと、嘆いている暇などない。
「反省は必要だけど、過去に引きずられない。それが正しい生き方だよな」
気持ちを無理やり奮い立たせ、周囲を見る。
勇者国に作った指令室にはいつものメンバーしかいない。
能力を超える魔法を行使したことにより気を失ったアリスも、あれから5時間ほど経過した今では、普通に歩けるほどまでに回復していた。
「クロエ。連れて行った兵達と、寝返ってくれた兵達の様子は?」
「んーっと、ちょっとだけ疲れてるみたいだったけど、『近衛兵に勝ったー、宴だー。米を食えー』ってみんな楽しそうだったよ」
「そうか、わかった。
褒美として蒸留酒を出すから、手配しておいてくれ」
「はーい」
近衛兵に勝った、か……。そうだな、そのくらいの気持ちじゃないとだめだよな。
酒、肉、米。
今日は贅沢に大盤振る舞いにしよう。
王国じゃ酒があまり手に入らないらしいから、寝返り兵のために、酒は多めに出しといた方が良いだろうな。
この世界に蒸留酒は無いらしいから、試行錯誤して作った蒸留酒を振る舞うのは、急性アルコール中毒なんかが怖いんだが、勇者肝いりの飛びっきり高級なお酒って言っとけば、みんなチビチビのむだろ。
「サラ、捕虜達の様子はどうだった?」
「一応、おとなしく鍵付きの部屋に納まってくれたよ。
普通の兵は意気消沈で、近衛兵達は敵意が燻ってるってところだね」
中には『勇者国の牢屋は高級すぎる』なんて驚く人もいたけどさ、などと言ってサラが笑う。
「ミリア。食糧の残りは?」
「倉庫に入りきらないくらい残ってますよ。籠城戦が予想以上に早く終わりましたからね」
「だよな。とりあえず宴の会場に運び込んで、捕虜達にも渡してやってくれ」
「了解しました」
1か月以上の籠城も想定していたんだが、2日で終わったからな。
食糧も問題なし。あとは……。
「アリス。眩暈や吐き気はどうだ?」
「……うぅーーー、うっさいわね。大丈夫よ!! もう全然平気なんだからね!!」
1番酷いであろうアリスがこの調子なんだから、2日も休めば大丈夫ってところだな。
「わかった。俺が捕虜を今日と明日で説得する。
明後日には王都に向けて進軍しよう。明後日までに、兵站と体調を整えておいてくれ」
「捕虜の説得さえできれば、戦力はボク達の方が上。攻めるなら、早めのほうが有利か……。
準備の方は受け持つよ。今度こそ、決着にしよう」
そういうことになった。