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保護者の会

 鉄壁が消えて国王軍が混乱する最中、勇者国のダンジョンの1階にクロエとミリアとノア、そして大勢の女性の姿があった。 


 国の重役3人の周りを取り囲む女達は、全員がミリアお手製の防具に身を包み、ノアが作った銃を手に持つ。

 ネズミ1匹入り込めないほどの張り詰めた空気が、彼女たちを包んでいた。


「全員に武器と防具は行き渡りましたか? 火薬なども忘れないように気を付けてくださいね」


「そうね、準備は大事よー。向こうに行ってから忘れ物に気が付いても遅いからね。

 今のうちにお手洗いも済ませておいた方が良いわよー」


「……お姉ちゃん。さすがに、お手洗いの時間はまでは無いです」


「あら、そぉなの?」


 戦闘直前の緊張からにじみ出る張り詰めた空気の中で、突然始まった姉妹の漫才に、周囲からはクスクスっと笑い声が漏れる。


「最終確認、終わった?」


「うん。こっちは大丈夫だよ。

 クロちゃんも大丈夫?」


 もちろん、と頷いたクロエが、一度だけ周囲を見渡した後で、はじめるよー、と宣言してから、体内に眠る魔力を高めていく。


「コアちゃん。サポートよろしくね。

 魔力さん。ここに居るみんなを遠くに連れて行ってほしいな。お願いね」


 そして、いつものように、お願いごとのような詠唱を唱えたクロエは、体内から抜け出る魔力の量を肌で感じながら、この場に残す仲間に視線を送る。


「それじゃ、行ってくるね。

 戦果を待っててよ。ノアお姉ちゃん、ミリアお姉ちゃん」


 そんな言葉を残して、クロエと大勢の女達が光に包まれ、その姿を消し去った。


 金属の擦れる音が響いていた洞窟内が、急激に静まり、その場にはノアとミリアだけが残された。




☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




 移動魔法を終えたクロエたちが、地上を目指して無機質な階段を上る。


 まぶしいほどの光の向こうに見えたのは、。所狭しと並んだ太い木々。

 辺り一面が深い森の中だった。


「それじゃ、行くよー。私の後ろからついて来てね。

 わかってると思うけど、出来るだけ音を立てずに、だからね」


 クロエの言葉に、頭を下げることで返答した女性達がゆっくりと森の中を歩いて行く。


 邪魔な枝を避ける作業ですら、緊張で心臓が張り裂けそうになる。


 そうしてゆっくりと進み続けた彼女たちは、目的の物を見つけ出す。


「……うまくいったようですね」


「……ここからが、本番だよ」


 ほんの数メートル先に、国王軍の後ろ姿が見えていた。


 目の前には無防備な敵の姿があり、自分達の手元には勇者から受け取った武器がある。そんな状況で行う作業は1つしかない。


 筆舌しがたい緊張感を感じながらも、クロエは目線だけで味方に合図を送り、女性たちを一列に並ばせた。

 もし気付かれでもしらと思うと、風に揺れる木々の音が彼女達の心臓をいじめ続ける。


「――撃って!!」


 時間にしてたったの数分。

 永遠に続くかと思われた静寂が終わった。


 時折風に乗って流れてくる王国兵達の会話からタイミングを計り、クロエが叫ぶ。


 100丁が一斉に火を吹き、敵兵に己の存在を知らしめるかのように、盛大な音を叩きだした。


 周囲に潜んでいた動物達が一斉に騒ぎ始め、鳥達が大空へと逃げ去る。


「何事だ!? ……背後に、伏兵!?」


「敵は森の中だ!! 食料を守れ!! 火をつけられるぞ!!」


「衛生兵!! 子爵様が負傷された!! 衛生兵!!」 


「馬が暴れてる!! 誰でも良い、手を貸してくれ!!」


「もうだめだ。俺達はおしまいだー」


「おい、邪魔だ!! そこを退け!!」


 本拠地で戦況を見守っていた兵は、2000人を超えていたものの、クロエたちが起こした騒ぎは、収まるどころか拡大するばかり。


 もともとの士気の低さに加え、クロエ達が軍上層部のテント目掛けて銃を発射したために、命令系統が酷く混乱していた。


 もし仮にクロエ達の姿が見えていたのなら、その人数差から、それほど酷い結果にならなかったのだが、クロエ達は森の中から、銃の先だけを出して撃っている状況だ。


 噂に尾が付き、ヒレが付き。最終的には、勇者国の伏兵1万人が未知の魔法を操って攻めてきた、と実しやかに叫ばれるようになる。


「うん。いい感じ。それじゃ、2射目装填しちゃって。

 これ撃ったら、そのまま撤退だからね。ちゃんとついてきてね。――撃って!!」


 混乱し、走り回る人々に向けて放たれた鉛の玉。

 それが数十人の命を刈り取り、王国兵の混乱に拍車をかける。


「親衛隊もめちゃくちゃにされてる。

 ……おしまいだ。俺達は、おしまいなんだ」


 どうやらサラの作戦も上手く機能したらしく、壁へと進軍していた近衛兵達も総崩れの様相を呈してきた。


「うん、十分かな。

 よーし、急いで帰るよーー」


 大混乱の戦場を眺め、満足そうにうなずいたクロエは、即座に反転して来た道を引き返す。

 

 クロエ達の仕事は、敵を混乱させることと、サラの作戦が失敗に終わったときの保険だった。

 そのどちらとも成功した今となっては、その場に留まる必要など無い。


 いくら銃という強力な武器があろうとも、この人数差を埋めることなど出来るはずが無かった。


「お兄ちゃんに良い報告が出来そうだね」


「そうですね。勇者様もお喜びになられますよ」


 その後、クロエ達が引き起こした混乱に加え、サラが鉄壁を幾度も破ったことが決め手となり、王国軍は敗走を開始する。


 ほどなくしてダンジョンから勇者国へと戻ったクロエは壁の上にのぼり、誰も居なくなった戦場を眺めて、ほっと息を吐きだすのだった。


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