王国兵の朝
勇者国を攻めはじめて2日目の朝。
王子専用の豪華なテントでは、眠たい目を擦っている第2王子の周囲に、各部門のトップ達が青い顔をして膝まづいていた。
「それで? 兵の3割が逃げたって本当?」
「はい。早朝の点呼時に姿を現さず、寝床を確認してももぬけの殻だったとのこと。
どうやら、夜の間に脱走したものと思われます」
勇者による言葉で、国王軍の士気は低かった。
そんな中での、突撃部隊全滅。
一般兵からすれば、悪夢だった。
突撃を命じられた者は、ただ前へと進み、いつの間にか死んでいた。
勇者国に亡命しよう、大量の市民を受け入れている勇者国なら、自分達も受け入れてくれるはずだ。
そんな考えが、後押しをした。
「ふーん、そうなんだ」
そんな状況を知ろうのも、第2王子の反応は淡泊なものであった。
まるで興味が無いと言わんばかりに、目覚め用の白湯を口に運ぶ。
「それで? 近衛兵の脱走者は?」
「近衛兵ですか?
近衛兵に限った数字ですと、17名と聞いております」
「うん。なら、大丈夫だね」
減りこそしたものの、自分の直属は大半が残った。その事実だけを確認した第2王子は、満足そうな表情で無邪気に笑う。
大量に集めた兵は、場を盛り上げるための存在であり、もとから戦力として期待などしていない。
一般兵達は、自分の活躍を目撃する観客に過ぎない。
ゆえに、多少減ったところで、慌てるようなことではなかった。
「それじゃ、本番を始めるよ。
僕達だけで陥落させてくるから、美味しい物作って待っててよ」
「……王子だけで行かれるおつもりですか?」
「うん。残った近衛兵と僕で行ってくる」
近衛兵の数は200人。
王子を含めたとしても、勇者国を守る兵士よりも少ない。
いくら選び抜かれた精鋭である近衛兵でも、少ない数での城攻めなど不可能だ。
だが、王国のサラブレッド、鉄壁の王子がそこに同行すれば、その不可能も可能になる。
「無能王子とは違うってところを見せるには、良い機会でしょ」
「…………かしこまりました」
勇者の告発により信頼を失い、兵の脱走も防げなかった貴族達にとって、戦場での活躍こそが唯一の希望だった。
それ故に、出世の機会、信頼回復の機械が無い王子の作戦を聞き、青かった顔がさらに悪化する。
しかし、だからと言って、勇者国の守りの強さを見せつけられた彼らは、自分に任せて欲しいとも言えない。
ゆえに彼らは、頭を下げ続け、王子の足音を聞くしか出来なかった。
「それじゃみんな、攻め込むよ。
作戦はいつも通りでよろしく」
「「「王国に勝利を!!!」」」
王子が騎乗し、近衛兵達の中心で命令を下す。
こうして、戦い2日目の幕が開いた。