表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/117

たくさんの勇者

 おにぎりを使って、兵を鼓舞した翌日。


「うん。完全に包囲されたね。さすが、4000人もいるだけのことはある」


「櫓からも包囲されたって連絡が来てるよー。見えるところすべてに敵が配置されたんだってー」


「予想はしてたけど、実際に見ると嫌な光景だよな……」


 勇者国の周囲は、王国の兵士で溢れかえっていた。


 敵を発見するために森を切り開いて作った平原は、王国の旗が至る所に掲げられている。

 高いところから石を投げれば、誰かに当たりそうな密集具合であり、発見するとかそんなレベルの話ではない。


 見渡す限りが敵だった。


 もし俺が王国の王子ならば『こんな壁など、数の前には無意味よ、わはは』と高笑いしているのだろうが、攻められる立場では苦笑すら出てこない。


「みんなに動揺は、…………ないみたいだな」


「うん。みんな元気だったよ。

 補給も問題ないってミリアお姉ちゃんが言ってた」


「了解」


 そんな状況にあっても、勇者国の兵士は高い士気を保っていた。

 

 壁の上では、弓を手にした住民達が『王国の連中、早く来ないかなー、俺が新しく得た力を見せつけてやるのになー』『バーカ、俺が解放した力で倒すんだから、お前の取り分はねぇんだよ』『いやいや、吾輩が天より授かった力を使って、1人残らず滅する予定である』と笑いあっている。


 無論、おにぎりを食べて新たな力に目覚めたり、能力を開放出来たりした人などいない。食べたのは、普通の美味しいおにぎりだ。


 それをわかっていながら、人々は自分を騙して笑い合っている。


「さてさて、敵さんの様子は、っと。

 うん。予定通りだな。…………ちょっと、やり過ぎたかもだけど」

   

 そんな和気藹々とした雰囲気の俺達とは異なり、壁の向こう側に陣取った王国の兵士達は、全体的にギスギスとした雰囲気が漂っていた。


 時折聞こえる声も、談笑には程遠い。

 

「……おい、今、俺の足踏んだよな?」


「あぁ? 足を踏んだくらいでなんだよ? お前、俺の嫁となにしてたんだよ?」


「だから、なにもしてねぇ、って言ってんだろう、この禿隠し野郎」


「はぁ? 俺、べつに禿てねぇし」


「嘘つけよ。勇者が名指しで、毛が薄いことを必死に隠してるってバラしてたじゃねぇか」


「はぁ? お前、あんな奴信じるの?

 お前さては勇者国のスパイだな!!」


「お前こそ、嫁と嫁とって散々言っといて、ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ。

 お前こそ勇者国のスパイだろ」


「おい、お前ら、うるさいぞ。すこし黙れ」


「「うるせぇよ、ロリコン野郎!!」」


「…………」


 ちなみに、この人達。3人とも冤罪です!! 無実です!! 

 悪いとは思いながらも、嘘の情報もばらまいていた。


 そんなギスギス状態は一般兵だけにとどまらない。むしろ、上層部の方がギスギスしていた。


 なにしろ、一般人とは違い、全員を徹底的に調べ上げてある。


 そんなメンバーが集まった会議は、まさに修羅場となっていた。


「それじゃ、君達の手勢だけで、勇者の首をとってきてね」


「「「…………」」」


「ん? 嫌? 嫌なら、それでも良いんだよ?

 ふらふらした蝙蝠さんたち」


 豪華なテントの中で、第2王子の前に跪く男が4人。それを8人の男達が片膝を地面につけて眺めていた。 


 第2王位の言葉通り、彼の目の前にいる男達は、第1王子にも良い顔をして取り入ろうとしていた者たちだ。

 ちなみに、第1王子派のスパイだった2人の男は、秘密裏に処刑されている。


「僕達は、勇者が逃げないように、周りを取り囲んでおくから。がんばってね」


「……かしこまりました」


「了解しました」


「はい」


「…………」


 王国側の作戦は、捨て駒を突っ込ませて、俺達の出方を伺い、本命が突撃する作戦で決まったようだ。


 裏切りの可能性がある者を俺達に排除させてから、本格的に攻めるのだろう。


 そうして、決戦の火蓋が切られようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ