ぼっち姫に召喚されて
「初めましてで悪いんだけど、ボクを助けてはくれないかな?」
「……は?」
それが、ぼっち姫との初めての会話だった。
事の起こりは、1時間前にさかのぼる。
ハローワークで求人情報をチェックしていた俺は、突然の眩暈に襲われた。
疲れているのかな、と思いながらも明日の食事のために必死に画面に噛り付いていたのだが、時を追うごとに辛さを増していく。
ついには吐き気も込み上げてきた。
急ぎ、トイレへと駆け込んだのだが、扉を開いたところから先の記憶がない。
そして気が付けば、動物でも入れるかのような小さな檻に入れられていた。
「もう一度言わせていただこう。助けてほしい」
目の前には、白衣のような服を着た女性が助けを求めて微笑んでいる。
まったく意味がわからない。
むしろ助けて欲しいのは、檻に入れられているこちらだろう。
「あぁ、申し訳ない。説明が不十分だったね。まずは、自己紹介からしよう。
ボクの名前はサラ。本当の名前はすごく長いんだが、気軽にサラと読んでくれて構わないよ。この国の第4王女ってことになっているね」
「…………」
目の前に居るサラと名乗った女性は、16歳程度だろうか。
まだまだ幼いが、顔立ちは美人だ。
肩まで伸びた薄い紫色の髪に、大きな胸。
高校の制服に着替えてもらって、図書室を背景に、メガネと本を装備してもらいたい。
本気でそう思う。
だが、そんな美しい彼女は、中二病の真っ最中らしい。
第4王女とか、中途半端なところが余計に痛い。
残念なような、逆に可愛いような……。
そんな複雑な心境を漂わせていると、彼女が大きく溜息を吐いた。
「そのような目をされて喜ぶような趣味はないと断言しても良いかい?
キミの名前を聞く前に、これまでの経緯を話した方が良さそうだね」
そういってサラが語り出した話は、驚くべき内容……、のような、ありふれているような。
一言でまとめると、異世界召喚系ライトノベル。
優秀すぎてドジを踏んだ彼女は、命を狙われている。
助けを求めて俺を召喚したらしい。
こうして、俺の異世界生活が始まってしまった。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
俺の目の前には、100円ライター程度の炎が4つ浮かんでいる。
それぞれが独自の意思を持っているかのように飛び回り、時には俺が閉じ込められている檻の中まで入って来た。
「お望みの魔法なのだが、どうだろう。これで信じてもらえただろうか?」
「……あぁ、十分だ。疑って悪かった」
あまりにも中二設定を続けるサラに対して、魔法とやらを使ってみてくれと、軽い気持ちで言った結果、こうなった。
彼女の言葉を全面的に信じた訳ではないが、ちょっとだけ真面目に聞こうと思う。
「そうか、信じてくれてありがたく思うよ。時に、私の話は覚えているかい?
まさかとは思うが、聞き流したりはしていないだろうね?」
「い、いや。大丈夫だ。
あれだろ? 王様が亡くなって次期王を決めなきゃいけない期間に、サラがすごい魔法を作っちゃって、自分が王になりたい兄達から命を狙われている。……そんな感じだったよな?」
サラの言葉通り、殆ど聞き流していたのだが、あまりにも中二設定のテンプレートと言って差し支えない話しだったので、大筋だけは耳に入っていた。
「うん、まぁ、若干ニュアンスは違うが、そういう事だね。
先にも話したように、異世界から召喚したキミに助けて欲しいんだ。
……っと、そうだね。だいぶ遅くなってしまったが、キミの名前を教えてもらえるかな?」
「あー、俺は大山春樹。呼ぶときは春樹でかまわない。27歳無職、毎日ハロワ通ってます。……こんな所で良いか?」
向うが姫だと名乗ったので、仕方なく無職だと名乗る。……姫って職業なのだろうか?
「ハルキか。了解したよ。
だが、すこしだけ間違いがある。キミは27歳じゃなくて16歳だ」
「……は?」
「キミは今日から16歳になったんだよ」
クスリとも笑わずに、サラがそんな言葉を口にした。
何気なく手元に視線を落とす。
彼女の言葉を後押しするかの様に、ツヤやハリが復活してる自分の肌が見えた。
「あー、あれか。異世界転移プラス若返りのタイプのやつね。了解、了解」
もうこうなりゃなんでも有りだ。
なんでも受け入れてやろう。
「あとはあれか? 最強な感じの力とか能力とか、チート的なものでも貰えるのか?」
俺がそう言うと、サラの顔に同様の色が浮かんだ。
「未来予知系列の能力はないと記憶しているのだが? ボクの選定ミスかい?」
顎に手を当てたサラが、真剣に悩みだした。
占い師じゃあるまいし、ニートにそんな事が出来るわけないだろ。中二病のテンプレート過ぎるからだよ!!
「……まぁ、いいや、話を戻すよ。
キミには、召喚魔法を付与させてもらったよ」
「召喚魔法……。それで? ドラゴンとかを召喚して、姫様を守ればいいのか?」
「いや、鍛えないと何も呼び出せはしないね。
キミには妹を買いに行ってほしいんだ」
「……は? 買いに行く?
助けに行くじゃなくて?」
「あぁ、正確に言えば、義理の妹だね。
ボクのじゃなく、キミの妹を購入するんだよ」
「…………」
分かりかけていた話が、突然にして行方不明になった。