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桜の中の好敵手2




 机に突っ伏しながら魔王を見ていた私にそういえば、とはるかが話を切り出した。


「今週の土曜日花見しねー?」

「美坂公園?」

「そー、弁当は持ち寄りで」

「いいねー! 満開じゃないけど、結構咲いてそうだしね」


 私とはるかは携帯を出して、予定をスケジュールに入力していく。


「時間は?」

「起きれないから、昼前ギリギリで!」

「じゃあ、11時半くらいにしよー」

「よしっ」


 ポチポチ携帯に入力していた私は、ふいに視線を感じて魔王の方を見た。

 魔王が、目をキラキラさせて私を見ている。

 心なし口元が笑っている。


「どうし……魔王、てめーは呼ばないからな!」

「何故だ!」

「てめーが来たら面倒くさくなりそうだからだよ!」


 私の視線につられて魔王を見たはるかが嫌そうな顔をした。

 キラキラした顔を一瞬で変えて、魔王の眉がくいっとあがる。


「花見とやらに、連れて行け」

「やだっつーの」

「……貴様になどに言ってないわ!」


 はるかが肩を竦めて私を見る。

 私もあんまり魔王は連れては行きたくない。


「どうしよ?」

「来たらぜってーめんどくさい」

「だよね。ってことで、魔王様は御遠慮下さい」

「貴様……っ」


 魔王がわなわなしている。

 今やつり上がった瞳で私たちを見ている。

 私ははるかをみて苦笑いする。

 これ以上断ったら私の頭が鉛筆のような最後を迎えそうで怖い。

 行きたい魔王と絶対連れていきたくないはるか、どちらかと言えば連れていきたくないけどまだ死にたくないから連れていかざるをえないような気がする私、困った。

 そんな時、いろんな意味で私の救世主が来た。


「連れてったらいいじゃあん」

「あ、町田」

「……貴様は? まあ、いい。良いことを言った」


 いつの間に来たのか町田君が、私の横にいた。


「あれ、町田君。話聞いてた?」

「俺も誘われてんの。まあ、魔王と遊んでみたいっていう気持ちもあるけどねえ」

「魔王様と呼べ」

「はいはい、魔王様」

「町田、こいつ連れてったら大変なんだからなー」


 はるかがやれやれと肩を竦めて、ため息をついた。私はどうやら魔王を連れていく方に話がまとまりそうな空気に、心中で安堵の息を吐く。


(……私の命の危機は過ぎ去った)


「ま、なんかあったら魔王様は俺が見るよ」

「いや、町田君、危ないよ」

「大丈夫、だいじょーぶ! ね、魔王様」

「当たり前だ」

「不安しかねーんだけど。大丈夫かよ、町田あ?」


 はるかと同じく私も不安だ。不安しかない。

 町田君を心配そうに見る私と面倒臭いことになりそうだと嫌な顔をしながら見るはるかに、にっこり笑ってウインクをひとつ。


「だいじょーぶ! とりあえず、みんなで花見を楽しもう。ちなみに俺は、サンドイッチ持ってくわあ」

「あ、こら町田! サンドイッチは私が作りたかった」

「無理だねえ。俺、サンドイッチしか作れないもおん」

「私だって、似たような感じだっつーの! こら、逃げんじゃねー! 町田、相談するぞ!」


 ひらひらと手を振って言い逃げした町田君を、はるかが怒鳴りながら追いかける。

 はははは、なんて町田君の笑い声と、はるかの「てめー、こらー! 逃げんじゃねー」という怒鳴り声が、ばたばたと廊下を走る2人分の足音と共に遠ざかっていった。


「騒々しい奴らよ。……町田、といったか」


 魔王が町田君とはるかが出ていった教室のドアを見ながらポツリと呟いた。

 私はそんな魔王をちらりと見てから、机の横に掛けていた鞄からお弁当を取り出した。


(やっとごはんが食べれる。お腹空いたあ)


 4時間目が終わってから、魔王とのあれこれや花見のあれこれでお昼ご飯を食べるのが遅くなってしまった。それじゃなくてもお腹の虫が鳴る1歩手間だった私のお腹は、落ち着いてお腹が空いてたのを思い出した途端、きゅうと鳴った。


 私がお弁当を食べ始めてから少しして、魔王はドアから視線を外して私を見た。


「花見とやらの件だが」

「はんへふは?」

「……飲み込んでから喋れ、阿呆が」


 急に話しかけられたせいで、つい食べ物が入ったまま返事をしてしまったら魔王に虫けらを見るような酷く冷たい瞳で見返された。

 ごくり、と飲み込んで箸を置く。


「なんですか?」

「弁当を持ちよると、あやつと話していただろう。我も何か持っていった方が良いのだな?」


 魔王の弁当。恐ろしい響きだ。

 毒とかゲテモノとか毒とかそんなものしか想像できない。

 しかも全体的黒かったり紫だったり、溶けてたり悪臭がしたり。

 でも、持ってくる気があるような魔王にいらないなんて言えない。私は少し考えてから返事をする。


「え、っと……持ってきたいならいいんじゃないかと。魔王様なら、きっと私達と被らなさそうだし」

「そうか、わかった。せっかくの花見とやらだ、魔族領の貴重な品を厳選して持っていくとしよう」

「食べれるよね?」

「お弁当とは、食べ物を箱に詰めるのだろ? 貴様の、それのように」


 魔王は私のお弁当箱をくいと顎で指し示した後

 、口角をあげて私を見る。

 私はお弁当を見て、魔王を見て頷いた。


「なら、任せておけ。魔族領のとっておきだ。そこらの人間など一生掛かっても食べることの出来ぬ食材よ。死ぬほど喜ぶがいい」


 どうしよう、食べたら死ぬんじゃないだろうか。ほんとに。

 私は魔王のお弁当にものすごい不安を抱きつつ、「それは、楽しみ」と引きつった笑顔で返事をした。

 魔王が嬉しそうに笑ってから、再びシャープペンを握る。花見の話で途中になってしまったが、魔王は4時間目のノートを写している途中だったのを魔王も私も思い出したのだ。

 すっかり書くのに慣れたのか、魔王はスラスラとノートを写していく。

 邪魔するのも悪いので私は自分のお弁当を食べる作業に戻った。


(そういえば……魔王がご飯食べてるところ見たことないかも)


 口の中のものを咀嚼しながら、魔王を横目で見る。今もノートを取っているし、入学してから今まで魔王は昼休みになると何が楽しいのかニヤニヤしながらお昼ご飯を食べる私を見ていた。


(ごはん食べないのかなあ?)


 お昼は? なんて聞いたことなかったなあ、て思う。ただ、魔王に見られてるのが落ち着かなくてさっさと食べてから、魔王の話し相手になっていた。


(何食べるんだろう?)


 ふと気になった疑問を、魔王に訪ねようと口を開きかけて、閉じる。

 真剣な眼差しでノートを写す魔王。

 私のノートと自分のノートを交互に見て、時々思い出すように明後日の方を見てからまた手を進める。


(今度でいいか。なんか魔王頑張ってるし)


 ふ、と自然と笑みがこぼれた。

 数分間、魔王がシャープペンで文字を書く音をBGMに私はゆっくりご飯を食べる。


「町田にサンドイッチ取られた、くそー!」

「……喧しいやつが戻ってきたな」


 勢いよく空いた教室のドアと入ってきたはるかの声にノートから顔をあげて、魔王は私を見る。


「貴様も、早く弁当を食べるがいい。休み時間のうちに終わらぬぞ」


 魔王はノートを閉じると、そう言って私に差し出した。私はノートを受け取りながら「そうする」と笑う。


(私のシャープペン……やっぱりそうなるのか)


 私は魔王がシャープペンをしっかり自分の学ランの胸ポケットにしまったのを見逃しはしなかったが、あえて何も言わずお弁当に入っていた卵焼きを1つ口の中に放り込んだ。



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