花の狼
「しまった……」
こんな山奥まで来てしまった。帰り道も分からない。
ええと、確か、友達と「白い幽霊」を探していて、にあちこちを歩き回っていたら……
……やめよう。考えていても仕方が無い。
僕は通ったであろう道を進んだ。
周りは大きな木で囲まれ、足元には雑草が生い茂る。
春も過ぎ去り、初夏の匂いがこの山にやってきているように感じられた。
しばらく歩き続けたが、見覚えのある場所に出ることはできなかった。
額から汗がふき出す。目に入る前に汗を拭う。
道端に座って一休みをする。ラムネが飲みたい気分だが、それは山を降りてからの話だ。
直接日光が当たらない分、暑さからは避けられているのが幸運かもしれない。
「おや?」
横に目をやると、そこには鮮やかな黄色の花が咲いていた。春はもう終わったというのに珍しい。
さらに、その先に目をやると、今度は凛とした藍色の花が咲いていた。
咲くタイミングを失って、たった今咲いているのだろうか。
顔をあげると、微かな白い影が奥のほうへと消えていった。
僕を捜しているのなら、早く会ったほうがいい。
僕は立ち上がって、白い影が見えた場所に向かった。
しかし、まだ昼間だというのに懐中電灯を使うなんて用心深い。
「え?」
そこには、先ほど咲いていた黄色の花が咲いていた。
その傍には、動物のような足跡があった。
僕の頭の中には、この山に来た目的が浮かんでいた。
僕は鮮やかな花を探し、その花が並ぶ道を辿っていった。
黄色、藍色、桃色、白色。
その鮮やかな花が咲く間隔がどんどん狭くなっていく。
いつの間にか僕は走り出していた。
あの「白い幽霊」の正体を、どうしても知りたかった。
気付くと、僕は暗い森の中を抜け出していた。
これまでに見たこともない花畑の中にいた。
風に花びらは舞い踊り、別の世界に入り込んでしまったようだった。
僕は辺りを見回した。「白い幽霊」はどこだ?
そして僕は見つけた。
花畑から森へと続く一筋の花道を。
これを追っていけば、「白い幽霊」に会える。
僕は急いで森へと走った。
森の中に入ってからは、足元に気をつけながら歩みを速めた。
花が咲く前の、つぼみのものが多くなったからだ。
どんどん進むに連れて、花はどんどん小さくなる。
つまりそれは、「白い幽霊」に近づいている証拠だ!
そして、花は小さな芽がにょきにょきと出てくるまでになった。
「白い幽霊」まであと少しだ!
そう思って僕は顔をあげると、また森を抜け出していた。
「ほほう、そんなことがあったのか」
僕はおじいちゃんにすべてのことを話した。
「『白い幽霊』にはな、こんな話もあるんだ」
「え? なになに?」
「それはな、迷った人を見つけると、動物になって花を目印にして人を導いてくれるんだ」
「へえ~」
「きっとお前を、導いてくれたんだろうよ」
おじいちゃんはガハハと豪快に笑って、ラムネをぐいっと飲みこんだ。
僕はまたあの「白い幽霊」に会いたい気持ちが大きくなった。
読んでいただき、ありがとうございました。