表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ひだまり童話館 参加作品

花の狼

作者: 朝永有

「しまった……」

こんな山奥まで来てしまった。帰り道も分からない。

ええと、確か、友達と「白い幽霊」を探していて、にあちこちを歩き回っていたら……

……やめよう。考えていても仕方が無い。


僕は通ったであろう道を進んだ。

周りは大きな木で囲まれ、足元には雑草が生い茂る。

春も過ぎ去り、初夏の匂いがこの山にやってきているように感じられた。


しばらく歩き続けたが、見覚えのある場所に出ることはできなかった。

額から汗がふき出す。目に入る前に汗を拭う。

道端に座って一休みをする。ラムネが飲みたい気分だが、それは山を降りてからの話だ。

直接日光が当たらない分、暑さからは避けられているのが幸運かもしれない。

「おや?」

横に目をやると、そこには鮮やかな黄色の花が咲いていた。春はもう終わったというのに珍しい。

さらに、その先に目をやると、今度は凛とした藍色の花が咲いていた。

咲くタイミングを失って、たった今咲いているのだろうか。

顔をあげると、微かな白い影が奥のほうへと消えていった。


僕を捜しているのなら、早く会ったほうがいい。

僕は立ち上がって、白い影が見えた場所に向かった。

しかし、まだ昼間だというのに懐中電灯を使うなんて用心深い。

「え?」

そこには、先ほど咲いていた黄色の花が咲いていた。

その傍には、動物のような足跡があった。

僕の頭の中には、この山に来た目的が浮かんでいた。


僕は鮮やかな花を探し、その花が並ぶ道を辿っていった。

黄色、藍色、桃色、白色。

その鮮やかな花が咲く間隔がどんどん狭くなっていく。

いつの間にか僕は走り出していた。

あの「白い幽霊」の正体を、どうしても知りたかった。


気付くと、僕は暗い森の中を抜け出していた。

これまでに見たこともない花畑の中にいた。

風に花びらは舞い踊り、別の世界に入り込んでしまったようだった。

僕は辺りを見回した。「白い幽霊」はどこだ?


そして僕は見つけた。

花畑から森へと続く一筋の花道を。

これを追っていけば、「白い幽霊」に会える。

僕は急いで森へと走った。


森の中に入ってからは、足元に気をつけながら歩みを速めた。

花が咲く前の、つぼみのものが多くなったからだ。

どんどん進むに連れて、花はどんどん小さくなる。

つまりそれは、「白い幽霊」に近づいている証拠だ!

そして、花は小さな芽がにょきにょきと出てくるまでになった。


「白い幽霊」まであと少しだ!

そう思って僕は顔をあげると、また森を抜け出していた。


「ほほう、そんなことがあったのか」

 僕はおじいちゃんにすべてのことを話した。

「『白い幽霊』にはな、こんな話もあるんだ」

「え? なになに?」

「それはな、迷った人を見つけると、動物になって花を目印にして人を導いてくれるんだ」

「へえ~」

「きっとお前を、導いてくれたんだろうよ」

 おじいちゃんはガハハと豪快に笑って、ラムネをぐいっと飲みこんだ。

  

 僕はまたあの「白い幽霊」に会いたい気持ちが大きくなった。

読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 白い幽霊は、昔森で迷子になった子どもかも知れないと思いました。 その子どもは、白い幽霊になって、迷子になった子どもを助けているのでは? 色とりどりの花と、白い幽霊! 幻想的な風景と、主…
[良い点] 幽霊を追いかけて迷子……花に導かれて戻ることができる……。白い幽霊はおばあちゃんか誰かなのかなぁ、なんて妄想してみたりして♪ とても幻想的な素敵なお話ですね♪
[良い点] 花の狼 拝読させていただきました。  白い幽霊とそれに関連した花の変化。とても幻想的な雰囲気を持つ物語ですね(^^♪ 白い幽霊が結局何だかわからないところも想像力を刺激されていい感じだな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ